5話 コーヒー豆
次の休日、メリーさんから電話がかかってきた。妙に落ち着いた声だった。
「私、メリーさん。今、コーヒー豆専門店の前にいます。イチゴミルクとかコーヒー牛乳に憧れたけれど、私は味わえないので、せめて目で楽しもうと思ったんです。コーヒー豆がいっぱい売られているところを見るの、なんだか楽しいですね。お上品な遊園地みたいです」
メリーさんがそんなことを言ってきた。コーヒー豆って、何を語ればいいんだろう。分からない。
「コーヒー豆いいですね。私はコーヒー豆を挽いたことがないけれど、とっても楽しそうです。コーヒーミルって器具のハンドルを、手動でグルグル回すのはロマンがあって素敵です。挽く音がバリバリゴリゴリしていて、なんだか癒されますし。コーヒー豆を挽くと、香りがすごくいいそうですし。素敵ですね」
こんな話でいいだろうか。無難に話せたと思うんだけど。
正直言って、私はコーヒー豆を見ると、チョコレートみたいでめちゃくちゃおいしそうだと思ってしまう。いや、コーヒー豆が甘いはずもないのだけれど。
でも、コーヒー豆って一応そのまま食べられるんだっけ。実際食べてみたら、すごく苦そうではある。苦味が好きな人は幸せになれるのかな。
ただ、カフェインの摂りすぎには注意した方がよさそうだ。不眠以外にも色んな症状が出そうだから気をつけないと。
「手動コーヒーミル、すっごくロマンチックですねっ。電動コーヒーミルもかっこいいですよね。挽き目を調整する目盛りの印刷がクールだったり、挽く音がギュイーンっていうの最高ですっ」
メリーさんが甘えたように言ってくる。まるでメリーさんが友達になってしまったかのような錯覚に陥ってしまう。
いけない。メリーさんは人間ではない、とても怖い怪異なんだ。オカルト現象は油断した瞬間、命の危険が迫ってくる。
「はい。手動も電動も、どちらのコーヒーミルもいいところがありますよね」
言葉自体は優しいものを選んだけれど、声色はかなり冷ためにした。だって、メリーさんに流されないよう、私は気をつけないと。
私の空気の変わった感じを読み取ったのか、メリーさんは少し戸惑ったらしかった。メリーさんが緊張したように声を出し始める。
「はい。全部素敵です。コーヒー豆の挽き方も色々あって、極細挽きとかはものすごく細かいみたいですね。粗挽きは粒の形がはっきりしているみたいです。挽き方一つでも、苦味や渋味やコクなどが全然違うみたいで、何というか。こんなに話をしてしまって、すみません」
メリーさんの声がどんどん小さくなっていって、電話が切られた。そう。これでいいんだ。だって、メリーさんは怖い怪異なんだから、追い払わないと。
でも、なんか悲しかった。メリーさんとお話しするの、実は結構楽しかったんだよね。メリーさんからの電話がこなくなったら寂しいよ。




