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夢小説【短編集】

気になるあの子は優等生 ~夢見る練習試合?!~

作者: SR9

 俺は横山幸太。

 市内の県立高校で卓球部に所属している。

 今日は同じ市内にある有名私立高校との練習試合。

 場所が近いため,俺たちは全員自転車で相手校に向かう事になっていた。



「…すっげぇ……」



 校門の前で思わずそんな声が出る。

 うちの高校とは比較にならない程豪華な門に,比べものにならない程大きな校舎。

 中にいる生徒たちも皆新品同様の制服を完璧に着こなし,背中に棒でも入っているのではないかと思うほどピシッと背筋を伸ばして生活している。


 そこで俺は,もう一度自分の恰好を確認する。

 普段から使っているよれよれのジャージに,薄汚れたバッグ。

 所々錆びついた自転車は,ブレーキの度に甲高い悲鳴を上げる。


 こんな格好で,ここに入るのか…


 途方に暮れた俺は,少しでも気がまぎれるようにとチームメイトを探す事にする。



 フェンスの周りを一周,二周。


 …誰もいない。


 三周…四周……


 それでも誰も見つからない。


 だんだんと校内にいる人が俺を見るようになってきた。

 不思議と彼らの声が聞こえてくる。



『ねぇ,あの子何かしら』

『さっきからずっと学校の周りを走って,こっちをチラチラ見ているわよ』

『おい,先生に伝えた方が良いんじゃないか』

『そうだな。ちょっと先生呼んで来ようぜ』



 俺はその言葉を聞いて,いよいよ意を決して門に入る事を決めた。




「…………」


 校内には入ったものの,更に周りからの視線は痛く突き刺さる。


『何? あいつ校内に入ってきたぞ?』

『守衛さん何で止めないのかな』

『ちょっと,こっち見たわよ』

『目を合わせちゃダメ。何されるか分からないわ』



 えっと,一応練習試合に来ただけなんですけど…


 俺の心の声は誰にも届かず,出来るだけ小さくなって守衛さんに案内された駐輪場へと向かった。



「ここ…か…?」


 駐輪場もさすがに豪華だ。

 駅にあるような,前輪を乗せて鍵をかけられるようなつくりの物がズラリと並んでいる。

 その一つ一つに番号が振ってある所を見ると,自分の置き場所が決まっているのかもしれない。

 これは適当に置いたら怒られてしまうかも…


 一通り見て回っても,番号の無い物は一つもない。

 どうすれば良いか途方に暮れていると,一人の女子生徒がこちらに歩いてくるのが見えた。


 あの子に聞いてしまおうか。と俺の中の誰かが言った。

 聞いた所で教えてくれる訳がない。適当にでも置いてすぐにこの場を離れるべきだ。ともう一人の誰かが言った。


「…よし」


 俺は悩んだ末,声をかける事にした。






「いや~,本当に助かりました」

「いえいえ,困った時はお互い様ですから」


 結論から言おう。

 声をかけたのは大成功だった。


 関口七海と名乗ったその生徒は,嫌な顔一つせずに俺を助けてくれた。

 聞いた話によると,生徒以外が停められる駐輪場はこことは違う場所にあるらしい。

 ところが関口さんは,そこまでは遠いから,という理由で自分の場所を俺に貸してくれた。

 きょうはたまたま車で来たから自転車置き場を使っていないらしい。

 俺はありがたくお言葉に甘えさせてもらい,使い方もしっかり教えてもらった。

 その際,今日は卓球部の練習試合なんです,と伝えてみたら,なんと彼女も卓球部らしく,会場まで案内してくれる事になったのだ。


「この学校って,みんな外の人間を煙たがるから。実は私も転入生で,最初の頃に苦労したのよ」

「な,なるほど…」

「だから,山田君の気持ちは良く分かるのよ。大変だろうなって」


 そう言って笑う関口さんは,まるで天使のようだ。

 平均よりちょっと低い背丈。肩よりも少し長い髪はさらさらのストレート。綺麗に揃えられた前髪から覗く大きくて優しさに溢れている瞳。色つきのリップでも塗っているのか,ぷっくりとした唇はほんのり桜色に輝いている。


 正直,この子は俺の好みど真ん中ストレートだ。



 …何とかして,お近づきになれないものか


 これからの人生の中で,こんな子に出会える確率は恐ろしく低い。

 ここで,終わりになってしまうなんて,絶対に嫌だ。

 頭の片隅で,付き合って数カ月の彼女である加奈がぶつくさと文句を言っているが,すぐに頭を振る。

 今はとにかく目の前の関口さんが一番だ。



 などと考えている内に,会場である体育館に到着してしまった。



 この体育館も驚きの大きさだ。

 なんと中には控室や売店まであるらしい。

 俺の高校も控室が一つ割り当てられているらしく,関口さんはわざわざそこまで案内してくれた。


「じゃあ,私はこれで。男子と女子なので対戦は無いですが,今日はよろしくお願いしますね」

「こちらこそ,よろしくお願いします。本当に何から何までありがとうございました」


 関口さんが見えなくなるまで手を振り,俺は控室に入る。

 まだチームメイトは誰も来ていない。

 部屋の隅に荷物を置き,俺は考える。


 どうすれば,関口さんと繋がりを持てるか。


 とにかく連絡先を交換してしまえば一応の繋がりは維持できる。

 だが,生憎俺は今メモ帳の一つも持っていない。


 何かないかと部屋を見回してみると,目についたのはおやつの空き箱。

 これだ,と持っていたハサミで箱を切り,ペンで名前・電話番号・メールアドレスを書く。


 後は,隙を見てこれを渡すだけだ。





 ――あわよくば,連絡先交換だけじゃなくて――――




























 プルル,プルルと遠くから音が聞こえる。

 完全に覚醒していない頭を働かせ,何とか手探りに音源を探す。

 どうやら携帯が鳴っていたらしい。

 いつものアラームだと思った俺は電源ボタンを押して音を止める。


 しばらくして,また音が聞こえた。

 スヌーズ機能にしては間隔が短い。

 俺は少しだけ目を開け,改めて携帯の画面を確かめる。

 そこに表示されていたのは,中島加奈の名前。


 俺は一瞬で覚醒し,すぐさま電話を取った。



「はいもしもし?!」

『ぅん?! ど,どうしたのいきなり大きな声出して…』


 思っていたより大きな声が出ていたらしい。

 戸惑う加奈に構わず俺は言葉を続ける。


「い,いや別に関口さんとは浮気とかそういうんじゃなくて…」


 そこで,気づく。

 俺は今どこで何をしている。


 起き上がった勢いで上半身から滑り落ちた毛布。

 ふかふかの敷布団に,着慣れたパジャマ。

 焦点が合っていないのは,普段かけている眼鏡をかけていないから。


 それはつまり――




『幸太,関口さんって,誰?』

「いえ,それは…」

『何か変な言葉が聞こえて来たねぇ? 何だっけ,……浮気,とか』

「あの,ですね」

『5年目の記念日も終えて,ずっと一緒だよとか言ってたのは誰だっけ?』

「は,はい。言いました…」

『…詳しくお話,聞かせてもらえるかな?』

「は,はい…」

『……もう,私以外の人で変な夢見ないでよね…』

「え? 何か言った?」

『別に! 何でも無い!!』

「は,はい…」



 こうして俺の朝は過ぎていく。

 今日も良い日になりますように。


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