6話 焼肉
次の休日、メリーさんからの電話はなかった。すごく安心すると同時に、少しばかり寂しくなった。
「でも、これでよかったんだよ。メリーさんの被害者で、亡くなってしまう人もいるんだから」
自分にそう言い聞かせつつ、日常生活を送った。SNSで、メリーさんのニュースが増えてきた。
悲しいな。メリーさんがどこかへ行ってしまった。メリーさんは私にあれだけ話しかけてくれていたのに。
「メリーさんと話したい。なんて思っちゃいけない」
そもそも、こちらからメリーさんに電話する手段なんか存在しない。メリーさんの電話は、いつも非通知だからだ。
「だから、私はメリーさんともう一生関わらないのだろう」
そう推測しつつ、何週間か経った。すると、ある日突然メリーさんから電話がかかってきた。
「私、メリーさん。今、焼肉店の前にいます。私は味が分かりませんが、香りは頑張って理解できるようになってきました。お肉のジューシーな匂いがいっぱい漂っていますっ」
メリーさんが必死な声で言ってきた。すごく愛くるしい。いや、そんなことを思ってはいけない。
まるで無垢で無邪気な少女みたいな、そんなメリーさんだけれど。実際のところ、メリーさんは人を殺しまくっている恐ろしい怪異だ。
そう。メリーさんはオカルト現象であり、恐怖すべきなんだよ。メリーさんと仲良くなりたいだなんて、絶対思ってはいけない。メリーさんを信じちゃ駄目だ。
「メリーさんはお肉の匂いが分かるようになったのですね。とても素晴らしいことです」
でも、私は本気で賞賛してしまった。いけないって分かっているのに。
「お褒めの言葉をいただき、誠にありがとうございますっ。モモコさんにそう言っていただけて、本当に嬉しいですっ」
メリーさんがあまりにも綺麗にはしゃぐ。こんなメリーさんが人殺しなんかしているはずがない。メリーさんはいい子に決まっている。そう思いたい。
「メリーさんが香りを勉強している間、私以外の人とどんなお話をしたのですか」
とりあえず、探りを入れてみることにした。他人に嫉妬しているみたいな、変な言い方になっていないかな。大丈夫だろうか。
「たくさんの人と、色んなお話をしましたよ。今あなたの後ろにいるのって言って怖がらせるの、とっても楽しかったです」
メリーさんの言葉を聞いて、ゾッとしてしまう。人間の背後にメリーさんが立ったら、それは殺しの合図だと言われている。
最期ってどうなるんだろう。この世界のメリーさんの都市伝説では、刃物での殺傷説が有力だけれど。何にせよ、私はメリーさんに対して警戒しなければならない。
「よかったです。メリーさんは私以外にも、たくさんのお友達がいるのですね」
突き放したように言ってみる。皮肉が伝わったのか、メリーさんはあいまいな声を漏らした。
「確かにそうなんですけれど。私はモモコさんのことが大好きですよ。いつか、私はモモコさんの背後にも立ちたいです」
メリーさんの言葉が恐ろしい。つまり、これは殺害予告みたいなものだろう。
「私はメリーさんと会いたくありません。電話だけの関係でいたいと思います」
きっぱりと告げてみる。すると、メリーさんの声が寂しそうに震えた。
「残念です。でも、諦めません。私はモモコさんに認めてほしいんです」
メリーさんはそう言って、電話を切った。私がメリーさんを認めてどうなるんだよ。メリーさんが私を殺す最期を、大人しく受け入れろとでも言うのだろうか。
どうしよう。怖くなってきたな。警察へ行くか。この世界の警察には、オカルト現象対策部というものがあるはずだ。




