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第七話 対魂食戦

 蒼は銃を構えながら、慎重に前へ進む。

 荒野の岩陰――そこに、黒いモヤが揺れていた。

「……いた」

 小型の魂食。

 しかし、その存在感は、これまでの“遊び”とは明らかに違っていた。

「おい、ずいぶんリアルだけど……これ何だよ?」

「特殊な技術で作った“擬似魂食”だ。ゴーグルのいらないVRみたいなもんだな」

「そんな技術、どんだけ余命力使ってんだよ……」

 呆れながらも、蒼は銃口を向ける。

 そして――

 パンッ。

 乾いた音。

 弾は出ない。しかし、光が魂食の中心を貫いた。

「よし」

 小型の魂食は、ふっと霧のように消える。

「一体だけじゃないぞ」

 その言葉と同時に――

 ズルリ。

 黒い影が三つ、現れる。

「おい、急に出すんじゃねーよ」

 蒼は後退しながら銃を構える。

 パンッ、パンッ、パンッ!

 二体は消えた。

 だが一体が、音もなく距離を詰めてくる。

「チッ」

 蒼は即座に剣へ持ち替え――

 振るう。

 フッ。

 霧散。

「ふぅ……」

 ひと息ついた、その瞬間。

「蒼!」

「そーちゃん!」

 振り向く。

 そして、目を疑った。

 ズズズッ――

「……マジかよ」

 中型の魂食。

 圧のある影が、ゆっくりと迫る。

「フハハハーッ!蒼、小型だけで終わるわけがないだろう!」

(こいつ……完全にノリでやってるな)

 蒼は距離を取り、銃を構え直す。

 パンッ、パンッ!

 ズズズッ……

 縮む。だが、消えない。

 パンッ、パンッ!

 ズッ……

 さらに削れる。

 やがて、小型サイズまで落ちた。

「終わりだ」

 剣へ持ち替え、一閃。

 フッ――

 完全消滅。

「やった〜!」

「アトラクションとはいえ、緊張感あるわね……」

「まったくだ……」

 蒼は肩で息をする。

 その時。

「フハハハーッ!流石だな、蒼!」

 ベニの高笑いが響く。

「でもなぁ――中型があるなら、当然こいつもいるぞ!」

「……は?」

 次の瞬間。

 ズズズズズズッ――

 空気が震え、地面が軋む。

 目の前に現れたのは――

 巨大な影。

 これまでとは比較にならない“質量”。

 飲み込むような存在感。

「……デカすぎだろ」

 蒼は思わず呟く。

 大型の魂食。

 それは静かに、しかし確実に――

 蒼へと、進路を向けていた。


「おい!大型は個人でどうにか出来るレベルじゃないだろ!」

 蒼は叫びながら、必死に距離を取る。

 大型の魂食――それは本来、城壁の砲撃で削り、最後に城壁自体の余命力で仕留める存在だ。個人でどうにか出来る相手ではない。

「そーちゃん!待ってて!」

 振り向くと、ミチルがバズーカを構えていた。

「蒼!こっちに誘導しなさい!」

 紗羅は手榴弾を手にしている。

「くそっ……分かった!」

 蒼は進路を変え、二人の方へと大型の魂食を引きつける。

 ズズズッ――

 巨大な影が迫る。

「えいっ!」

 ドーンッ!!

 ミチルのバズーカが直撃する。

 衝撃でミチルは後ろに転がった。

「ミチル!」

「大丈夫?」

「う〜ん……大丈夫〜」

 紗羅はすぐに手榴弾を投げる。

 ヒュー……コロコロ……

 ドーンッ!!

 ドーンッ!!ドーンッ!!

「キャーッ!」

 爆音と衝撃に紗羅が思わず悲鳴を上げる。

「紗羅!大丈夫か!」

「え、えぇ……」

 蒼は二人を追い越し、大剣を手に取る。

「こっちに来い!」

 大型の魂食を引き離すように、進路を変える。

 ズズズッ――

 その動きに反応するように、魂食も蒼を追う。

「ハァ……ハァ……」

 蒼は向き直り、大剣を構える。

「フンッ!」

 一閃。

 確かに削れた。

 だが――

「ダメか……」

 まだ消えない。

 その時だった。

「蒼!伏せて!」

「そーちゃん、いくよ〜!」

「何だ――」

 ドーンッ!!

 ドーンッ!!

「うぉっ!?」

 凄まじい音が二度、響いた。

 蒼はとっさに伏せる。

 しかし視線は逸らさない。

 その瞬間――

 大型の魂食に何かが直撃し、その巨体が一気に崩れていく。

 ズズ……フッ――

 完全消滅。

「な、何が起きたんだ……?」

 静寂。

 そこへ、紗羅とミチルが駆け寄ってくる。

「大丈夫だった?」

「そーちゃん、無事?」

「あぁ……。でも、何をしたんだ?」

 蒼は二人の来た方向へ目を向ける。

「あっ」

「あそこに砲台があったのよ」

「大きい鉄砲〜!」

 視線の先には、城壁に設置されているものと同じ砲台があった。

「そうか……」

 納得する蒼。

「ベニのやつ、何も言わなかったじゃないか……」

 肩の力が抜ける。

 だが――

 ふと、違和感。

 蒼はもう一度、二人へと視線を戻した。

「……ミチル?」


 蒼の視線の先――

 そこにいたミチルの姿は、明らかに変わっていた。

 高校生くらいの外見ではない。

 もっと小さい。小学生の低学年ほどの、幼い身体。

 肩から下げている猫のショルダーバッグも、紐の長さが合っておらず、今にも地面を引きずりそうになっている。

「ミチル……その姿……」

「ミチル?」

 紗羅もようやく異変に気付いた。

 アトラクションに夢中で、今まで気付いていなかったのだ。

「そーちゃん?どうしたの?」

 当の本人は、きょとんとしている。

 まだ自分の変化に気付いていないらしい。

「ミチル、今の姿……小さくなってるんだよ」

「え〜?」

 ミチルは自分の手を見て、足元を見て――

 バッグの位置に違和感を覚え、ようやく理解した。

「あー!ホントだ!」

「それが……ミチルの本当の姿、なんだよな?」

「前に見た時より、少し成長しているわね」

 紗羅が静かに頷く。

 確かに、以前一瞬だけ見た姿よりも、ほんの少し大きくなっている。

「そーちゃん。紗羅。今のミチル……変じゃない?」

 ミチルは少しモジモジしながら、不安そうに聞いてくる。

「変じゃないよ」

「えぇ、全然」

 二人の声が重なった。

「ミチル、また元の大きさに戻れそうか?」

「ん~~……分かんない」

 その時、操作室からベニが歩いてきた。

「元は余命力で作ったボディだろ?服を着たり脱いだりする感覚で切り替えられるんじゃないのか?」

「そんなに簡単なら苦労してねぇよ」

 蒼はため息をつく。

「でも、ミチル自身が本当の姿を知らなかったんだから、難しかったのかもしれないわね」

 紗羅がミチルを見る。

「じゃあ、今なら……」

 三人の視線がミチルに集まる。

 当のミチルは――

 ぴょん、と跳ねる。

 走る。

 また跳ねる。

 小さくなった身体を確かめるように、動き回っていた。

「動きづらい〜」

「慣れないか?」

「う〜ん。足遅いし〜、ジャンプも低いし〜」

「ミチル、ちょっとそこにいて」

 紗羅がスマホを構える。

 パシャッ。

「写真、撮ってみたわ」

「見せて〜!」

 タッタッタッと駆け寄る。

 その動きすら、どこか幼い。

「ほら」

「あっ……かわいい〜!」

 画面の中の自分を見て、ミチルはぱっと笑顔になる。

 その無邪気な反応に、蒼はふっと力を抜いた。

「とりあえず、その姿のままでいいんじゃないか」

「そうね。今はそれが自然なんだと思うわ」

 小さくなったミチル。

 黒髪のロングヘアーに、大きく澄んだ瞳。

 少し大きめのパーカーに、膝下までのスカート。

 その姿は――

 紛れもなく、“本当のミチル”だった。


「それよりも、ベニ!何だよ、このアトラクションは!」

 蒼は息を整えながら、ベニを睨みつけた。

「どうだった?実際に魂食と戦闘しているお前の意見を聞きたかったんだよ」

「どうもこうもあるか。大型は個人で倒せる相手じゃねぇよ」

「倒せたじゃないか」

 悪びれもせず、ベニは肩をすくめる。

「……はぁ。まぁ、な。正直、かなりリアルだったよ」

「そうか」

 短く返すベニに、蒼は眉をひそめた。

「で、このアトラクションの目的は何だ?」

「クロが言うには――“不測の事態に対する備え”だとよ」

「不測の事態……」

 蒼の脳裏に、東の地方街での出来事がよぎる。

 あの時の混乱。あの時の無力感。

「遊びで慣らしておくってことか……」

「戦力になる魂が増えるに越したことはないからな」

「だったら大型は出すな」

「お前だから試しただけだ。だが、実物に近いデータが取れた。次は――こっちも頼む」

 ベニはそう言って、市街地フィールドと室内フィールドへ視線を向ける。

「……マジかよ」

「調整が必要なんだよ」

「めんどくせぇ……」

 蒼は深いため息をついた。

 ――そして。

 ・・・

 ・・・

 ・・・

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 荒い呼吸。

 全身に疲労が溜まっている。

「お疲れ。いいデータが取れたぞ」

 ベニの声がどこか楽しそうに響く。

「蒼、これ。飲み物」

「ハァ……ありがとう、紗羅」

 蒼は差し出された飲み物を受け取り、一気に喉へ流し込む。

「そーちゃん、すごいね!ミチルもやってみたけど、中くらいのは倒せなかったよ〜」

 小さくなったミチルが、元気に報告する。

 どうやら外のフィールドで試していたらしい。

「嬢ちゃんは、将来いい戦力になるかもな」

 いつの間にか近くにいたベニの駒が、くくっと笑う。

「冗談じゃねぇよ。そんな危険なこと、させられるか」

「危険だから訓練するんだろ?」

 ベニの表情が、一瞬で変わる。

 先ほどまでの軽さは消え、鋭い視線が蒼を射抜く。

「この魂楽界は日本担当だからか、平和ボケした魂が多い。危機感が足りない」

 静かだが、重い言葉。

「だが現実には――魂食は必ず現れる」

 その言葉に、誰もすぐには返せなかった。

 正論だった。

 分かっているからこそ、重い。

 ――その時。

 ガチャ。

 金属音が響いた。

「俺もそう思うぞ」

 背後から聞こえた低い声。

 蒼は振り向く。

「……ヴィクター?」

「おじちゃん?」

「ヴィクター?なんでここに?」

 そこに立っていたのは、見慣れた男。

 全身に武器を装備したまま、テーマパークには一番場違いなほど物騒な姿。

「お前たちと同じ理由だ。このアトラクションの調整に呼ばれた」

 ヴィクターは淡々と答える。

「だが――」

 ゆっくりと周囲を見渡し、

「思った以上に“遊び”じゃ済まなそうだな」

 そう言って、わずかに口元を歪めた。

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