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第六話 淘汰の剣

 咆哮するレヴィアタン。

 先程までとは存在が異なり、悪魔特有の障気が肌をチクチクと突き刺す。

 後ろでばたりと愛叶が倒れる。

 当然だろう。勇者である俺でさえ、レヴィアタンの障気は重い。


「エルミカ。愛叶(えと)を安全な所に―――――」

「出来るわけがないだろう?」


 やはりか。チビには流石に無理だよな。

 かといって時間をくれるわけがないだろう。悪魔だし。

 速攻で片を付けるしかない。

 大地を蹴り、その反動で弾丸のようにレヴィアタンに向け駆けていく。

 その勢いと聖力を乗せた拳を力任せに殴りかかるが、顎をくいっと引き、難なく回避される。

 レヴィアタンに背を向けるような体勢になったが、左腕の肘を勢いに乗せたまま思い切り引いた。

 エルボーはレヴィアタンの顔面に叩き込まれたが、ダメージを受けている様子ではなかった。

 舌を打ち、身を退くとレヴィアタンの鋭利な爪が襲う。

 必死に爪を両手で受け止めるが、レヴィアタンの腕力に敵わず、首を掴まれてしまい、レヴィアタンの腕はぐんぐんと伸び、俺を地面に叩きつける。

 内臓の中のものが一瞬口から吐き出されるような忌避感の後、意識が暗転する。

 レヴィアタンは俺を掴んだまま地面に引き摺り、壁に激突した。


「クハハハハ! 弱い弱い!

 今まで相手にした勇者の誰よりも弱いぞ!」


 レヴィアタンは折角掴んだ俺を開放し、伸ばした腕を元に戻した。

 余裕綽々とした態度で俺へと歩み寄る。

 ダメージはとてつもなく大きい。

 今までの悪魔がかわいいと思える程の強さだ。


「奴は七体いる大罪の悪魔。

 やはり君に敵う相手ではなかったか」


 と、エルミカは語った。

 それを聞いて憤りを覚える。

 それを最初から聞いていたら、逃げることだってできたかもしれない。

 しかし、今はもうそんなことを言っている場合ではないし、もう逃げ切ることは不可能なところまで陥っている。


「君もそろそろ覚悟を決めた方がいい。

 これ以上は彼女が保たないよ」

「なに?」


 愛叶を見ると、顔が真っ青になり、体が痙攣しているような症状が現れていた。

 俺が見てもわかる。残された時間は、短い。


「何をごちゃごちゃと話している!」


 レヴィアタンの突進をかろうじて受けとめる。

 しかし、追撃である膝蹴りに対応することが出来ず、それを腹部に喰らってしまう。

 このままでは勝てないと理解するには充分すぎた。

 吹き飛ばされた俺はまたも壁に激突するが、なんとか持ち堪え、すぐに立ち上がる。

 勇者といえばなんだろう。そんな疑問がふと舞い降りた。

 それについての答えはわからない。というか、そんな現実味のないものに答えなどあるのだろうか。

 しかし、今のこの現状では、その答えが打開策となり得る気がする。

 俺はまだ死ねない。愛叶も死なせやしない。エルミカはどうでもいいけど。

 強さなどいらない。

 ただ守れればいい。

 愛叶を、自分を、なによりも日常を―――――

 そのためにすべきことは、目の前の敵を倒す事だ。

 今の俺では、力があまりにも足りない。

 勇者ならば――――――


「己の無力を知る事は、必ず次へと繋がる。

 解き放つんだ、君自身の聖力を」


 エルミカに促されるまま、俺は右手を空を掴むように上げた。

 その瞬間、全身に電気のようなものが走り、右手の平にモノを掴むような感覚がした。

 そこに俺から放出されていった光が集まっていき、象っていく。

 その形は、剣だった。

 剣の柄をしっかりと握り直し、思い切り引き抜いた。


「勇者としての自覚と覚悟が、君に新たな力、『勇者の武器(ブレイバー)』を与える」


 白色の玉を中心に、身の丈程の大きさの両刃の大剣が伸びており、剣の腹には文字が掘られているが、なんて書いてあるかはわからない。しかし、明らかにただの剣ではない。

 不思議と力が溢れてくる。これがブレイバーなのか。


「ただデカいだけの剣を得て、もう勝った気分か?

めでたいな!」


 レヴィアタンのに黒い魔力が宿り、その魔力を指先から放った。

 計五発。それを一発も余すことなく、剣の腹で受け止め、レヴィアタンに弾き返した。

 さすがのレヴィアタンもこれには面食らい、大慌てで魔力弾を弾いた。

 俺に剣の心得はない。しかし、頭よりも先に体が動き、最善の行動をしている。恐らく、この剣が導いているのだろう。そんな気がする。


「まさかそれは………『淘汰(とうた)の剣』…………!?」


 素知らぬところでエルミカが驚愕している。『淘汰の剣』。それがこれの名前か。


「ふん、特別な剣らしいが、使いこなせているようには見えないな」

「………………まぁ、今初めて触ってるからな。

 こいつだけでお前を倒せるって思い上がる程馬鹿じゃないつもりだよ」


 そう、まだ足りない。俺はまだ一歩足りていない。

 勇者としての自覚と覚悟、か。自覚はしていても覚悟などしていない。戦うなんてやはり嫌だし、他人のために傷付くなんて馬鹿らしい。

 けれど、倒さねばならない奴がいることはわかっているつもりだ。人の感情を(もてあそ)び、人に仇なすこの悪魔は、生かしておくわけにはいかない。

 まだ覚悟とは程遠いかもしれない。認められなくてもいい。ただ、この悪魔を倒す力を。一瞬でもいい。俺にくれ。

 何よりも、愛叶を守るために!

 その時、『淘汰の剣』の刀身が開いた。

 『淘汰の剣』は俺の聖力を食らい、みるみる力を蓄えていく。


「うおおおおおおおおおおおお!!

覚悟しろ、レヴィアタン!」

「ほざけ!」


 目にも留まらぬ速さで一気に間合いを詰めるレヴィアタンだったが、俺は辛うじてそれを視認することができた。

 レヴィアタンの鋭利な爪を剣で弾く。先程までレヴィアタンの速さに全く反応できていなかった為に、攻撃を交わしたことに驚愕の表情だった。

 隙だらけのレヴィアタンに大振りの斬撃を放つ。

 レヴィアタンの右腕は容易く切断され、怒りで咆哮する。


「もう終わりだ。笹屋を解放しろ」

「認めるかぁぁぁあああああああ!!」


 一閃。

 苦し紛れに俺へと飛び付こうとしたレヴィアタンを胴体真っ二つに断ち切った。

 切断部には俺の聖力をありったけ流し込んだ。奴はもう動く事はできないはずだ。


「く………はははは………。

 後悔しろ。ここで死んだ方がマシだったと………貴様は必ずそう思うだろう………」

「さあ、どうだろうな。

 俺は別に戦う気はないんだけどな」

「もう遅い………。

貴様は目を付けられた。抗うことは不可能だ………」

「よくわかんねえけど、もう消えろよ、お前」


 その声と共に、レヴィアタンは黒い塵となって消滅した。

 塵からは笹屋が現れ、五体満足であった。少しホッとした。真っ二つにしちゃったからね。

 笹屋も無事なようだし、問題は愛叶(えと)だ。


「………どうやら、かなり危険な状態だ」

「は?」


 エルミカから深刻そうな声を聞き、愛叶を抱き起こす。

 愛叶には意識がなく、身体はかなり冷たい。

 生きているのか、死んでいるのか、それすら俺にはわからなかった。

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