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第二話 秋人の目的

 勇者となって三日。あれから悪魔は表立った動きは見せていない。

 勇者の出番などいない方がいいに決まっている。決まっているのだが、それなら勇者となる必要が一切なかった。

 世界はとても平和だ。勇者の介入の余地などないほどに。

 もうそれでいいんじゃないか?

 うん、いいよね。


「……………………………完」

「なにを言っているんだ君は」


 チッ、聞いていたか。

 自称天界の使いのエルミカは背中に生えたハエのような羽をパタパタと懸命に羽ばたかせながら俺の真横を飛ぶ。


「だって必要ないだろ。この三日間なんもなかったぜ?

 お前がうるさいからパトロールとかしてみたけどさ、平和そのものだろ」

「悪魔の動向など私がわかるわけないだろう。

 暇をもて余しているくらいなら、それくらいしたらどうだと私は言ったんだ」

「あーもう、激しく後悔」

「それよりそろそろ学校とやらに行かなくてはならないのではないか?」

「あ、やべ」


 エルミカの気取ったような話し方はあまり好きにはなれないが、他愛のない話をする相手がいるのは素直に嬉しかった。

 学校指定のブレザーを羽織ると、エルミカはそ

の胸ポケットにすっぽりと収まった。

 家を出てから暫く歩いていると、十字路の信号に引っ掛かる。

 特に理由はないが、この間から聞こうと思っていたことを思い出した。


「なあ、エルミカ」

「どうした?」


 これが雌だったらと一瞬頭を過ったが、頭を左右に振り、本当に聞きたかった事を尋ねる。


「勇者ってのは終着点はあるのか?」

「ある。

 が、現時点では教えられない」


 なんでだよ、と言おうとしたが、背中から激しい衝撃が走る。


「おっはよー、秋人!」


 背中の衝撃に噎せ、涙目になりながら声の主の顔を見ると、幼馴染みの琴羽愛叶(ことは えと)の仕業だった。


「愛叶っ、強すぎっ!」


 未だに噎せている俺を愉快そうに顔を覗く。

 幼馴染みの琴羽愛叶。赤みの入った茶髪の髪はサイドテールにし、結び目には黄色いシュシュが巻かれている。誰に対しても明るく、整った顔立ちなため、大変モテる。

 愛叶とは七年前からの付き合いで、彼女の一番近くに俺がいるのだが………。


「………あ」


 なにかを思い出したかのようにそそくさと青になった信号を先に渡っていってしまった。


「………毎日続いているようだが、君達流の儀式か?」

「………ただの喧嘩だよ」


 一週間続いている、ね。

 深く溜め息を吐き、回りに誰もいないことを確認し、エルミカと向き合う。


「エルミカ。俺の望みを言う」

「………そうか。ようやく言う気になったか」

「ああ。今まで認めたくない現実とも向き合わなくちゃいけなくて敬遠してたけど、そうもいかないな。このままじゃ」

「………まさか君の望みというのは」


 はっきりとエルミカの目を見て、キメ顔で言い放つ。


「愛叶と仲直りをさせつつ、この片想いを成就させてくれ!」


 見るからに目が点になるエルミカ。


「どんな無謀な望みを告げてくるかと思えば………」


 深く溜め息を吐く。


「こんな下らない事を言い出す者は君が初めてだよ」

「下らないってなんだよ。

 こっちだって必死なんだ」

「それはすまなかったな」

「で、どうなんだ?」


 手を額に当てていたエルミカは、仕方ながないと俺と向き合った。


「君の願いを叶えよう」

「さすが天使様!

俺達にできないことを平然とやってのける! そこにしびれる! 憧れるゥ!」

「………君はいちいち気に障るね」


 こうして俺は一週間前、俺と愛叶の間に何が起きたかを話始めた。



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