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第二十五話 ロスト・ブレイブ・メンバー

 そこは暗い樹海の中だった。

 まだ時間的には昼を軽く過ぎた頃。晴天の今日は充分明るさを保っていられるはずなのだが、世界から切り離されているように暗い。まるで夜中のようだ。

 恐らく悪魔や天使、迷いこんだ一般人から身を隠す為に三重程重ねられた結界を潜ったためだと思われる。ここまで厳重な警備をしなければならない程のものがここにはあるらしい。

 それがどんなものなのか、『琴羽愛叶(ことは えと)』には見当も付かない。


「あともう少しよ。がんばって」


 ここまででもかなりの道のりだった。ロスト・ブレイブの一人、緑の宝石の所持者、『ジェナ・イドマ』こと『實川真奈(じつかわ まな)』が言うにはロスト・ブレイブには人を転移させる力を持つメンバーがいるらしく、本来ならその者の力で簡単に帰投することができる。その者は特別で、悪魔だけでなく天使や勇者の気配を察知することも可能らしく、ロスト・ブレイブには必要不可欠の存在だ。

 名は、『アルファ・シーゲート』。

 古参メンバーの一人で、ロスト・ブレイブ結成時には既に居たらしい。見た目は黒髪の腰まで届くロングヘアーで中性的な顔付きをしている。性格は古参メンバーとは思えない程明るく人懐っこく、勇者となって十年は経っているのだろうが少年の心を失っていないようだ。

 そのアルファ・シーゲートが行動を共にする事が最近多い者が『クリア・ストキルタ』こと『統間秋人(とうま あきと)』、透明の宝石の所持者だ。

 統間秋人だった頃の記憶は全て失い、完全に天界を憎みきっている勇者へと変えられてしまった。

 性格は以前よりも暗く、アルファ以外のメンバーとも干渉はしない。しかし、仲間思いの一面があるらしく、以前にジェナが悪魔との戦闘中に苦戦して深手を負った際に、ただ一人駆け付けてくれたことがあるらしい。心の奥底では本質は変わらないのかもしれない。

 そして、そこが統間秋人を取り戻すチャンスでもある。

 その為には絶対に倒しておかなければならない男がいる。

 それは白の宝石の所持者、『ソウル・キーパ』。人の記憶を自由自在に操れるロスト・ブレイブ古参メンバー、実質ナンバーツーだ。

 秋人の記憶を取り戻すことが出来ても、ソウルが居る限り再び洗脳されかねないのだ。そしてそれは真奈も危険だということ。

 もしも真奈の企みが明るみになった場合、真奈は消されるかソウルによって記憶を改竄されてしまうだろう。勝つ為には、暗殺しかない。

 他にも警戒しておかねばならないメンバーは多い。

 黄の宝石の所持者、『ジア・タンバーン』。

 見た目はチャラついたような若者風で、彼は力を持つ者だけがロスト・ブレイブのメンバーに相応しいと考えており、弱い者は排除する執行人のような男だ。その考えで何人ものメンバーが犠牲になっている。

 それを何故アシディアやソウルは黙認しているのかは不明だが、お世辞にも強いとは言えない愛叶をロスト・ブレイブに招けば、必ず目を付けられる。用心しなければならない男だ。

 一応抑止力は真奈以外にも居て、かつてジアの暴挙を食い止めた男がいる。それは青の宝石の所持者、『ジファイロ・サウケイア』だ。

 見た目は屈強の戦士だが、性格は穏やかで仲間を大切にする心優しい。アシディアに忠誠を誓っている為、アシディアの命令なら何でもすると言っているが、一度悪魔に取り憑かれただけの人間の殺害を命令されたが、その命令に背き、自身が傷つきながらもその人間を救いだした事がある。信頼できる男だ。

 しかし、その男を敵に回そうとしているのは忘れてはならない。

 注意するべきなのはジアだけでなく、真奈を敵視する者がもう一人いる。ロスト・ブレイブの技術者であり、真奈を除けば唯一の女性メンバー、紫の宝石の所持者、『メイナシス・アレト』。

 ほとんど絡みはないのだが、真奈への当たりは中々酷い。虐めにも近い。真奈には心当たりが無いのだが、知らぬ間に不快な思いをさせてしまったのだろう。

 彼女の容姿は整っており、キレイな赤みの入った黒髪を後ろに束ねており、それがよりクールさを引き立てている。

 敵視されている故に彼女の事は何も知らない。万が一彼女と戦う事になった場合、そして彼女の能力との相性が悪かった場合、苦戦は免れないだろう。

 そして、最後の一人はロスト・ブレイブ創設者にしてボス、黒の宝石の所持者、『アシディア・カブギオン』。

 威圧的な顔付きをしており、体格の良さがさらにそれを底上げしている。あまり多くの事を語る性格ではなく、ロスト・ブレイブの任務などは主にジファイロに任せている。

 はっきり言ってロスト・ブレイブ・メンバーで知っている事はかなり少ないのだ。心を置ける仲間と呼べるメンバーはそれよりもかなり少なく、目を覚ましたジェナにとって、何故ロスト・ブレイブでいることに拘りを持っていたのか思い出せない。

 もしかしたら、その感情こそがソウルの記憶操作だったのかもしれない。

 真偽は不確かだが、仮に操作されていたのだとしてもそれは解除されている。そして、解除できるという希望が真奈と愛叶の心を後押ししてくれる。

 ここまで来て、もう後戻りはできない。

 何があっても、秋人を取り戻す。

 ロスト・ブレイブ・メンバーを愛叶に説明しながら樹海を歩いていた真奈はぴたりと足を止める。

 やっとの思いで追い付いた愛叶が見たものは、洞窟だった。


「この先がロスト・ブレイブのアジトよ」

「ここが………そうなんだね」


 ぶるりと体が震える。武者震いと思いたい。しかし、愛叶は自覚していた。心が引き返せと訴えていることに。

 一度深呼吸し、秋人の顔を思い浮かべる。


「約束………したんだ。ずっと、昔に。

 どんなに遠くへ行っても、必ずまた会いに来るって。あの時は果たせられなかった…………。

 だから、今度はもう約束は破らない。秋人に会いに行く、必ず!」


 愛叶は約束を交わした児童養護施設での日々を思い出した。

 家族や記憶を失って、生きる事すら失おうとする少年と、最初から両親の顔を知らず、それでも絶望せずに明るく未来を歩こうとする少女の出逢い。

 大切な二人だけの、思い出。

 それを忘れたなんて言わせない。外的要因で無理矢理忘れさせられたのなら、こちらも無理矢理に思い出させてやる。

 もう絶対に、諦めない。

 その決意、覚悟は愛叶の体の震えを止まらせた。

 もう後ろは振り向かない。成功する事だけを考え、未来を掴み取る。

 二人は洞窟を進んだ。

 洞窟の中は最初真っ暗で何も見えなかった。しかし、真奈は一切明かりを灯そうとはしなかった。愛叶は不思議に思ったが、それはすぐに解消した。

 少し進むと、洞窟の中には光で満ち満ちていたのだ。


「これは…………どうして?」

「詳しい事はワタシにも分からないのだけど、この洞窟の奥には『(さかい)の扉』という天界の神器があるらしいの。それが洞窟に光を与えているの」


 洞窟は次第にメカニックな構造をしたものに変わっていく。そして、銀色の扉が目の前に行く手を阻んだ。

 その扉にノブなどは無い。かといって近付けば開くような自動でもない。ロックされている。

 真奈はチョーカーに埋め込まれている緑の宝石を扉のセンサーに近付かせる。すると扉は上下に開き、先へ進めるようになる。


「どういう仕組みなのかよくわからないんだけどね。

 この宝石はアシディア様が造ったものらしくて、よく企業などで使われているICカードのようなものらしいわ」


 真奈の説明に素直に感心する愛叶。

 メイナシスという女性の他にもアシディアもそういった未知な技術力を持っている。それを世のために使えばいいのに、とぼそりと呟いた。

 アジトと呼ばれるだけあって、そこはかなり入り組んでいて複雑だった。迷子になってしまったらマズイ。

 真奈と愛叶が向かっているのはアシディアの元だった。

 真奈が新たなロスト・ブレイブ・メンバーとして愛叶を招待する。基本的に来る者は拒まずなので、そこまでは上手くいくはずだ。問題はそれからだ。

 入念に策を論じた二人は今や目を合わせるだけで互いの心をシンクロさせられる。アシディアの居る扉を目の前にし目を合わせ、強く頷き、扉を開けた。

 まず愛叶は巨大な物体に目を奪われた。右側には片翼の天使、左側には牙の折れた悪魔。それらが互いにいがみ合い、互いに武器で心臓を突き刺そうとしている像の付いた扉だ。見ただけで直感でわかった。『堺の扉』とは、これのことだ。

 その目の前にある椅子に座る者は、アシディア・カブギオン。

 笑う事もなく、敵視することもなく、ただ坦々と真奈と愛叶を見詰める。

 その視線を感じた愛叶はまるで海で溺れているかのような圧迫感に苛まれる。目を反らそうにも、引き摺り込まれていく。


「あ? おいジェナ。まさかそいつが招待してえ元勇者なのかよ?」

「ええ、そうよ」


 金髪でロスト・ブレイブの正装を着崩し、胸元が若干はだけているのが、恐らくジア・タンバーンなのだろう。

 獲物を見るような目で見るそれは、明らかに歓迎している風ではなかった。


「うわーまじかよ。ついにこの女も焼きが回ったもんだぜ。

 そんな雑魚をロスト・ブレイブに招き入れるなんてどーかしてるぜ」

「実力は本物よ。あなたにとやかく言われる筋合いはないわ。

 それと念のために言うけれど、あなたはこの子に近付くのは禁止よ」

「はあ? 俺がそんな乳臭え小娘相手に勃つような男に見えんのか?」

「穢らわしいわね。そうやってベラベラと口だけを動かして馬鹿みたい。

 そんなに自分が弱い事を隠していたいの?」

「てめえ…………!!」


 ジアは勇者の武器(ブレイバー)である鎌を具現化し、真っ直ぐに真奈へ斬りかかった。

 しかし、それを真奈は見ていない。いや、見る必要がなかった。

 何故なら、ジアの他にもう一人いるからだ。

 高速移動するジアの鎌の柄を掴み取ったのは、ジファイロ・サウケイアだった。


「お前達いい加減にしろ。アシディア様の前だぞ」

「ジファイロ……!」

「すみませんでした、ジファイロさん」


 ちっ、と舌を打ちながら鎌を消滅させるジア。

 ジアが離れていく所を確認した愛叶はほっと胸を撫で下ろす。

 しかし、ジアが動いてもアシディアは眉一つ動かさなかった。ジアの仲間殺しを黙認していると言っていたが、それは間違いないらしい。


「俺達は最強でなくてはならない!! 天界のクズ共や魔界のカス共、そして人界のゴミ共を支配するには力が必要なのだ! 中途半端な力しか持たず役に立たねえゴミを増やしてどうするんだ! こんなことで分け前が減るのは我慢ならねえ!! いいか女、今日から寝る時や外出する時は首を気を付けろよ。いつその細い首が落ちても、文句は出ねえからな!!」


 大声で叫んだジアはその場を去った。

 ジアの言葉の一つ一つが愛叶の心に刺さる。


「人は……………平和を望んでいるはずなのに」


 愛叶のぼそりと呟いた答えを言ったのは、アシディアだった。


「その通りだ。人は平和を望んでいる。

 故に人は、力が必要で、力の為に戦い続ける」


 ゆっくりと含みのある言い方。

 再びアシディアと目を合わすと、心の奥底まで覗かれているかのような感覚に陥った。

 いや、違う。

 あの目を愛叶は知っている。

 アシディアの目は、誰も見ていない(・・・・・・・)


「琴羽愛叶。お前をロスト・ブレイブに加入することを認める。

 新たな名は、『ビトエール』と名乗れ」


 ビトエール。それがロスト・ブレイブでの愛叶の名前だった。

 複数の扉から続々とメンバーが入ってくる。当然ジアは居ないが、恐らく全員だろう。


「え? なになに? なんかあったの?

 めっちゃジアの声が聞こえてきたんだけど!」

「落ち着けよ、アルファ」


 そして、今はクリアとなっている秋人と目が合った。

 今すぐにでも抱き付きたかった。しかし、それは許されない。そんなことをすれば策が台無しになり、愛叶は殺されてしまうかもしれない。

 ぐっと我慢して、クリアの目を見る。

 それに気付いたクリアは少し驚くような仕草をした。まさか二度も会うとは思っていなかったようだ。


「なに。新しい仲間って女なの? なら来るんじゃなかったわね。研究の時間が惜しいわ」

「私の為に時間を割いてしまって申し訳ありません。

 今日からお世話になる琴………いえ、ビトエールと言います。

 よろしくお願いします」


 全員に向かって頭を下げる愛叶。

 メイナシスと思われる女性はコツコツとヒールの音を響かせながら愛叶に近付き、耳元で囁く。


「あまりアシディア様に近付くんじゃないわよ。色目なんか使ったら、あなたを実験動物にしちゃうから」


 恐ろしい事を言ってきた。

 いつもなら泣いちゃうところを精神力で阻止した。

 本当にそんなことをするのだろうか。どうか嘘であってほしい。


「それではアシディア様。ワタクシはここで………」


 最後にアシディアにだけ挨拶をし、メイナシスは行ってしまった。


「困ったことがあればあそこの二人かジェナ、私に言え。

 心細いと思うが、支えくらいにはなってやる」


 優しい口調で話してきてくれたジファイロだった。

 あそこの二人で指を差したのはクリアとアルファ。アルファはこちらにピースサインし続けている。本当に子供のようだ。

 敵ではあるが、ジファイロの言葉にはほっとさせられた。個性的で問題の多いメンバーばかりだが、真奈が居着いてしまうのもわかるくらいの包容力がジファイロにはあった。

 ジアとメイナシスの存在、アシディアの正体。幸先が不安でしかないが、ここまで来たらやるしかない。

 とにかく今は、がんばろう。

 そう愛叶は心の中で囁いた。




「琴羽愛叶…………か」


 一人の男が部屋の端で呟いた。

 何かを思い出すように頭を抑え、掌が白く光る。

 そして、不敵に笑い、愛叶を見た。


「小娘が俺の改竄を覆せるかな………?」

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