2.メンバーを集めろ!
2.メンバーを集めろ!
良介は会社で隅田川の花火のことを話した。岡島社長に皆さんにも声を掛けて下さい。と、頼まれたからだ。
「隅田川の花火か…。いいなあ。でも、土曜日にわざわざ出て来るのはちょっとなあ」
それももっともな話で、小林商事の社員は千葉や埼玉から1時間以上かけて通勤してくる社員がほとんどだった。弘子や亨以外で参加表明したのは、親会社に移動した柳瀬純と入社したばかりの笠原優子、工場の設備を担当している柳原修二だけだった。まあ、7人参加してくれるのなら面目は立つ。そして、7人のうち、女性が4人。悪くはない。
「なんだよ。それじゃあ、女の子が一人余っちゃうじゃないか」
亨が言う。仕事帰りに良介と二人で飲んでいた時だ。
「余るって?」
「だって、せっかくなら、4対4にした方がいいだろう!」
「4対4って、合コンじゃないんだから」
「おっ!それ、それ!合コンだよ」
「マジ?社員同士でか?」
「いいじゃんか。俺は外回りが多いから、純ちゃんとか優子ちゃんとはほとんど面識がないし。そうだ、今、日下部の下で修業中の名取を連れてこいよ」
名取は優子と一緒に、この春、小林商事に入った新入生のことだ。良介が教育係を務めている。
「名取かぁ…。あいつはあいつでデートとかの予定があるんじゃないの?若いし」
「いいから誘え!って言うか、命令だ。業務命令」
「そんな無茶な…。まあ、一応、声はかけてみるけど、無理強いはしないからな」
次の日、良介は名取を連れて現場廻りをしていた。その時に声を掛けてみた。
「なあ、今度の土曜日にみんなで隅田川の花火を見に行くんだけど、一緒に行くか?」
「えっ!花火ですか?」
「いや、予定があるなら無理しなくていいんだけど」
「いえ、予定はありません。是非お邪魔します」
「彼女とデートとかないの?」
「彼女より、日下部さんと一緒に行きたいっす」
「マジか?お前って、もしかして、こっち系じゃないだろうな?」
そう言いながら、良介は左手を裏返して右の頬に充てた。“オカマ”の仕草をして見せた。
「そんなことは無いですよ。ちゃんと彼女も居ますから」
「じゃあ、彼女も連れてくればいいよ」
「いいえ、彼女を連れてくるとウザいんで」
「ウザいって、お前らどういう付き合いしてるんだ?」
「倦怠期です」
「倦怠期って…」
何はともあれ、これで、亨の言う4対4になった。
良介がその話をすると、亨は満足げに頷いた。ところが、紀美代が急に退社することになった。社内的にはかなり前から決まっていたことらしいのだが、本人の希望でそのことは伏せられていたようだ。優子を入れたのも、紀美代の後釜としてだったらしい。それなら、送別会も兼ねるからと、紀美代に持ちかけたのだけれど、何かと忙しいからと断られた。紀美代の方で気を使っているのかも知れないが、送別会はまた改めてということになった。
「あーあ、これでまた3対4になったな」
良介が亨にそういうと、亨はケロッとした顔で答えた。いつもの居酒屋で飲んでいるときだ。
「いいんだ。男が余る分には。それに、名取の奴には彼女が居るんだろう?だったら、3対3じゃないか」
「それじゃあ、名取が可哀想じゃないか。あいつ、今、彼女とは倦怠期だっていうし」
「はあ?そんなの知るか!」
亨はそう言って大声で笑うと、生ビールが入ったジョッキを一気に空け、今度は日本酒の冷を注文した。
花火大会の前日。親会社に使いを頼まれた良介に声を掛けたのは純だった。
「明日、楽しみだわ。良ちゃんと一緒に花火見られるなんて」
「亨や真崎さんも来るけどね」
「ねえ、場所が分からないから、どこかで待ち合わせしようよ」
純がそう言うので、良介は5時に本所吾妻橋駅のA1出口で待ち合わせすることにした。そして、時間になるまで軽く一杯やってようということになった。
「そんな時間にお店やってるの?」
「花火なんだから、やってんじゃない。やってなかったら、缶ビールでも買って来て、先にやってればいいだけだよ」
そんな約束をして良介は会社に戻った。純は手を振って良介を見送った。




