2・Dream srms
「夢藤……く、ん……?」
幹也は薄れていく意識の中で、確認するように言った。
樹の目に映るは、身長170センチほどの男。
顔は少年と青年の中間あたり。
髪型は夢藤樹のものと同じ。
ピョンとはねたアホ毛と言うべき髪が特徴的だった。
服装は神柳高校の制服で、サイズは、夢藤樹のものならばこんなに大きくはないはずだが、幹也と同じくらいの大きさだった。
そんな男の手には黒い銃が握られている。
「――さて……今回は銃か……。姉さんほど巧く使えないが、仕方ないな」
男はそう呟いて、幹也の背から半分ほど突き出しているカマキリ型のナイトメアに向けて発砲した。
パァン!! パァン!!
銃声が幹也の鼓膜を揺らす。
銃口から弾きだされた銃弾はナイトメアに向かって一直線に飛んでいく。
その刹那、銃弾がカランと音を立ててアスファルトの地面に転がった。
銃弾は真っ二つになっていた。
ナイトメアがその自慢の前肢というべき鎌を使い、斬ったのだ。
銃弾のスピードは遅くても、195m/s。速いものであれば音速を越える。
どちらにせよ、人の目では見切ることは不可能だ。
それを、目の前の怪物は見切り、斬り裂いたのである。
これがどれほど凄いことなのか、どんな子どもでも容易に理解できるだろう。
「! 斬った……予定通りには行かないか……」
そう言うと、男は学生鞄の中から何やら小袋を取り出して、それをナイトメアの上へと放り投げる。
ナイトメアの真上あたりで袋の中から植物の種のような物が飛び出し、弾ける。
すると、ナイトメアが姿を消した。
「……今はこれくらいしかできないな……」
男はそう言うと、意識を平常に取り戻したらしい幹也のもとへと駆け寄る。
「幹也! 大丈夫か!!」
男は、そう言って、幹也の背をさする。
「う……な、なんとか……それより、君は……?」
「何言ってるんだよ。俺だよ」
男の声が少しずつ高くなっていったかと思うと、
「夢藤樹だ」
完全に小学生チックな姿をした夢藤樹へと変わっていた。
「へ……?」
「?」
「え~~~~!!!????」
「んだよ……そんなにおどろくこたぁねえだろ」
小学生サイズへと『戻った』樹は未だに信じられない様子の幹也に言う。
ふたりは今、夕焼けに染まる道を並んで歩いている。
「いや……誰が見ても驚くよ。そんな体質……? 体質……なの?」
「ちげーよ。これは『呪い』だ」
「……? 呪い?」
「おう。お前もさっき、見ただろ。『ナイトメア』をよお」
「ナイトメア……? それって悪夢ってこと?」
「違う。お前の背中から出ていた気色悪いバケモンだ」
樹がそう説明すると、幹也は納得したように手を叩く。
「あぁ……はっきりとは見てないけどね……あれって一体……?」
「あれはな……『人に悪夢を見せて精神を食らう悪魔』だ」
「悪魔?」
樹は、そうだ、と言って続ける。
「ナイトメアは夢と現実の狭間――此処とは次元が違う空間に生息する生物だ。その姿は、えと……こういう時はなんて言うんだっけ」
「千差万別?」
「お! そうそう! それそれ! ――で、食料として動物の精神を食らう。悪夢を見せて心を揺さぶって、体を乗っ取り、内側から破壊していく。性質の悪い奴らだ」
樹が言うには、精神的に不安定になると、ナイトメアに憑かれやすく、危険らしい。
「へぇ……じゃあ、夢藤くんは何なのさ」
「俺か? 俺はソイツらを倒すべく存在している職業、『スリーパー』だ」
「スリーパー?」
樹は、ああ、と簡単に返す。
「スリーパーってのは、この世に蔓延るナイトメアをぶっ倒し、人々を快眠へと導く! そう! 正義のヒーローってとこだ!!」
樹はそう言って、親指を立てる。
「スリーパーになったヤツは特別な能力を持っていてな……俺の場合は夢装って言って、夢で見た武器を現実のものにする能力だ」
幹也はそれを聞いて、ハッとする。
さっきの銃はそれだったのか、と。
「まぁ、見ていた夢に左右されちまうヘンテコな能力だけどな」
「そ、そんなことよりも、『呪い』って一体?」
「ああ。俺は一年前にあるナイトメアに呪いをかけられた。躰が小さくなるという呪いをな」
樹は、自分の小さくなった手を見て、憂うように言った。
それを見て、幹也は黙るしか無かった。
「……俺は必ず呪いを解く。そのためにあるナイトメアを探してるんだ……。まぁ、この話はこのくらいで終わり! 次の話に移るぞ!!」
「次の話?」
「ああ。今から事務所に行くぞ!!」