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セブン・シティ  作者: 塔矢
シンボルヒーロー -劇的華烈閃光戦記-
2/2

雷の戦士

暗い。

ただただ暗い。

ひたすら暗い。

光が一筋足りとも差し込まない暗黒の中、動くものが1、2、3、4、4つある。そのうちの1つが口を開いた。


「……本当にあるのだな?」


重い声。暗闇の中から聞こえた。


「はい、その価値も分からず、古代からの発掘品として展示などという下劣な行為を行っているらしく……」


違う声。先ほどの声の主に対しての返答だった。敬意と恐怖心が入り混じった声でそう答えた。


「……ならば丁度良いな。いくらこの都市といえども、たかたが『発掘品』如きに超級の護衛をつけてるとも思えん……。動け」

「ハッ!」


暗闇から声が消える。動くものがその空間には1つを除いて消えた。


「……『シンボル』。古代からの贈り物、この世界の物事のルーツ」



ーーーーーーーーーーーー



超巨大都市ヴァーティクシティ一般都市部【セントラル】。高級都市でもなく、異世界な感じでもなく、かといって科学が超発達しているわけでもないごくごく一般的な大都市だ。人口は1800万人。他の都市の中でも群を抜く人口量であり、様々な企業、団体がこぞってこの都市に本部を置く。そのためセントラルの摩天楼群は大小構わずビルが立ち上り、見事なまでの凹凸を見せている。

そんなセントラル中央街に場所を構える美術館において本日、展示会があるのだ。なんでも今回の題目は『古代から現代へ。未知の超古代遺産』というものらしい。その展示会へ向かう人混みの中に男性2人、女性1人がいた。


「工藤クン、マスター!早くしないと人いっぱいになってゆっくり観れないですよ!」


おそらく20代前半ほどの女性が振り向いて答える。名を『灘 琥珀 』と言った。肩ほどまでの髪を揺らし、ハイブーツをカツンと鳴らす。


「分かってますよ、ねぇ、工藤くん」

「ホントに、灘さんはもっと落ち着きましょうよ。この展示会が逃げるわけでもあるまいし」


マスターと呼ばれた中年の男『矢鴨 前一』と青年『工藤 輝』は答える。

矢鴨がマスターを務める喫茶店【オリオン】。先日オリオン宛にハガキが届いた。矢鴨が雑誌の懸賞に応募したものが当選、それが今回の展示会への招待券であった。チケットは3人分。矢鴨、ウェイトレスの琥珀、そして偶然その場で入り浸っていた常連である輝、その三人で行くことになったのであった。

今回、古代遺跡から発掘されたものであるため、かなりの人数が集まっていた。そしてそれに負けじと多大な量の発掘品がショーケースの中に展示されていた。

皿、服、鏡、小道具、かんざし、etcetc……。とにかく古代人がどのように生活していたのか、どのような文化があったのが一目瞭然である。そのレベルでの発掘量であった。


「はぁぁ、すごいなコレは。もうほとんどそのまま持ってきたようなもんじゃないか、このカップとかマスターの店に置いてあっても不思議じゃないですよ」

「そうですねぇ、これとか今とあまり変わらないですねぇ」

「ホントにね。でもね、今回の目玉はこれじゃないんですよ、マスター」


琥珀が胸を張って言う。こういった古代物品が大の好物であり、遺跡マニアの彼女は心の高揚が抑えられないのだろう。興奮した口調で言った。


「今回の目玉、それはね……古代文字で書かれた文章が刻まれた大きな石板と2つの小さなプレートなのよ」


そう説明しながら美術館の奥へ奥へ進む。そう、目玉である展示物目指して。

一際凄まじい人混みをようやく抜け、拓けた眼前に、それはあった。


「……でけぇ」


高さ5m、幅1mで作られた大きな一枚の岩。岩だが精密な加工がされているのが一目でわかった。重さにして1tはあるのだろうか。それほどに鈍重で強く、神々しい岩石板であった。そこには解読不能な文字と絵が刻まれ、横には手のひらサイズの小さな円形のプレートがあった。

描かれているのは3人の人と多勢の怪物のようなもの。その構図は2人が怪物を引き連れている1人に対し、戦おうとしているようなものであった。少し時代がズレているようにも感じたが、古代というものはそういうものだろうと輝は無理矢理納得した。


「すごいねぇ、私、コレ観れてよかったよ。さっきコレの説明文読んだんだけどね、コレの絵の意味、昔の悪い神様をやっつけようとする2人の勇敢な光と影の戦士なんだって。それで、その時にその2人の戦士が戦うために使っていたものがその小さなプレートらしいんだって」

「へぇ……じゃあコレは武器かなんかなんだ」

「武器、なのかな?どうやって使うんだろうね?丸いから投げるのかな?フリスビーみたいに」

「それはいいね、フリスビーに負ける神様か……」


と、その時突然館内の電気が一斉に切れた。ざわめく人々。無理もない。この美術館は展示物が傷まないよう内部に光が差し込まないようになっている。つまり電気が切れた今、館内は真っ暗闇なのだ。

しかし客が開けた携帯電話の光や、非常階段案内板の光によって、辛うじて人の顔が認識できる。


「マスター、停電だって」

「そうですねぇ、まあすぐに復旧するでしょう。それまであまり動かず待ってましょう」

「もー!せっかく目玉まで来たのにぃ!」



40分が過ぎた。未だに電気は復旧しない。ネットによると外は停電してないようだ。つまり、この美術館のみ局地的に停電が発生しているようだった。


「……おかしい」

「どういうこと?工藤くん」

「こういった美術館はだいたい予備電力があるはずなんです。暗闇に紛れて窃盗を行うような人がいるから、それを防ぐために停電しても自分のところで電気を賄ってすぐに復旧するように仕掛けてあるはずなんです。電気を供給するシステムだって二重三重とかけてるはずだ。が、その予備電力すら動いてない」

「え、えーと」

「つまり、そこまで手の込んだものがどれもこれも全て動かず、更に案内員からの連絡もない。……これは何かある、と」

「……漫画みたいだね。本当にそんな漫画みたいなことがおこってるの?」

「20歳すぎの男の痛々しい妄想で済めばいいんですけどね……」


輝がそう呟く。その呟きが合図となったのかどうかは分からない。だがしかし、その呟きの次の瞬間、美術館の壁が『爆発』した。

突然の爆音と飛来するコンクリートの欠片に、客は騒然とした。いや、それが一番の原因ではないであろう。

そのポッカリと空いた壁の穴、そこから蟻のような頭をした人が入り込んで来た。人ではない。手が4本。頭には触覚。なにより口がハサミ状になっており、体色が黒い。本当に蟻のようだった。

化け物。化け物である。怪人と言ってもよいだろう。


「く、工藤くん!あ、あ、あれ……!」

「え、ええ……。灘さん、マスター、ここから離れましょう。ゆっくりと、ゆっくりと」


内心、叫んで逃げ出したくなる。しかしとにかく冷静に。叫びたくなる気持ちを一生分の力を使い抑え、そう2人に促した。しかし、その瞬間、怪人が吠えた。動物のそれではない。超音波のような音であった。吠えると同時に跳躍。その怪人はあろうことか輝達3人の前に降り立った。


「……!!」


身が硬直する。当たり前だ。異形のモノが今目の前に降り立ったのだから。ガチガチと金属が合わさるような音がする。ハサミ状の口の開閉、その音だった。確実にかなりの強度がある。むやみやたらに行動すれば間違いなく、死ぬであろう。

怪人が手を振りかざし、振り下ろす。たったそれだけの簡単なことで、輝の身体は後ろの石板が展示されてあるショーケースを突き破った。ショーケースは輝の身体により割れ、ガラスが飛び散る。大きな石板は微動だにしなかったが、小さな円形プレートは輝の身体と共にガラスを壊す。その甲高いガラスの割れる音はより大きな客の悲鳴により掻き消された。


「工藤くん!」

「ダメです、灘くん!死んでしまいますよ!」

「でも、マスター……!」


琥珀がそう嘆くのを、矢鴨が抑え、身体を怪人から離す。近寄っては駄目だ。本当に殺される。見たところ辛うじて息はあるが、輝が殺されかけた。間違いなく自分達では殺される。自分はともかく、この子達を死なせるわけにはいかない。

怪人がゆっくりと石板へと近づく。

ゆっくりと。

一歩ずつ。

ゆっくりと。

一歩。

また一歩。

その手が石板に触れようとしたとき、ガラスの割れる音がした。

ガラスの突き刺さった身体を起こし、フラつきながらも立ち上がった輝の姿がそこにはあった。


「……解ったんだ。お前らのことを、この石板の文字のことも。全部解った」


輝は言う。その手には先ほど突き飛ばされたとき、共に飛ばされたあの円形プレートがあった。

怪人はそれに気づく。と、同時に身体を弾丸の如く輝の方面へと走らせる。今度は明確な殺意を持って、その鋭い針のついた手を構える。

輝は動かない。動けないのではない。動かなかった。しかし、その顔は清々しいほどにはっきりとしてた。

避けるかわりに、その手の円形プレートを構える。


「シンボルチェンジ!」


叫ぶ。その古代より伝わるその神化呪文とも言うべき言葉を。

輝の身体は雷を纏いながら変化していく。雷は鎧に変わり、その鎧が輝の身体に装着されていく。腕、脚、胸、頭。全身を包み込む。

古代より現代へと託された円形プレート型のアイテム『Lのシンボル』。雷の力を秘めたそのシンボルは輝を戦士へと変身させた。


「うおお!」


雷の力を纏ったその拳が、怪人を殴り飛ばす。

閃光と爆発音を伴うその力。強大な能力。

舞台はイーブン。


さあ、戦闘開始だ。


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