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第六話 体験型アトラクション

 ミチルは、すっかり絶叫系に夢中になっていた。

 一人で何度も何度も乗り続け、そのたびに笑顔で戻ってくる。

「そーちゃん!紗羅!まだ乗りたい!いい?」

「分かった。紗羅を休憩所に連れて行くから、何かあればスマホで連絡してくれ」

「は〜い!」

 元気よく手を振るミチルを見送り、蒼は紗羅の肩を支えた。

「はぁ……何で魂になってもこんなに具合悪くなるのよ……」

「現世の感覚が残ってるんだろうな。絶叫系、苦手だったのか?」

「一度乗ってダメだったから、それ以来よ……でも、ミチルに悪いことしたかしら」

「ほとんど乗っただろ。それに一人でも楽しめてるみたいだ」

「……そうね」

 入口近くの休憩所に辿り着き、紗羅を座らせる。

「ほら、飲み物」

「ありがとう……」

 二人はひと息ついた。

「紗羅は、現世ではどんな遊びをしていたんだよ?」

 蒼の問いに、紗羅は少しだけ考えてから答える。

「私は……遊びより、本を読んでいる方が楽しかったわね」

「どんな本だ?」

「日本の観光地の本とか、海外の風景とか……行ったことのない場所の本よ」

「実際に行けば良かったじゃないか」

 蒼の言葉に、紗羅は一瞬だけ目を伏せた。

「……怖かったのよ」

「乗り物が?」

「そうね……それも、あるけど」

 そこで蒼は気付く。

(余命宣告……遠出なんて、簡単には出来なかったか)

「でも……行けば良かったわね」

 ぽつりと漏らすその言葉に、蒼は少しだけ笑った。

「なら、今から行けばいいだろ」

「え?」

「魂楽界なら、どこだって行ける。これから、な」

 紗羅は少し驚いた後――

 小さく、頷いた。

「そうね……もう大丈夫よ。ミチルのところに行ってあげて」

「分かった。何かあれば連絡しろよ」

 蒼はそう言い残し、再び園内へと走り出した。

(あいつ……まだ山にいるか?)

 足は自然とビッグタマシーマウンテンへ向かう。

 だが――

 列の中にも、周囲にも、ミチルの姿はない。

 ゴーッ!

「わーっ!」 「キャーッ!」

 絶叫だけが響いている。

(さっきのに乗ってるのか?)

 蒼は降り口で待つことにした。

 ガタンッ、ゴトンッ――

 車両が戻ってくる。

 次々と乗客が降りていく。

 だが。

「……いない?」

 ミチルの姿が、ない。

 周囲を見渡す。ベンチの裏、売店の近く、列の外。

 どこにもいない。

「どこ行ったんだよ……」

 蒼はスマホを取り出した。

 発信。

 プルルルル……

 プルルルル……

「出ろ……」

 プルルルル……

 ガチャ。

「もしもし〜、そーちゃん?」

 明るい声。

 その瞬間、少しだけ肩の力が抜けた。

「あぁ、ミチル。今どこにいる?」

「ん〜……体験型アトラクション?アスレチックのとこ〜」

「名前は分かるか?」

「え〜と……タマシー島って言ってた〜」

 蒼はすぐにパンフレットを広げる。

 指でなぞり、該当の場所を見つけた。

「……あった。そこにいろ。今から行く」

「は〜い!」

 ピッ。

 通話が切れる。

「ったく……勝手に移動しやがって」

 苦笑しながらも、足はすでに動いていた。

(早く行かないと、また別の場所に行くな……)

 ミチルは自由だ。

 そして、好奇心の塊だ。

 だからこそ――目を離すと、すぐどこかへ行ってしまう。

 蒼はタマシー島へと急いだ。


「ここだよな……」

 蒼は足を止め、辺りを見渡した。

 タマシー島――体験型アトラクションエリア。

 試乗目的の魂が多いせいか、ここは他と比べて人が少ない。

 その分――

「あははは〜っ!」

 楽しそうな声が、よく響いた。

「……いたな」

 ミチルの声だ。

 声のする方へ目を向けると、いくつものコースが見える。

 山登り、綱渡り、川渡り、ターザンロープ。

 全身を使う、本格的なアスレチック。

「おーい、ミチル!そこにいるんだろ!」

「そーちゃん!いるよ〜!」

 姿は見えないが、元気な返事が返ってくる。

「勝手に移動するなよ」

「だって〜……」

 言い訳をしようとしたその時、背後から――

「俺が誘ったんだ」

 別の声がした。

「……え?」

 振り向く。

「ベニ!」

 そこには、ベニの姿があった。

「お前、中央街にいたんじゃなかったのか?」

「お前たちが試乗に参加するなら、試してもらいたいアトラクションがある」

「試してもらいたい?」

「さっきの嬢ちゃんのやつも悪くないが……本命は別だ」

 ベニは口の端をわずかに上げる。

「蒼。お前にやってもらいたい」

「俺に?」

 その言葉に、蒼は眉をひそめた。

 ただの遊びじゃない。

 そんな空気が、わずかに混じっている。

 蒼は一度スマホを取り出した。

 紗羅へ連絡を入れる。

 プルルルル……

 ガチャ。

「もしもし?」

「紗羅。今、場所を移っててタマシー島の奥だ」

「え?タマシー島の奥?」

 スマホ越しにパンフレットを調べる音が聞こえる。

「ベニが来てる。試してほしいアトラクションがあるらしい」

「……分かった。すぐ行くわ」

「無理すんなよ」

 通話を切る。

 その直後――

「そーちゃん!お待たせ〜!」

 ミチルが元気よく戻ってきた。

 少し汗ばんでいるが、顔は満面の笑みだ。

「楽しかったか?」

「うんっ!いっぱい遊んだ!」

「そりゃよかった」

 蒼は軽く頭を撫でる。

 その様子を、ベニがじっと見ていた。

「じゃあ、行くか」

「どこ行くの〜?」

「ちょっと特別なやつだ」

 ベニが先に歩き出す。

 その背中を追う形で、蒼とミチルも歩き出した。

 賑やかなエリアから、少しずつ離れていく。

 人の気配が、薄くなる。

 音も、遠ざかる。

「……なんか、静かだね?」

 ミチルが小さく呟く。

「あぁ……」

 蒼は短く返事をする。

 胸の奥に、わずかな違和感。

 だが、足は止めない。

 ベニは振り返らず、ただ前へ進む。

「もうすぐだ」

 その一言だけを残して。

 他のどのアトラクションとも違う、異質な雰囲気が漂っていた。

 そこにある“何か”が――

 ただの遊びではないことを、静かに告げていた。


 ベニに導かれ、蒼とミチルはタマシー島の奥へと進んでいった。

 辿り着いた先は――

 まるで映画のセットのような、異質な空間だった。

 広大な荒野を再現した外のフィールド。

 建物が立ち並ぶ市街地のフィールド。

 そして、どこかの施設内部を思わせる室内フィールド。

「着いたぞ」

 ベニが立ち止まり、振り返る。

「……何だよ、ここ」

「なんか広いね〜」

 ミチルはきょろきょろと辺りを見回す。

 三つの入口のうち、ベニは迷わず荒野のフィールドの前に立った。

「蒼。ここに入れ」

「おい、説明くらいしろよ」

「入れば分かる」

「……ったく」

 不満を口にしながらも、蒼は一歩踏み入れる。

 するとすぐに、ベニが大きな箱を持ってきた。

「好きなのを持て。何個でもいい」

「武器……?」

 箱の中には、見覚えのある装備が並んでいた。

 零命剣に似た剣。

 零命銃に似た銃。

 それだけではない。

 大剣、バズーカ、手榴弾まである。

「……物騒すぎるだろ」

「安心しろ。切れないし、弾も出ないし、爆発もしない」

「それならいいけどな……」

「持ちすぎると動きづらいぞ」

 蒼は一つひとつ手に取り、重さや感触を確かめる。

 やがて選んだのは――

 いつもと同じ、剣と銃。

「……なるほどな」

 蒼は小さく呟いた。

「このアトラクション、分かってきた」

「だろ?」

 ベニは満足げに頷くと、そのまま操作室へと入っていく。

「そーちゃん、何が始まるの?」

 ミチルが不安と期待の混じった声で聞いてくる。

「これはな――」

 蒼が説明しようとした、その時。

「蒼!ミチル!」

 後ろから声が飛んできた。

 紗羅だ。

「何よここ……誰もいないじゃない」

「ベニが俺たちに試してほしいらしい」

「……その武器、冗談に見えないんだけど」

「多分、対魂食戦のシミュレーションだ」

 蒼の言葉に、紗羅の表情が引き締まる。

「その通りだ」

 操作室からベニの声が響く。

「蒼、始めるぞ」

 次の瞬間――

 ジリリリリリリ!!

 鋭いベルの音が鳴り響いた。

 それはまるで――

 本物の戦場の、開戦の合図。

 テーマパークの楽しげな空気が一瞬にして変わった。

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