8.あれっ!無くなっちゃった?
8.あれっ!無くなっちゃった?
瀧沢も鉄板とカセットコンロを持って来て、焼きそばを焼き始めた。フランクフルトとトウモロコシ、それに、ホタテやエビも焼き始めた。
「お前ら、いつも、こんな風にやってるのか?」
井川は片手に缶ビール、もう片方の手には串に刺したホタテを持ちながら良介に聞いた。
「今年は井川さんが来ると言うので、ちょっと趣向を凝らしてみたつもりなんですけど、お気に召しませんでしたか?」
「いいや!OKマークよ」
そう言って井川はピクニックテーブルの席に着いた。テーブルの上には焼きたての焼きそばやタコ焼きが並べられ、賑わっている。良介は同じように花火を見に来ている、ここのマンションの住人達にもそれらを振舞った。
調理が一段落して、みんなが席に着いた頃、良介の携帯電話に着信があった。どうやら弘子が到着したようだ。純は少し複雑な気持ちになった。けれど、今日は既に、良介の隣をキープしている。
「わー!すごいねぇ」
屋上に上がって来た弘子が第一声を上げた。
「おい、ありゃ誰だ?」
井川がすかさず聞く。
「春まで管理部に居た真崎さんです」
「ほー!美人じゃないか」
言うなり、井川は弘子に向かって手招きをした。井川が示すと、弘子は恐る恐る井川の隣に座った。
「ごめんなさい!バスで来たんだけど、途中で行けなくなってて…」
「そりゃそうだよ。だから早目に出てこないとダメだって言ったでしょう」
良介に言われて弘子は頭をかいている。
「そんなことはどうでもいいや。早く乾杯しようぜ!」
井川はそう言って、弘子のために改めて乾杯した。
「あれっ!そう言えば、去年、そこにクーリングタワーなかったっけ?」
良介が言うと、瀧沢は“待ってました”とばかりに得意気に話し始めた。
「去年、小野寺さんにクレームを付けられたので、撤去しちゃいました。」
「マジっすか?」
名取が驚いて言う。
「あー、本当だ!無くなってる」
純や優子も気が付いて驚いている。
「まあ、小野寺さんに言われたからというのではなくて、以前からやろうとは思っていたんですよ。でも、これで、第一会場の方も見やすくなったでしょう」
瀧沢の言うとおり、二つの会場の花火が良く見えるようになった。その分首が疲れるのではないかとも思ったけれど、メンバーたちはとても喜んでいる。
一杯飲んで、一息ついて落ち着いた頃、弘子がたこ焼きを焼いてみたいと言い出した。
「僕が教えてあげますよ」
名取が立ち上がって、テーブルに移ろうとすると、井川が待ったをかけた。
「俺に任せろ!こう見えても地元じゃ、いつもやってんだ」
井川は弘子の手を取ると、たこ焼き器が置いてあるテーブルへ移動した。名取がたこ焼き器を火にかけてネタを渡すと、器用に油を塗ってネタを流し始めた。かなり慣れている手つきだ。それから金串でくるくるとたこ焼きをひっくり返す。名取の手つきとは比べ物にならない。
「すごーい!」
弘子が声を上げると、井川は弘子に金串を渡して、やってみろと言った。最初はなかなか上手くいかなかった。すると井川は弘子の手を取って教え始めた。
「井川部長!それはセクハラだよ」
瀧沢や岡島が怒鳴った。
「いいんだよ!本人が喜んでるんだから。なっ!そうだろう」
「うん、楽しい!
「ほら見ろ!」
それを見ていた優子も、私もやってみたいと言って席を立った。瀧沢と岡島も残っているエビやホタテなどの材料を焼き始めた。ピクニックテーブルの席には良介と純だけになった。
「楽しいね!」
純が良介の腕に手を回し、体を寄せてきた。
花火が終わっても、例によって人ごみが落ち着くまで屋上でやり過ごすことにした。
「名取、今年は酔っぱらってないか?」
「大丈夫です!このメンバーで飲むときは酔っぱらっちゃいけないってことを去年の花火で学びましたから」
「去年、なんかあったのか?」
名取と良介の会話に井川が加わって来た。
「いえ、何もありませんよ」
名取はすぐに否定したのだけれど、この後、しつこく井川に問い詰められ、またしても終電を逃してしまうことになる。




