表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

第五話 日記(二)

 私はミチル。

 見た目は高校生?

 ――と、紗羅が言っていた。

 中身は小学生?

 ――これも紗羅が言っていた。

 どうやら私は、あの有名な名探偵の逆らしい。

 ――もちろん、これも紗羅が言っていた。

 そんな私の朝は――今日は特別だ。

 ここはホテル。しかも、ただのホテルじゃない。

「そーちゃん、紗羅、早く起きて〜!」

 私はベッドから飛び起きて、一直線にバルコニーへ走る。

 そこには――“ある”。

「わぁ~!タマシーランド!」

 目の前に広がるのは、夢みたいな場所。

 タマシーランド。よくは分からないけど、絶対に楽しい場所。それだけは分かる。

「ミチル……早いな……」

 後ろから、寝ぼけた声。

 そーちゃんが目をこすりながら起き上がる。

「六時!?なんで起きてんだよ……」

「だって!あるんだよ!目の前に!」

「何よ〜、朝から騒がしいわね……」

 紗羅も、ゆっくりと起きてくる。

「まだ寝かせてくれ……」

 再び布団に潜ろうとするそーちゃん。

 私はその布団を――引っぺがした。

「いくよ!」

「まだ開いてねぇよ!」

「開園時間は九時よ」

「うぅ〜……」

 そーちゃんは力なくベッドに沈んだ。

(目の前にあるのに……行けない……)

 私はバルコニーとベッドを行ったり来たりする。

 待てない。全然待てない。

「とりあえず、飯だ。レストラン行くぞ」

「うん、いく!」

 ご飯は大事。元気になるから。

 レストランで、いっぱい食べる。パンも、お肉も、甘いのも。

「今何時?」

「七時ね」

(ガーンッ)

「時間……進むの……遅い……」

 私はベッドにダイブする。

 ……ちょっとだけ寝る。

 すぐ起きる。絶対。

・・・

・・・

・・・

「ミチル!ミチル!起きろ!」

「……ん?」

 目を開けると、そーちゃんの顔があった。

「もうすぐ九時だぞ」

「!?」

 ガバッと飛び起きる。

 そのまま全力でバルコニーへ。

「わぁ……!」

 さっきまで静かだったタマシーランドが――

 まるで魂が宿ったみたいに、光り輝いていた。

 音がする。動いてる。人がいる。

 世界が――動き出している。

「開園、ね」

 紗羅が隣で小さく呟く。

「行くぞ、ミチル」

「うんっ!!」

 胸がドキドキする。

 これはきっと――

 “楽しい”が始まる音だ。


 巨大な門をくぐった瞬間――世界が変わった。

 色とりどりの建物。軽快な音楽。行き交う魂たちの笑顔。

 さっきまでの現実とは違う、“楽しい”でできた世界。

「ようこそっ!タマシーランドへ!」

 タマシーマウスと、見たことのないアヒルのキャラクターが手を振ってくれた。

「わぁ!あなたはだぁれ?」

「タマシーダックだよ〜」

「わぁ〜!」

 ミチルの目がさらに輝く。

「ミチル。好きな場所に行っていいぞ」

 そーちゃんがパンフレットをくれた。

「この星が五つのやつは絶叫系よ。気をつけなさい」

「絶叫系ってなぁに?」

「速かったり、高いところから落ちたりする乗り物よ」

「えーっ!楽しそう〜!」

 私はパンフレットを食い入るように見つめる。

「まずは軽いのから行くか。全部回るぞ」

「うんっ!」

「なら、あれね」

 紗羅が指差したのは、園内を一周する汽車だった。

「乗りた〜い!」

 私たちは列に並び、やがて汽車に乗り込んだ。

「では、出発しま〜す。いってらっしゃ〜い」

「は〜い!」

 汽車がゆっくりと走り出す。

 カタン、コトン――と、リズムよく進む車内。

 その窓の外には――

「わーっ!」

 見たことのない世界が広がっていた。

 遠くで轟音を立てて走る乗り物。

「キャーッ!」「うわぁぁぁ!」

 あちこちから聞こえる悲鳴。

「あれが絶叫系か……」

「すごい音ね……」

「楽しそう〜!」

 そーちゃんと紗羅は難しい顔してたけど、私には楽しい声に聞こえた。

「あっ!おっきい山だ〜!」

 巨大な岩山が見えた。

「あれは……ビッグタマシーマウンテン、ね」

「名前がそのまんまだな……」

 そーちゃんと紗羅は同時にため息をつく。

 私は分からない。

「すごーい!登れるのかな!?」

 次に目に飛び込んできたのは、たくさんのお水があった。

「わぁ!お水いっぱい!プール?」

「そうか。ミチルは海を見たことないのか?」

「うみ?」

「まぁ……あれが海みたいなもんだ」

「スゴ〜イ!」

 キラキラと水面が光る景色に、私は釘付けになる。

「ソウルの海賊……ね」

「完全に寄せてるな……」

「神の使者、暇なのかしら……」

 そーちゃんと紗羅は頭を抱えている。

 でも私は――

 見えるもの、全部が新しい。

 聞こえる音、全部が楽しい。

 胸が、ずっとドキドキしている。

 汽車はゆっくりと園内を巡り続ける。

 次はあれ。次はあっち。

 行きたい場所が、どんどん増えていく。

「ねぇ!次あれ行きたい!」

「落ち着け。順番な」

「え〜!」

「今日は一日あるんだから」

 紗羅が優しく言う。

「……うん!」

 私は大きくうなずいた。

 汽車が駅へと戻ってくる。

 その先には――

 まだ見たことのない“楽しい”が、いくつも待っていた。


 汽車を降りると、すぐ近くに大きな建物の入口があった。

 キラキラした装飾と、どこか不思議な音楽。

「あそこに行きたい!」

 私は次の目的地を決めた。

「行ってみるか」

「イッツ・ア・タマシーワールド……ね」

 紗羅が小さく呟く。

 ここも乗り物に乗って進むらしい。

「そーちゃん!紗羅!早く乗ろう!」

「はいはい」

 私たちは並んで乗り込み、ゆっくりと進み始める。

 流れ出すのは、軽やかで優しい音楽。

 そして――

「わぁ……」

 目の前に広がるのは、見たことのない世界。

 色んな場所。色んな人。色んな暮らし。

 小さな人形のような存在たちが、それぞれの場所で楽しそうに動いている。

 笑ってる。歌ってる。踊ってる。

 次の場面へ。

 また違う景色。また違う人たち。

 知らない世界が、次々と現れては消えていく。

「すごい……」

 私は目を輝かせたまま、見続ける。

 気がつけば――

「あっ……」

 終わっていた。

「終わっちゃった……」

「本物を知らなくても、十分楽しめたみたいだな」

「そうね」

 まだまだ楽しみたかったけど、外へ出る。

 すると、すぐ近くにまた別の建物が見えた。

「あれも行きたい!」

「よし、次はあそこだな。なんか俺も楽しくなってきた」

「よく出来てるわね、本当に」

 次のアトラクションは――

 乗り物に“銃”が付いていた。

「怪物やオバケを見つけたら撃ってくださいね〜」

 スタッフのおねーさんが説明してくれた。

「ミチルが撃ってもいいの?」

「あぁ、任せた」

「お願いね」

「ミチルに任せて!」

 私は胸を張る。

(私が守るんだ)

 乗り物が動き出す。

 今度は少しドキドキする音楽。

 最初に見えたのは、きれいな街並み。

 ……その影に、何かが動いた。

「わーっ!」

 オバケだ。

 とっさに銃を握る。

 パンッ!パンッ!パンッ!

 音とともに、オバケが消えた。

「やった~!」

「やるな」

「上手いじゃない」

 私は得意げに笑う。

 次のエリアへ進んだ。

「わっ!広い場所になった〜!」

 突然、目の前の世界が広がった。

 ――その瞬間。

 大量の怪物が現れた。

「うわぁ~!」

「ミチル、撃て!」

「来てるわよ!」

 パンッ!パンッ!パンッ!

 必死に撃つ。

 でも――数が多い。

「全部は無理〜!」

 怪物は消えないまま、乗り物は進んでいく。

 やがて、ゆっくりと元の場所へ戻ってきた。

「はぁ〜……すごかった……」

「あぁ、なかなかリアルだったな」

「現世の技術より上かもしれないわね」

 私たちは顔を見合わせる。

 さっきまでドキドキだったのに――

 残っているのは、“楽しかった”という感覚だけ。

「次はどこ行く?」

 私は、もう次を探している。

 まだまだ終わらない。

 この場所には――

 “楽しい”が、いくらでもあった。


 目の前に、大きな山がそびえ立っていた。

 ――“ビッグタマシーマウンテン”。

 山のあちこちから、声が響いてくる。

「わぁー!」 「キャーッ!」

 あれが――“絶叫系”。

 私の胸がドキドキと高鳴る。

「あの山に行きたい」

「いよいよ、か……」

「私は現世で何回も乗ったから、乗らなくてもいいわよね……」

「ダメだよ!紗羅も一緒!」

「ちょっ、ちょっと〜!」

 私は紗羅の手を引っ張って、列へと向かう。

「どうぞ、お乗りください〜」

「は〜い!」

「私は降りる!今からでも降りる!」

「ダメ〜!」

「紗羅、諦めろ」

「そんなぁ……」

 紗羅を半ば引きずるように乗せて、三人で出発する。

「では、出発いたしま〜す」

 ガタンッ、ゴトンッ――

 ゆっくりと、上へ。

 ガタンッ、ゴトンッ――

 どんどん高くなる。

「わぁ……!」

 空が近い。

 風が気持ちいい。

「すごい高いね!」

「そ、そうね……」

 隣に座る紗羅の声が震えている。

 顔も、なんだか変だ。

「あ、道が……なくなった……」

 頂上に来た。

 一瞬だけ、すべてが見渡せた。

「お空を飛んでるみたい……」

 ――その瞬間。

 ゴーッ!!

「わぁー!!」

「ぎぃやー!!」

 一気に落ちる。

 体が浮く。

 風が叩きつけてくる。

「キャーッ!」

「ぎぃやー!!」

 今度は急カーブ。

 体が横に引っ張られる。

「イエ〜イ!」

「イヤー!!」

 さらに上昇。

 また落下。

「わぁ~い!」

「もうイヤー!!」

 隣で紗羅は叫んでいる。

 そして――

 スピードが落ちていく。

 ガタン……ゴトン……

 ゆっくりと、元の場所へ戻って来た。

「終わっちゃった……」

 あっという間だった。

 でも――

 楽しかった。

 とっても楽しかった。

「紗羅!もう一回乗りたい!」

「……」

 返事がない。

「ミチル、紗羅はもうダメだ」

 そーちゃんが苦笑しながら言う。

 紗羅は、ぐったりと力が抜けていた。

「ほら、行くぞ」

 そーちゃんは紗羅を軽々と抱き上げる。

「ちょっ……無理……」

 か細い声だけが聞こえた。

 私はそのあと――

 何度も、何度も“ビッグタマシーマウンテン”に乗った。

 一回目より、二回目。

 二回目より、三回目。

 どんどん楽しくなる。

「もう一回!」

 笑顔が止まらない。

 こんなに“楽しい”があるなんて――

 私は初めて知った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ