クリスマスの前日に
視点は体育会系娘の如月舞です
普段はバカなことばっかりやって、周囲(主に女子)から冷たい視線を向けられる【あいつ】が、クリスマスまで残り1週間に迫った時から、妙に真面目になりだした。
そんな様子を見ていた私が、親友の皐月にそれとなく尋ねれば、返ってきた言葉は―――
「舞にゃん気になるかにゃ~?」
と、明らかに「私は理由を知っている」と言わんばかりの含みある笑みを浮かべ、仕方なくクラス内の男子の中でもよく話す仲である相澤に再びそれとなく訊いてみると、
「ん~……まぁ……あいつにも色々あるんだろう」
と、濁された言葉が返ってきた。どうやら皐月や相澤、その他クラスの何人かは【あいつ】が真面目になった理由を知っているらしいが、真相を聞きだすまでには至らなかった。
そうして過ぎてしまった1週間……あっという間にクリスマス・イヴである。
「今年も家族で過ごすのか……」なんて思っていた昼下がり、不意に携帯電話がメール着信を告げた。
送り主は相澤由希。今日はイヴだから彼女と一緒にデートをしているはずだと思ったんだけど、予想外に「みんなで遊園地に行かないか?」というお誘いだった。
まぁ家族で過ごすクリスマス・イヴよりもみんなで過ごしたほうが楽しいかもしれない……なんて安直な考えで「いいよ」と、素っ気ないメールを返す。その後2、3回のやり取りで、集合場所・時間・参加メンバーを知り、私は両親に出かける旨を伝え、集合時間30分前までを、読書と冬休みの課題に費やした。
◇
自分で自分の格好に自嘲する……なぜかって?たかが友達と遊ぶってだけで、なんでこんなにもメイクにも服装にも気合いが入っているんだろうと思ったから。
集合場所である嶺桜高校前の門でそんなことを考えていた時―――
「如月~っ!!」
聞きなれたバカ声が、私の鼓膜を揺らした。
「っ!?でかい声で呼ぶなバカぁっ!!」
思わず叫ぶように声を荒げたのは、私の名を呼ぶ声が予想外に大きくて、道行く人々の視線を一気に集めてしまったからだけど……声を荒げてしまった時点で、私もこのバカと同類か……。
「うぃっす~!」
「……ってか、最初に来たのがあんたなわけ?」
「ひでぇ!ひでぇよ如月ぃ!!」
ぎゃあぎゃあとうるさいこいつは、いっぱしに大川健一って名前がある。学校に一人くらいは居るであろう“お調子者”な男子を想像してくれればいい。まんま、そんな感じだから。
「何気にひどいこと考えてない!?」
「うっさいバカ!ってか、他のみんなはまだ来ないの?」
「あぁ、そうだった!みんな先に遊園地に行ってるからって」
「はぁ!?何それ!!」
「わかんねぇよぉ、つかボーっとしてても始まんねーし、俺らも行こうぜ!!」
「え、あ、ちょっと!?」
「行こう行こう!」と、ちょっと強引な感じもした大川。普段なら優柔不断で、誰かに寄生してなきゃ行動も出来ないやつなのに、なんで今日に限って……。
それに―――
不意に掴まれた手を振り払うことが出来なかった……いや、正確には―――
◆
集合場所の嶺桜高校前のバス停からバスに乗り、20分ほど進んだところで最寄り駅に到着。そこから出向している遊園地行きの無料周回バスに乗って5分。目的地である遊園地【紫桜城ワンダーランド】に到着した……んだけど……
♪~♪~♪~
バスを降りた瞬間、私の携帯に着信が。
「もしもし?ん、今着いたんだけど……は?……ちょっと待っ……えぇ?」
電話の相手は皐月からだったんだけど、その皐月が―――
『舞にゃん、私たちからのサプライズにゃ~♪実は私たちもユッキー達も、遊園地には居ないのにゃ!』
とんでもないことを言いやがった!
『詳しくはそこに居るであろう健一に聞いてみるといいにゃん♪じゃ~にゃ~ん♪♪』
「ちょ、ちょっと皐月!?!?」
一方的に電話を切った皐月に対し、私の感情は困惑から一転して怒りに。沸々と湧き上がってくる怒りの矛先は当然―――
「け~ん~い~ち~……!!」
この件に大きく関わっているであろう(というか詳細はこいつが知っている)健一に。胸倉を掴もうと手を伸ばした私だったけど……
「まぁまぁ落ち着けって」
妙に冷静な健一が、私の行動と言葉を遮った。
「……確かに騙したのは悪かったよ……でもさ、こうでもしねぇと二人っきりで出かけるなんて出来なかったわけだし……ほら、俺ってヘタレじゃんか?」
ヘラッと笑う健一。思わず伸ばした手が止まってしまう……。いや、それ以上に―――
「……今、なんて―――」
思わず耳を疑った。健一が……健一が―――
「だーかーらっ!そう何度も言わせんなってぇ。俺だって恥ずいんだよ……」
「だって、今、あんた……」
「だーもぅわかった!ヘタレな俺に何度も言わせんなよっ!いいか、1回しか言わねぇかんな!!」
外は吐く息も白くにごるほど寒いのに……頬は痛いほどに冷たいはずなのに―――
「好きな女の子と一緒にクリスマス・イヴを迎えたかったんだよっ!!」
―――私の顔は、焼けるほどに熱く感じていた。
◇
一緒に遊園地で遊ぶ時間は夕方だったから決して長いとはいえなかったし、不意の告白だったから、その事で頭がいっぱいで、あまり多くを覚えてはいない……。
けど、唯一覚えているのは、最後に乗った観覧車での会話……。
「結城に言われたんだ……「バカばっかやってないで、たまには近くに居てくれる女の子のことも考えてあげたら?」って……俺、バカだから最初は何言ってるのか全然わかってなかった。けど、ちょっと考えれば、答えは簡単だったんだよ」
私たちを乗せた観覧車が半分ほど上に差し掛かった頃、無言だった健一は、不意に言葉をつむぎだし始めた。
「普段の学校生活でも、夏休みにみんなで遊びに行った海でも、体育祭の時も、文化祭の時も……俺のそばに居てくれたのは、如月だった……。そっから、如月のことばっか考えてて、如月に見合うような男になりたくて、表面だけでも真面目になろうって思って……」
私たちを乗せた観覧車のゴンドラ(?)が、頂上へと近づいていく……。けど、私は景色を見る余裕なんかなくて、ただただ、健一の言葉に耳を貸している……。
「俺、本気で女の子のことを好きになったことなんてなくて……だから今日も、どう誘えばいいのかわかんなかったから、相澤たちと相談して……。 ほら、俺ってヘタレだし、もし断られたらどうしようってことばっか考えてたけど……来てくれて、嬉しかった」
「わ、私だってっ!!」
へへっと笑った健一に対し、私も、私なりに自分の本音を曝け出していた。
「高校に入ってすぐの頃は、あんたってバカばっかやって、いっつも私らに迷惑ばっかかけるくせに、いざって時にはやってくれるし……なんかうざくても憎めなくて……いつの間にか、私のそばには健一が居ることが当たり前になってた……でも、あんたは私のことなんか見てなくて……体育祭のダンスの時だって、私なりに自分をアピールしたつもりだったのに!!」
今までのことが走馬灯のように頭の中を駆けていく。愚痴るつもりなんてなかったのに、気づけば涙ボロボロ流して、自分の感情を精一杯ぶつけてて―――
「……遅くなってごめんな……」
「……ばかぁ……」
やった気持ちが通じた。そのことが嬉しくて、つい立ち上がって……
「わっ!ばかっ!!」
「ふえ?きゃっ!??」
私が急に立ち上がったから、ゴンドラがグラっと揺れて……不安定な足場に、私の身体が健一へと向かい―――
「「!!!???」」
私のファーストキスは、自分の起こしたハプニングによって歯と歯を当てるという痛い思い出になった。
「もうっ、ちゃんと支えなさいよバカァっ!!」
バキィッ!!!!←グーパンチ
「俺のせいなのおぉぉおおっっ!???」
⇒⇒⇒
相澤宅にて:相澤由希&綾館美雪
「うまくいってるだろうか?」
「う~~ん……でも、大丈夫だと思いますよ」
「む?その根拠は??」
「だって今日はクリスマス・イヴですから」
「ふむ。ただなユキ……クリスマス・イヴだというのに、どうしてクリスマスイベントに関係のない鍋料理を私たちは食べているんだろうな……?」
「……すみません、“栄大”が鍋用鶏肉の特価をしていたんで……」
⇒⇒⇒
某ファミリーレストランにて:河南秋斗&結城皐月
「あっき~、サーロインステーキお代わりにゃ~♪」
「ま、まだ食べるのか……」
⇒⇒⇒
獅子神宅にて:獅子神紗姫&リリナ・F・ナイトロード
「……つか、アタシらの出番が全くなかったんだけど」
「まぁまぁ、これ、家から持ってきたワインなのですが、シングル同士、一緒に飲みましょうよ!」
「……メイドからお酌されるのも、なんか変な気分だな」
⇒⇒⇒
湊奏宅にて:湊奏
「…………」
皆様、よいクリスマスを!
久々に書きました。約2ヶ月ぶりといったところでしょうか……。全くといっていいほど、文章に進歩がない!それどころか退行してないか!?と、われながらに思っている次第です。最後までお付き合いいただいた読者の方々、本当にありがとうございました。