7話 缶詰
警察のオカルト現象対策部に電話相談したけれど、微妙な返事だった。どうやら、オカルト現象の中でも、メリーさんは比較的安全な方らしい。だから、警察がわざわざ処理することは少ないそうだ。
というわけで、警察とのやり取りを終えた。静まり返った自室の中で、つい思い悩んでしまう。
「メリーさんは被害が少ないとはいえ、殺人事件も起きているのに。この異世界の警察は呑気だな。いやでも、メリーさんどころではない怪異と、警察は日々戦っているのだろう。よく分からないけれど、すごく大変そうだな。でも、だからといって、私の悩みが解決するわけじゃないんだよね」
今日も休日だから、メリーさんからの電話が鳴りそうだ。でも、もうどうしたらいいのか分からない。このままメリーさんと仲良くなったら、すごくまずい気がする。
そんなことを思っていたら、メリーさんからの電話がきた。どうしよう。
「私、メリーさん。今、外国にいるんです」
メリーさんがなんかとんでもないことを言ってきた。ちょっと待って。どういうことだ。
「はい」
とりあえず、返事をしてみる。人間が何か言わないと、メリーさんは会おうとしてくる可能性が高まると言われている。
「今の私は、塩水に漬けたニシンの缶詰の香りを楽しんでいるんです。本当にすごいんですよ。お料理のはずなのに、生ゴミを圧縮したような香りなんですっ」
メリーさんがやばいことを言い出した。それってさ、あの有名な缶詰のことじゃないか。
「シュールストレミングですか」
一応聞いてみた。すると、メリーさんが上機嫌そうに笑い出した。
「そうですっ。シュールストレミングですっ。人間達はこの香りが大好きなんでしょう。私が香りを身体にまとって、モモコさんへ会いに行ってもいいですか」
メリーさんはシュールストレミングの臭いが平気なのか。メリーさんの嗅覚は、人間のものとは違うという可能性が出てきたんだけど。
「いいえ。メリーさんは絶対来ないでください。メリーさんが怪異だとか、それ以前の問題です。シュールストレミングの臭いをつけて来るとか、それはただの嫌がらせですよ。メリーさんは私のことが嫌いですか」
つい本音をぶつけてしまう。だってさ、メリーさんが人間だったとしても、普通にやばすぎるよ。
「私はモモコさんのこと好きですよ。モモコさんはシュールストレミングのこと、お嫌いですか」
メリーさんが泣き出しそうな声で訴えてかけてくる。逆に聞きたいが、シュールストレミングの匂いが好きな人間っているんだろうか。いたとしたら、その人は勇者だ。
「私はシュールストレミングの臭いが嫌いです。実際に嗅いだことはありませんが、それでも嫌です。とにかく、シュールストレミングの臭いを私に近づけないでください。もしかしたら、シュールストレミングの味はとてもおいしいのかもしれませんが。それでも、私は臭いに耐えられないでしょう」
私は全力で念押しした。すると、メリーさんの声が消え入りそうに小さくなった。
「はい。申し訳ございませんでした」
メリーさんはそう言って、電話を切った。メリーさんがかわいそうとは思ったものの、私はこらえた。
だって、シュールストレミングの缶詰を持ったメリーさんがやって来たら、私は匂いで倒れてしまう。怖すぎるよ。
メリーさんの気が変わって、私の家へ突撃してこないかな。すごく心配だ。




