実体験[5]
ここで再び体験談です。
館主が大学2年生の時、祖父が亡くなった。病気ではなく老衰、まあ大往生ってやつですな。朝ベッドで寝ていて起きないから不審に思った母親が見に行ったら、亡くなっていたんです。もちろん不審なところがないか、警察や病院に調べてもらったが他殺や毒物などの疑いもないし「老衰による死亡」という診断になった。
館主は既に実家を出ていて一人暮らしをしていたものだから後になって母親に聞いた話しですが…。
それでお葬式になったので、飛行機で実家に帰った。お葬式も無事終わり、老衰で大往生だったので悲しいというよりは、親戚揃って送り出すといった雰囲気で事は進んだ。
そして火葬。やはり出棺の時は、そして遺骨を拾った時は悲しみで涙がでた。
その後実家に泊まってから下宿に帰ることになっていたので、二階のベッドで寝る事になった。北海道のトタンでできた三角屋根の家だったので、三角のスペースを利用して、その下に畳を置いた上に布団を敷いた作り付けのベッド。
つまり寝ると傾斜のある天井が、割と近くに見えるという作りだったのだが、夜中なかなか眠れなくてウトウトしたままでいると気配がしたので目を開けた。やはりその夜はある種の不気味さがあったので──そうですよな、人が一人死んでいるのですから…電気をつけっぱなしにしていたら、天井に祖父の顔がある。そして生気のない顔でじっと見ている。
じーっと、一言も発せずじーっと…。
怖くはなかった、でも何か驚いているようでもあり、不思議がっているようでもあり、困惑しているようでもあったが、顔の輪郭も目も鼻も口も髪の毛もはっきり見えていた、顔だけですが…。
ああ、肉体がどこにもないので困惑しているんだと思ったそうです。そして──
「じいちゃん死んだんだよ」
と声をかけると消えていった。
そこまで行き着くのに結構時間がかかったが、どのくらいだったのかは見当もつかない、でも、消えるまで動かずそこにいたのです。
幽霊話や写真に写るオーブ話しはいくらでも聞いた事があったし、テレビでもやってたし、現実に写真を見たこともあったが、これほどまでにリアルな体験は始めてだったんですな、でも恐怖は一切感じなかったそうだ。
これが錯覚や思い込みだと言われると、自分は頭がおかしくなったと思えるくらい現実的でリアルな体験だった。
幽霊は良くこの世に未練や怨みを残してあの世に行けなかった、浮遊霊が姿を現すといいますが、この場合は違った、だって死んだんだよって言ったら居なくなって昇天したんですからな。
一つの通過点だっただけの事です。
その後館主はこの出来事にどういう意味があったのか知りたくなった。そこで調べたのは「老衰」ってなにか、って事です。
まあ、病気で腫瘍や細菌、ガン細胞の増殖によって、どこかの臓器が劣化して、他の臓器に影響を及ぼし脳に酸素がいかなくなったり、心臓が止まったり、生命活動が維持できなくなって死亡するのは理解ができる。
事故で臓器が破壊されたり、出血多量でショック死なんていうのも、物理的要因によって死亡するのも同じです、理解できる。
が、「老衰」ってなんでしょう?
これも後で話しを聞いたのだが、前の夜は普通に話しをして、普通に食事を食べて、普通に排泄して、普通に寝たらしい。そして朝になっても目をさまさなかったんですぞ。眠るように死んだ、病気の要因も一切ない。窒息でもない。心臓麻痺でもない、それなのになんで、心臓が止まり脳波が止まり生命活動が終わったんだ、何も苦しまず。
機械と同じように油をささないと錆びついて動かなくなるのは理解できる。それが突然一夜のうちに起こったのが全く理解できなかったのですな。
書物やインターネットを屈指して(死亡してから大部経って調べたのでその時はインターネットはあった)そして分かったが新たに疑問がわいた。
「老衰とは生物学的・医学的には加齢による老化に伴って個体を形成する細胞や組織の能力が低下することである」定義はわかるが、ここでも疑問が発生する、どうして能力が低下するんだ、前夜は普通だったのに一夜にうちにどうして一気に低下したんだって事。本来はゆっくり機能が低下して、食事が食べれなくなり…と段階を踏むらしい。
病気じゃなかったんだから、前夜まで普通だったんだから、おそらく誰も説明しきれないでしょう、つまり定義はあるが、祖父のケースはどれもあてはまらないんだな。
──お客様、館主の祖父はどうして死んだのでしょう?