劣情スピーカーの誘惑
本格的な性的描写はありませんが、雰囲気が非常に卑猥です。
どうしてこんな状況になっているのかと問われれば。
いやいやほんともうどうしてこんな事態になってんの? 寧ろ私が聞いてみたいわけで。
……ほんと、どうしてこうなった!
***
ちょっと時間を遡ってみよう。今日はただ、双子の後輩がお笑い番組のDVDとか雑誌とかを持ってきて、テレビ見たり雑誌を回し読みしていた、だけなのに。
「へえーこういう風になるんだー、っわ、不思議なピンク色だね!」
「……可愛い」
ちょっとそれはどういう意味かね誰に何に対して言ったんだい? 内容によっては戦争ものだぞ君ら。
そりゃちょっと、シモイ感じの話題を吹っかけたのは私だけどさ。
「私も触っていい?」
「……優しく」
聞くなら私に聞け、つか許可出すのだって私の権利というか役割というか? そんな感じじゃないの私の人権はどこにいった?
「ヒクヒクしてるけど大丈夫?」
「……快楽の証拠」
「そっか、そうなんだ!」
だからまず私に聞いてこいと口を開こうとしたところで、下から見上げてきたキヨくんと目が合う。
「気持ちいイ?」
からかうでもなく皮肉るわけでもないその問いかけ。ただただ単純な疑問だけを深緋の瞳にのせて、聞いてくる。
その邪気のない様子に思わず頷いてしまい、よかったと満面の笑みを頂いた。
……ああ、もう、こいつ顔だけは本当にいいんだよな。アリトくんの方もそうだけど。
「なーネーネとどっちがキレイ?」
「……どうだろ。ちゃんと見てなかったから」
「待ちやれ。そこでどうしてお前達の姉の話が出てくるのじゃ」
「だってアニキの初めてネーネだし」
「そうそう」
どうしよう。
反射で突っ込んでしまったけれど、明らかに突っ込むべきではない話になってきた。
「……それは合意か?」
「……頼んだらしてくれた」
「誘ったの貴様の方かえ! むしろ弟に誘われて乗った向こうもどうなのだ!?」
好奇心に負けた結果、地雷原に踏み込んだ気分。助けてっていうか、このツインズを回収して欲しいなー男たらし吸血姫(は地下室で爆睡中)。
「もしかして、キヨくんも……?」
毒を食らわば皿までとばかりに、地雷原疾走開始。
湧いた好奇心を鎮圧できたためしなんかなかったりする。
「ううん。ていうか、まだ童貞なんだー恥ずかしいことに!」
そこまで赤裸裸な回答は求めてなかったけれど、何故か凄く安心した。
ところで、地雷爆発。
「ケツはネーネだけど」
「……は?」
イマナンテイッタ。
「んー? だから後ろの初めてはネーネだった。調教? 拡張? ま、大体そんな感じー」
(神様助けて!)
今なら本気で叫べる気がする。叫んだところで口塞がれるんだろうけど。
「っ!」
なんて少しばかり現実逃避していたら、腰掛けていたベッドにそのまま押し倒された。
犯人はアリトくん。何だ何だ。
「……最後に、解る」
「あっなるほー。さすがアニキ!」
「流石も何もないだろうが! まだ続いていたのかその話!」
「いーじゃんいーじゃん。先輩もまだ元気みたいだし!」
そりゃ、健全なティーンズとして仕方のない反応じゃないの?
こうして話している間もアリトくんの手は離れなかったし、キヨくんはキヨくんで撫でたり突付いたり舐めたり好き勝手しやがってこいつら。
しかも、私を挟み込むように座り込んでいるものだから、近付かれるたびにあれやら
それやら当たったりずれたりしてくすぐったい。だから私は悪くない。
「……準備する」
私の腹の上に跨ったアリトくんがシャツを脱ぎ捨てる。
露になる、鎖骨、胸板、腹筋、その他諸諸。さながら雑誌のモデルのような肉体美に、ごくりと喉が鳴る。
「ニーニの次はオレなー。本物は初めてだから結構ドキドキっ。楽しみダ!」
「え、あ、えと、初っ端からそんな濃ゆいプレイは」
「嫌?」
アリトくんの細い肩越しに覗き込んでくるキヨくん。無邪気に、何が問題なのかとでも言いたげにこてんと首を傾げる。
あ、駄目だこれ。私、こういうの、ほんと―─
「嫌では、ない」
「よっしゃ! じゃあオレも準備してくるー」
どこまでも明るく、淫らがましさなんて微塵も感じさせず、キヨくんは部屋の隅に置いたボストンバッグを漁りはじめた。
私の上でやり取りを黙って聞いていたアリトくんは、何も見通せない霞色の目で、何もかも見通しているように、薄く笑った。まるで、悪魔のように。
「何じゃ」
「……何でも」
「君は、姉貴以外と“致した”のかえ?」
「姉貴だけ」
「っく、ははっ! そりゃ最悪じゃな」
「……嫌、ですか?」
弟とまるきり同じことを聞いてくる。返事は聞いていたはずなのに。
――ああもうほんと、こういうの駄目なんだよ私。こういう、あらゆる意味でブッ飛んでいて、そのくせ道から外れている自覚がない人間って、駄目。
だって、私はどこまでも普通なんだから。私がやってきたこと今やっていることは、もの凄く解り易く、普通のワルイコト。何十年後か経った時に、笑い話にできるような。
だから私は駄目だ。とても人には話せないことを、自覚も後悔もそれこそ快楽すらなく、ただそれこそが『普通』のこととしてやってしまうような人間に、勝てないんだ。
「悪くはないぞ」
首を精一杯伸ばして彼の頬を舐めてあげれば、やっぱり感情の読めない笑顔でキスしてきた。
(さあ、遊びましょう?)