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奇妙な短編

殺人日記

作者: ショッピー


 秋風宗次あきかぜそうじは担任の教師を殺した。


 宗次は深夜のゲームセンターで遊んでいた。もちろん校則で禁止されていたが学校に黙ってこういうことをするのが楽しかった。


 お金が尽きてゲームセンターを出ると、偶然担任の高村に出会った。校則に厳しい、うっとおしい教師だった。

(ちっ。こんなところで会うなんて)説教されることを覚悟しながら宗次は毒づいた。


「秋風!こんなところで何をしている。ちょっとこっちへ来い」そう言うと高村は宗次を路地裏へ連れて行った。人気のない、奥に塾がある空間だった。


 案の定そこで高村は説教を始めた。

そのうち高村は宗次の母親がいないことについて言い始めた。

「お前の家には母親がおらんからこんな息子が育つんだ」高村は獣のような目で宗次を見た。

その言葉を聞いて宗次の中の何かが切れた。


 気づくと自分でも抑えることができずに高村を押し倒していた。

宗次は高村の上に馬乗りになり、近くにあった酒瓶で高村を何回も殴った。

瓶が割れても殴り続けた。


 高村の頭からは大量に血が流れていた。それを見て宗次は怖くなった。

(そんな。オレ人を殺しちまった)宗次の手についた血は生々しかった。


 その場から逃げようとする宗次を見ていたひとりの女がいた。

「ねえ。あなた秋風君でしょ」女の声はソプラノのようだがどこか冷たい感じがした。


 振り返るとそこには同じクラスの四国山玲子しこくやまれいこがいた。


 (見つかっちまった)宗次は絶望の淵にいた。

警察に通報され、明日からオレは殺人者として生きていくんだ。

これからの事を考えると気が狂いそうになった。

宗次は頭を抱えた。


 「心配しないで。通報するつもりはないから」宗次の落胆ぶりを見て玲子は言った。それは救済の言葉だった。


 宗次は驚いて玲子の顔を見る。玲子は冷たく微笑んでいた。

「私があなたの共犯者になってあげる」



 翌日、授業は中止になり高村の葬儀が行われた。女子の中には泣いている者もいた。

宗次は激しく自責の念に駆られた。

棺に入れられた高村の顔を見ていると涙が頬を伝った。


 昨日の夜、玲子は震える宗次に代わって隠蔽工作をしてくれた。

玲子は妙に慣れた手つきで瓶についた宗次の指紋をふき取り、強盗の仕業に見せかけるため財布からお札を抜き取った。

 「あなたが撲殺してくれた助かったわ。もし首を絞めて殺していようものなら処理が大変だったわ」

かわいらしい顔で玲子嬢はそんなことを言う。宗次はこの女は何者なのかと不思議に思った。


 一通り作業が終わった後、宗次は玲子に聞いた。

「何でこんなことしてくれるんだ。通報すればいいじゃないか」宗次は少し不気味だった。

「私、一度こんなことやってみたかったのよ」そう言うと八重歯を見せて笑った。


 こうして、強盗に襲われた不運な高校教師という現場ができあがったのだ。

宗次はその日から殺人日記をつけ始めることにした。殺人をしてからの生活や自分の気持ちを書くのだ。自分の気持ちが整理したかった。


 葬式の翌日、思いのほか早く警察はやってきた。

刑事は生徒全員に高村先生はどんな人でしたかという質問をし、アリバイを聞いた。

刑事は生徒にも疑いをかけているらしい。


 やがて宗次のところにも刑事が質問をしにやってきた。

先生の印象を聞かれ、ちょっと厳しいけどいい先生だったと答えた。汗をだくだくに掻いていたので刑事が不自然に思ったかもしれない。

 最後にアリバイの質問をされた。

「昨日の夜はどこにいたのかな?」刑事が聞いてくる。

宗次は玲子と示し合わせた回答をした。

「その日の夜は同じクラスの玲子さんと勉強をしていました」

「ほう。どこで?」刑事が意地悪く聞く。

「玲子さんの家です」

刑事はそれ以上何も聞かず、他の生徒の方へ行った。


 刑事とのやりとりを聞いていた友人の山本が意味深なことを言った。

「お前あいつとつるんでるのか。ならやめといたほうがいいぜ」少し深刻な表情を浮かべていた。

宗次はどういうことか聞きたかったが山本は行ってしまった。



 帰り道、玲子が宗次の方へ近寄ってきた。

「あっ。玲子さん。この前はありがとう」宗次は笑顔でいった。これでオレ達が疑われることはないと宗次は安心していた。

「玲子でいいわよ」

躊躇いがあったが宗次は呼んでみた。「れっ玲子」声が震えていた。

「もう。宗次君ってかわいいわね」


「これで一安心だね」宗次は玲子の顔を見た。

「そうね。多分強盗の仕業ってことになると思うけど。当分気をつけなきゃ」

家の近くで二人は別れた。

宗次には山本が言った言葉が理解できなかった。

何がいけないんだろう。

宗次はまた殺人日記を書き始めた。今日書くのは刑事の事だ。



 それから一週間何も起きずに過ぎた。殺人日記の内容は人を殺してしまった自分の心情などが多くなっていた。高村を殺した強盗はいまだに見つからないようだ。あたりまえだ。自分が殺したのだから。


 山本の言葉の意味が知りたかったが山本は体調を崩し、ずっと休んでいた。

放課後、玲子が宗次の家に遊びに来た。

「宗次君って、お母さんいないの?」家の様子を見て玲子は聞いた。

「うん。三歳の時死んじゃった」宗次はうつむきながら言った。

それは宗次が人生で一番泣いた時だった。

「それ以来、親がいないって馬鹿にされて・・・。高村を殺した時もそのことを悪く言われたからだったんだ」


 「そうなんだ。悪いこと聞いてごめんね」そう言うと玲子は目に涙をためた。

「ちょっと。よしてよ」宗次は必死に慰めた。そんな玲子が愛おしく思えた。



 「宗次君って優しいんだね」玲子は顔を赤くして言った。

「玲子・・・」

そんなことを言う玲子を抱きしめたくなった。

か弱い玲子。頼りになる玲子。泣いている玲子。

全てが愛おしかった。

 ふたりは抱き合った。

「玲子。お前が好きだ」そのまま何分も抱きしめた。

「ありがとう」


 抱きしめあった後、二人は何も言わずに向き合っていた。

そしてそのあと何事もなかったように勉強をした。


「ちょっとトイレ行ってくる」宗次は部屋を出た。

 玲子を抱きしめることができた。

そんな思いが頭の中をしめていた。山本が言っていたことなんて頭の隅に追いやられていた。


 トイレから戻るともう日が沈もうとしていた。

「もうそろそろ暗くなってくるし帰るね」玲子はかばんに教科書を入れ始めた。

 玲子が帰ってしまうのは寂しかったが仕方がなかった。

「うん」

「ばいばい」



 夜七時を過ぎ、殺人日記を書こうとした宗次は日記がなくなっている事に気づいた。机の引き出しにしまっておいたのに跡形もなくなくなっているのだ。

 宗次は誰かに盗られたのだと考えた。

父は宗次の部屋に入ることは無いので、あとは今日来た玲子しか考えられなくなる。

 しかしあの玲子がこんなことをするはずがない。宗次は信じたくなかった。

その宗次の頭の中に山本の言葉が思い浮かぶ。「やめておいた方がいいぜ」その言葉を思うと宗次は気が気ではいられなくなった。

宗次は山本に電話を掛けた。


 「おう。なんだ宗次」山本は咳をしながら言った。

「お前に聞きたいことがあるんだけど」

「どんなことだ?」

「四国山玲子についてなんだけど」宗次は思い切って聞いた。

山本の唾を飲み込む音が聞こえた。

「あいつは危険だぞ」


「どういうことだ?」宗次はやっと聞きたいことが聞けてうれしさ半分怖かった。


「あいつは悪女だ。いままでさんざん男を騙してきた」山本の声から緊迫した状態が伝わってきた。

「なんだって」


「あいつはオレの親友に声をかけ、付き合うようになった。最初の方は順調だった。とてもお似合いのカップルに思えたんだけど、だんだんとオレの親友に金を貢がせるようになって用が済んだらゴミのように捨てたんだ。そのことが原因でその親友は自殺しちまった」

 山本は一言一言恨めしく言った。


宗次は何も言う言葉が見つからなかった。


「あの女は他の男も破滅に追い込んだ」


あの玲子が男を弄ぶ悪女だったなんて。あの雰囲気からは想像もできなかった。

オレもその標的にされるところだったのか・・・。


 「だからお前も気を付けるんだ。あいつは男がどん底に落ちていくのが楽しいんだ」

「うん。わかったよ」宗次は電話を切った。


 宗次は明日、玲子に別れを告げることを決心した。そして、殺人日記を取り返さなければ。


 翌朝、ご飯を食べているときに警察が押し込んでいた。

「お前には高村教諭殺しの容疑がかかっている。署まで来い」

いきなりの事で何が何だかわからなかった。宗次の父もぽかんとしている。

「お前の日記を提供してくれた人物がいるんだ」そう言うと若い刑事は宗次の手をひっぱりパトカーに乗せた。


 宗次の家の前で玲子が冷たく笑っていた。



 



 

 犯罪を犯してしまった少年と悪女の話でした。あまりホラーぽくなかったですがどうでしたか?

感想、アドバイスお待ちしています。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  伏線が利いていること。 [気になる点]  展開が先読みできてしまうこと(これはいい意味でも悪い意味でもです)。 [一言]  こんにちは、水霧です。  まさかまさかと思いつつ読んでいくと、…
[一言]  読み進めていく内にどんどん怖くなっていきました。  最近読んだホラーの中では一番面白かったです。
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