1話 メロンパン
前世とあまり変わらない異世界に転生した。でも、オカルト現象の多い世界観ではあった。
特にメリーさんの電話が多い。しかも、こちらがスマホの応答ボタンを押さなくても、勝手につながってしまう。
「私、メリーさん。今パン屋さんの前にいるんです」
ほら、今日もメリーさんから電話がかかってきた。一人暮らしの人間の休日が、メリーさんに狙われやすいと言われているけれど。ここまで多いとは思っていなかった。
でも、対処法は簡単だ。そう、メリーさんが満足するように会話すればいい。
「パン屋さんおいしそうですね。メリーさんはどんなパンが好きですか」
そのように言ってみる。すると、メリーさんの愛らしい笑い声が聞こえてきた。
「メロンパンとか大好きです。ほら、焼き目がついていて、すごくかわいらしいでしょう。それに、ふんわり膨らんだ生地に、キラキラしたお砂糖が光っていて、すっごく綺麗ですあれってグラニュー糖なのでしょうか。でも、私はパンを食べられないから、少し悲しくなります」
メリーさんがそんなことを言ってくる。まずい。
メリーさんの正体はお人形さんという説がある。つまり、メリーさんが食べることなんて無理なんだ。
どうしよう。このままだと、悲しみに満ちたメリーさんが、私の家へ突撃してきてしまう気がする。
「食べるだけじゃなくて、見ることも立派な楽しむ行為ですよ。ほら、パンの見た目とか、めちゃくちゃ工夫されているでしょうし。パンを見ているだけでおいしいですよね」
私は全力でフォローした。これでどうだろう。
「はいっ。メロンパン見るの、すっごく楽しいです。モモコさん、話してくれてありがとうございますっ」
メリーさんが嬉しそうに言って、電話を切った。よかった。メリーさんの機嫌を損ねず済んだみたいだ。
いや、ちょっと待って。なんで私の名前がバレているんだ。怖いよ。




