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サンサーラ・オブ・ディファレンティア  作者: 石野 タイト
序章
3/14

第2話『判決と準備』

ー全身に矢のように視線が突き刺さる。辺りを見回せばそこには人、人、人。皆ドレスやスーツなどに身を包み、きらびやかな中にそれでいて落ち着きのあるそれらの衣装は、彼らがそれなりの地位にあることを示している。


蒼真はその衆目の中心に立ち尽くし、ただ眼前を強ばった表情で見つめていた。蒼真は今、審議会と言われる所謂裁判にかけられているのだ。裁判と言っても弁護士や検事がいて討論するような場ではなく、決定した刑を申し付けるだけの場所だが。


ジェクトに魔族の王、カイゲンを倒し必ず生きて戻ると宣言したその直後にこの審議会のことを聞かされた。

彼曰くこれが最初の難所らしく、ここをクリアできなければこのまま午後には絞首台への階段を登るはめになる。


ジェクトはこの審議には参加できないらしく、つまりは味方がいないというわけだ。

一応アリシアがいるにはいるが、視線は厳しい。やはり封印を解いてしまった事への憤りから来るものなのだろう、蒼真が視線を向けるとあからさまに表情をしかめて視線を逸らされた。今にも舌打ちの聞こえてきそうな態度だった。


「ミヤノ ソウマ!」


「は、はい!」


唐突に声が響き蒼真は体をびくつかせる。

声の主は議長、今回は国王自らが勤めているということなので、国王ということになる。

蒼真の正面の数段上がった先にある玉座に座し、鋭い眼光を向ける国王は、その年を感じさせない威圧感があった。


「貴様に処遇を言い渡す」


その言葉に、蒼真は耐えるように固く目を閉ざす。


「貴様には我が国随一の戦士、アリシア・エルフリーデと共に禍の徒・カイゲンの倒滅を命じ、なし得た時のみ貴様の刑を免除とする」


「は、はい!」


受けた判決に安堵し、蒼真は力強く返事を返す。

すると、先程までとは違う柔らかい声で国王は続けた。


「アリシアに感謝するといい。彼女が多数派だった処刑側を説き伏せたのだ」


その言葉に、蒼真は人垣の中のアリシアに視線を移した。

しかしアリシアは判決を聞くとすぐに人の中へ消えていった。


「これにて、審議会を閉会とする」


国王の宣言で議会は解散となり、蒼真は晴れて自由の身となった。

蒼真は人混みのなかアリシアを探すが、その姿を見つけることはできなかった。


******


ーアリシアを見つけられないまま、蒼真は会場を後にした。

議会会場は城の敷地内にある専用の建物に設置されており、白い廊下が続いている。

廊下を少し歩くと、壁に寄り掛かるジェクトの姿があった。


「あ、ジェクトさん!」


「おぉソウマ、無事切り抜けたようだな」


「はい。アリシアのお陰みたいで、なんとかなりました。あの、アリシアにお礼を言いたいんですが、見ませんでしたか?」


「いや、見ていないな。それよりだ、ソウマ。悪いがすぐに次の準備がある、アリシアに礼を言うのはまたの機会にしてくれ」


そう言うと、ジェクトはついてこいとジェスチャーしながら廊下を歩きだした。

蒼真は小走りになりながらジェクトへついていく。


「あの、準備って…」


「君がこの世界で生きるための準備だ。ちょっとした儀式や申請などを行わなくてはならない…マズいな、もうこんな時間か」


呟きながらジェクトがおもむろに懐から取り出した物に、蒼真は一瞬目を疑った。

それは彼の世界で懐中時計と呼ばれていたものと瓜二つ、いやほぼそれに間違いない。


「えっ、あの、今って何時ですか?」


「ん?じきに昼の12時になるが、どうかしたか?」


ジェクトの言葉に蒼真はさらに驚愕する。12時という単語は蒼真の世界と同じだ。

蒼真は興奮しながら質問を続けた。


「あの、この世界って24時間何ですか?時間の表記って数字なんですか?」


「落ち着きたまえ、君はどうも興奮すると捲し立てる癖があるみたいだな…この世界は確かに24時間だが、単位は君のしている腕輪の効果で君に分かる単位に変換されて伝えられる。それを外して時間を訪ねても何をいってるのかは分からなくなるからな」


ジェクトに言われて、そういえば昨日牢屋で言われた気がする、と思い出す。

だが1日が24時間だというのは幸いした。時間の感覚はとりやすいし、わざわざ覚える必要もない。


「それで時間が分かるんですか?」


今注意されたばかりだが、蒼真は目を輝かせてジェクトの懐中時計を指差す。


「あぁ、この魔道具はこの地の魔力波を感知して時を刻んでくれる。見たことがあるのか?」


「はい。俺のいた世界にも全く同じものがありました。まぁ、動力は魔力じゃないですけど。それってやっぱり魔力がないと使えないんですか?」


「いや、これは魔力石を嵌め込んで使う物だ。魔力石とは、その名の通り魔力を帯びた石の事だ」


つまりは乾電池。ということはまるっきり蒼真の世界と同じものということだ。

そんなこんなを話していると、ジェクトはふいに立ち止まった。


「ここだ」


そこは議会から10分程歩いたところにあった三角屋根の小さな建物だった。

ジェクトが扉をノックし、扉を押し開く。

ジェクトに続いてなかにはいると、左右対称に並べられた椅子と、その先にある壇上が目にはいる。

雰囲気としては教会に近い感じだ。


「お待ちしてましたよジェクトさん」


奥から声がして現れたのは白いワンピースに紺のカーディガンを羽織った女性。しかし彼女の特筆すべき点はその水色の肌と頭の両側にあるヒレのような物だ。肌よりも濃い髪の隙間から出ているそのヒレが時折動き、それが飾りでないと分かる。


蒼真は今までに見たことのない存在に開いた口が塞がらない。


「あの…彼女は…」


「ん?あぁ、君の世界に魔族はいないんだったな。彼女はウンディーネのシナ。城内で魔法の研究をしている」


「ま、魔族って人間の城の中にいるんですか?」


「あぁ。我が国は人間も魔族も平等に暮らしている。さっきの議会にもいたはずだが?」


ジェクトにそう言われ、しかし緊張し過ぎて覚えていたない蒼真。

するとウンディーネのシナがスカートの裾を軽くつまみ上げながら頭を下げて挨拶してくる。


「こんにちは、貴方が噂のソウマ君ね?これから貴方にいくつか処置をさせていただきます、シナです。よろしくお願いね」


「は、はい。宮野 蒼真です。よろしくお願いします」


「ではシナ、あとを頼む。私は役所に彼の登録をしなければならない」


ジェクトに言われてシナは柔らかく頷き、ジェクトはその場を足早に出ていった。

シナは蒼真に向き直ると、ニッコリと笑みを向ける。


「さっ、奥に行きましょ」


シナに連れられて蒼真は建物の奥へと入っていった。


******


蒼真の連れられた部屋は板張りの床にところ狭しと小瓶の並んだ棚が陳列されていて、奥にはベッド、部屋の中心には白い塗料で描かれた六芒星とそれを取り囲む二重の円。これは蒼真の世界ではフィクションに出てくる“魔方陣”と呼ばれるもののそれだ。


辺りを見回しながら部屋の中心に入り、シナに視線を向けると、棚から1つの小瓶を取り出していた。

その小瓶からなにやら白い布に取り出し、蒼真のもとへと戻ってきた。


「今からこの“開花の種”を飲んでもらいます」


「開花の種?」


反復しながら蒼真は白い布に乗せられたそれをつまみ上げる。見た目はアーモンドに似た普通の種だ。大きさとしてはアーモンドより2回りほど小さい。


「これは本来、先天的に魔力核の小さいヒトに飲ませて魔力供給量の増加を図るものなの。あ、魔力核って言うのはこの世界の生き物全てにある魔力の源のこと。これが小さいと、私たちの世界では色々不便なのよ」


「へぇ…でも俺魔力核何てないのに何で魔力が?」


「確証はないんだけど、多分禍の徒の呪いが何かしらの影響を与えて今の貴方に魔力を供給してるんだと思うんだけど…ただ、今貴方のいった通り貴方には魔力核がないの。0から魔力核を作るようなものだから、成功する確率は半々ってところね」


「あの、失敗したら…」


「また違う方法を考えるけど、大丈夫よ。死にはしないわ」


そう言って笑ってシナは蒼真をベッドへと促した。

ベッドへ座り、まじまじとそれを見つめる蒼真。

そういえば、この世界に来て何かを口にするのは初めてだ。緊張の連続で朝御飯も喉を通らず全く食べられなかった。


「その種、噛まずに飲んでね。噛むと効果がなくなるから」


シナの言葉に頷き、口に含んで一気に飲み込む。


すると変化はすぐに訪れた。


「う…あぁ…」


焼けるような痛みが左胸を中心に広がる。息ができず、脂汗が全身から吹き出す。左胸を押さえる様に体を埋めて痛みに耐える。

永遠かと思うような激痛は、次の瞬間には何事もなかったかのように痛みの波が引いていく。


「はぁ…はぁ…あの、成功、ですか?」


「それはまだ分からないわ、次のをやってみないと。こっちへ」


シナに手を引かれ、蒼真は魔方陣の中心に立たされる。


「今から貴方に“共通認知魔法”をかけます。この魔法がかかればその腕輪がなくても言葉を理解することが可能になるの。ただし、こういった魔法を“付加魔法”って言うんだけど、付加魔法はかけられる本人の魔力核にかけるから、この魔法が成功すれば魔力核もできてるってことよ」


「なるほど。要はこれが上手くいけば全部OKってことね」


蒼真はシナに聞こえないように呟きながら頷く。

それを確認し、シナは蒼真の手から腕輪を外すと魔方陣の外に立ち、両手をかざす。


「тсршясртшшясрттшясрφκκλεκθΟΠΨκ…」


腕輪を外した蒼真には何を言っているのかわからないが、呪文を唱え始めたようだ。

それに呼応するように、魔方陣が青白く輝き出す。

その光はやがて蒼真を包み、次第に輝きを失っていく。


「どう?私の言ってること、分かる?」


「…はい、成功、みたいですね」


そう蒼真が答えると、シナは柔らかく笑い、腕輪を蒼真に返す。


「私の役目はこれでおしまい。何か異常があったら私のところへ来てね」


「はい、ありがとうございます」


蒼真はシナへ深々と頭を下げる。

すると、見計らったようにドアのノックする音が飛び込んできた。


シナが返事を返すと、部屋に入って来たのはアリシアだった。


「終わったか?」


「あ、アリシア!どうしてここに…」


「ジェクトに頼まれただけだ。いくぞ…シナ、世話になった」


それだけ言うとアリシアは部屋を出てしまった。

蒼真はもう一度シナへ礼を言うとアリシアを追って部屋を飛び出していった。

どうも、作者です。

今回は専門用語が頻発して分かりにくかったかも知れないと少し反省中です…しかも、全然進んでない。

何とかテンポアップしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。

PS

分かりにくい物や誤字脱字がありましたらご連絡いただければと思いますのでよろしくお願いします

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