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第十七話 ジェナの本音

 『糾弾の銃』による牽制。ほぼ同時に放たれた四発の弾丸は俺の四肢を的確に射抜こうと迫っていた。

 聖力によるレーダーはそれを感知し、効率よくそれを対処する。

 これが囮だということは気付いていた。その為、死角から放たれた『弾劾の銃』の聖力の塊は難なく回避することに成功した。

 その直後に俺は『淘汰の剣』から『断罪の剣』へとモードチェンジ。必殺の一撃を放ち、隙だらけのジェナへと斬撃を飛ばす。

 しかし、飛来する斬撃はジェナに命中する直前に、一瞬だけ時が止まったように減速した。

 目を凝らすと、聖力が微かに見えた。つまり、回避するための一瞬を稼ぐための聖力で作った壁だ。

 ジェナもまた、難なく回避した。

 ここまで一進一退の攻防戦が続く。実力は拮抗しているということだ。

 いや、ジェナには迷いがある。

 その迷いさえどうにかなってしまえば、俺はジェナに勝てるのだろうか?

 正直、わからない。

 勝てないかもしれない。

 だけど、このままで良いとも思えなかった。

 肩で呼吸するほど乱れていた息を深呼吸することで整え、ジェナを見た。

 弾劾の銃は一発一発が一撃必殺だが、疲労も大きいらしく、ジェナも疲れが見てとれる。


「なぁ、あんたさ。どうしてそこまでアシディアってのを信用してるんだ?」

「………………アシディア様はわたしを救ってくれた。それだけじゃない、居場所だって与えてくれたわ。そんな恩人に恩返しがしたいと考えるのは自然ではないかしら」

「確かにきっかけはそうかもしれない。でも俺が聞きたいのは行動原理じゃねえよ。あんたはアシディア自身じゃなくてアシディアがしている事を信用してるのかって聞いてるんだ」

「アシディア様が………………していること?」

「俺達みたいな勇者や元勇者を集めてアシディアは何がしたいんだ。居場所を作るだったか? ならその居場所とやらを作る手段はどういったものなんだ? 何のために戦力を増やしているのか考えたことはあるのか」

「な、何が言いたいのよっ!!」

「あんたはアシディアが起こそうとしている戦争に加担しようとしてるんだよ!! あんたはそれでいいのか!?」


 ジェナは息を呑んだ。


「戦争ってのは犠牲者が付き物なのは承知だろ。あんただけじゃない、あんたの仲間にだって必ず犠牲者は出る! あんたはそれを良しとするのか!? 新たな居場所を作るだって? つまり相手の領土を強引に奪うっていうことなんだ! そこにあんたの意志はあるのか。あんたは本心でその戦争に加担する気なのかよ!」

「あなたにわたしの何がわかるのよっ!!」


 ジェナの叫びは大きな聖力を生んだ。

 両手でグリップを握り、バレルの先に膨大な聖力の塊が渦を巻くように集まり、更に膨れ上がっていく。

 地響きを発生させ、大地を抉っていく程の力をたった一発の弾丸に込めていく。それにはジェナの哀しみが詰まっていた。聖力を通して、そう感じた。

 避けるのは容易い。けど、これを避けるわけにはいかなかった。

 この弾丸は言わばジェナの想いの叫びだ。想いを受け止めなければ、ジェナの心は救われない。

 

「………………いや、救おうだなんて、烏滸がましいな」


 自分の考えを否定する。これはそんな複雑でなくてもいい。


「あんたの想いを全部込めて撃ってこい! 俺がそいつの捌け口になってやるよ! 全部全部、俺が受け止めてやるよ!!」


 断罪の剣に全力で聖力を込める。保険なんて考えるな。この一撃を凌げば、ジェナに届くはずなんだ。

 叫びと共に、弾劾の銃は放たれた。

 大地を削り取り、通り過ぎただけで近くにある物質は消滅していく。

 そして、全聖力が籠った断罪の剣とぶつかり合った。

 目が眩むような輝きが辺りを照らす。

 その一瞬後に、聖力が混ざり合い、爆発を起こした。

 疲弊しているとはいえ、ジェナは立っていられず、なんとか踏ん張って前のめりに倒れた。

 俺はというと、爆発に巻き込まれていた。

 しかしそれは、爆発による被害を最小限に抑える為に敢えて自分と暴発しかかった聖力とを新たに作った聖力で包んだからだった。

 耐久性は低く、完全に被害を抑える事は不可能だった。

 大きなダメージは負った。しかし、立っていられた。

 何故なら、俺は想いで勝っていたからだ。ジェナの放った哀しみの籠った聖力は荒々しく、見た目だけが派手な弾だった。

 そのため、俺は周りを包むだけの聖力を確保できたし、この真っ向勝負にも勝利できた。

 

「………………あなたは、何で赤の他人のわたしを………………」


 ジェナはゆっくりと起き上がり、涙を流しながら呟いた。

 俺は少しずつジェナに近付きながら、口を開く。


「わからない。別に昔の自分と被ったとか、女の涙を見過ごせないとか………………そんな漫画の主人公みたいなわけじゃない」


 自分でも正直何がしたいのか、わからなかった。

 前まで俺は、俺の目の前に広がる世界さえ無事なら後はどうでも良かった。

 無色透明な自分………………意志を持ち合わせていなかったからだ。

 そんな俺でも、変わっていっているってことなんだな。

 納得するような言葉を探せず、たまたま引っ掛かった言葉を口にした。


「情が移った………………のかもな。理屈じゃなくて、なんか放っておけなかったんだ」

「同情のつもり?」

「同情なんかするかよ。言ったろ、理屈じゃないんだ。あんたの鬱憤を晴らしてやりたかった。だから八つ当たり相手になった。たったそんだけだ。シンプルだろ?」

「………………あの一撃で死んでいたかもしれないのに」

「死ぬもんかよ。一つの事に集中出来てないやつの一撃なんかたかが知れてる」

「………………強いね、統間くんは」

「どうだろうな。なんの(しがらみ)なく戦っていたら、きっとあんたの方が強かったと思うぞ。溜め込んでると身体にも脳にも良くないからな。全力だって出せない」

「………………そうかな」

「きっと、な。悲しくて嫌なこと考え続けるより、明るいこと考えてた方が絶対に良いだろ?」


 ジェナはその場でしゃがみこみ、涙は段々と大粒に変わっていく。

 ジェナの過去に何があったのかはわからない。きっと悲しい事の連続で、心を閉ざしていたのだと思う。

 そんなジェナに漬け込むように、アシディアはジェナの前に現れ、居場所という甘い言葉で丸め込んだのだろう。

 そして、恐らく多くの勇者がジェナのような経験をしているのだろう。見知った人から非現実的と背を向かれ、非難されてしまう。そんな悲しい経験を。

 俺には愛叶という理解者がいた。もしも愛叶に否定され、拒絶されていたら、恐らく今の俺はいない。ダークサイドに堕ちていてもおかしくなかった。

 そこが俺とジェナの最大の違いなのだろう。

 そして、ジェナは今、ターニングポイントに立たされている。


「ジェナ」


 名前を呼ぶと、泣きじゃくってぐしゃぐしゃな顔を上げた。


「これからあんたはどうするんだ? アシディア達ロスト・ブレイブに帰って戦争をおっ始めるのか? それとも別の道を探して、自分で居場所を見つけるのか?」

「………………別の、道? 自分で居場所を………………」

「ああ。生きてれば可能性は無限大だ。今のあんたを理解してくれる人だってきっと居るさ」

「わたしは、それを許される立場なんかじゃ、ない……………。沢山の人を傷付けた。今更道を変えるだなんて」

「違う。過去(うしろ)を見ろなんて言ってるんじゃない。俺は未来(さき)を見て、これからどうかするかを聞いてるんだ。今の気持ちを吐き出してみろよ。もう答えは出てるんだろ?」

「………………今の、気持ち………………」

「そうだよ。言ってみろよ」

「わたしは………………戦争なんかしたくない。平和が続けば、それでいい。ロスト・ブレイブの仲間達だって、一癖ある人ばかりだけど………………失いたくない」


 ジェナが初めて吐露した本音。勇者となっても、やはり彼女はどこにでもいる一人の少女だった。

 戦いが俺達勇者の道を変える。やはり許されざることだ。

 天界と魔界の争いは何年も前から始まってしまっている。エルミカに則ると俺達はこいつを終わらせる為に勇者になったようなものだ。

 しかし、まずは目前の脅威………………。ロスト・ブレイブが何か事を始めるのを未然に抑え込む必要がある。

 その為には、ロスト・ブレイブのボス、アシディア・カブギオンには会わなければならない。

 俺が会いに行ってどうにかなるなどとは思えないが、これ以上の犠牲者は夢見が悪い。


「ジェナ、俺をアシディアに会わせてくれ。戦争なんてのは自ら起こすもんじゃない。そいつを分からせなきゃ」

「なっ、馬鹿なこと言わないで! そんな事をしたらあなたは異端分子として処理されてしまうわ。あなたはもう………………関わらない方がいい。帰りを待つ人がいるなら………………尚更」

「そっちこそ馬鹿言えよ。帰りを待つ人がいるからこそ行くんだ。こんな下らない戦いをさっさと終わらせて、なんの悔いも不安もなくまた再会する。そその為には遠回りするわけにはいかないんだ。黙って殺される気もないしな」


 俺の言葉にジェナは絶句した。

 まぁ自分でも結構無茶を言っているのはわかっているから無理はない。

 不安と呆れが五分五分な表情でジェナは口を開いた。


「………………あなた、昨日初めて会った時から結構変わった? そんな前向きな感じはしていなかったと思ったけど」

「変わってるように見えるなら、それは愛叶のおかげだな。機会があれば、紹介するよ。多分ジェナと友達になれると思う」

「とも………だち?」

「ああ。俺は戦争なんてものする気はないから戦友っていうとなんか引っかかるからな。シンプルに友達でいいと思ったんだ」

「わたし達も友達、なの?」

「悪いけど俺は友達の定義はわからん。でも、あんたとは友達になれそうだ。さっきまで戦い合ってた相手に変かもしれないけどさ」


 ジェナの涙はまだ渇れていない。しかし、今の表情はさっきまでの絶望したものではなく、微笑みのものだった。


「なによそれ………………。あなたって大雑把なのね」

「なんだと」


 大雑把とは心外だ。

 けれど、ジェナの柔和の笑みを見て、頭に浮かんでいた文句はどこかへ行ってしまった。

 あまり見つめられるとさすがに照れる。せめてもの照れ隠しに目を反らし、後頭部を掻いた。

 しゃがみこんでいる所に手を差し伸べると、それを見たジェナはその手を取ろうと手を伸ばす。

 その刹那――――――――

 ドスッ、と生々しい音と共に俺の腹部から突然腕が現れた。

 何が起きたか一瞬認識できず、激痛と共に理解した。

 俺は腹部を貫かれている。


「悪ぃな。手短に済ますのが俺の性分なんでな」


 そう言いながら俺の腹から腕を抜く男。

 全身から力が抜ける。内臓のいくつかが潰されたようで、口から血液が逆流していく。とても立っていられず、意識も保てない。

 倒れていく身体………………薄れていく意識の中、黒い翼を見た。

 その特徴を持つ者は他にいない。


「悪魔――――――………」


説得って難しい。

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