第二話 お買い物
ミチルと二人で、商業地区へ来た。
「今日もいっぱいいるね〜」
「そうだな」
昼を過ぎた大通りは、多くの魂で賑わっていた。
店先には商品が並び、通りには楽しそうな声があふれている。
「ミチル、何か欲しいものあるのか?」
「ん~~……いつも持って歩けるのがいい!」
「そうか……」
蒼は少し考えてから、ふと思いついたように言った。
「そうだ。ついでだから、スマホを三人分買うか」
「スマホ?」
この世界のスマホは、現世の名残でそう呼ばれているだけだ。
機能は通話とメッセージ程度しかない。
たまに余命力を使ってゲームを取り込む魂もいるが、開発者がいないゲームはすぐに飽きられてしまう。
「離れていても会話ができたり、手紙みたいにメッセージを送れる機械だ」
「欲しい!」
「よし、買うか」
これまでは節約していたから買えなかったスマホ。
魂楽界のスマホは余命力をチャージして使う。ただ、チャージをし過ぎると重くなるため、少しずつ使うことになる。
(本体代もチャージ代も安くないから手を出せなかったけど……)
「まいどあり〜」
店員から三枚のスマホを受け取る。
「三色の色違い〜。どれもかわいい〜」
赤、青、黄色。
三枚のスマホを手に、ミチルは嬉しそうに走り回っていた。
「これくらい、必要経費だよな」
以前の依頼で支払われなかった報酬は、まだクロに請求できる。
蒼は半分自分に言い聞かせるように呟いた。
「ミチル。スマホを落とさないように、鞄を買おうか?」
「カバン? 欲しい〜」
二人は近くの店を見て回る。
ミチルは並んでいる鞄を一つ一つ見ては、
「かわいい〜」
隣の店でも、
「これもかわいい〜」
と、楽しそうに言っていた。
そんな時、ミチルの足が止まる。
「あっ、猫さん……」
「猫?」
蒼が視線を追うと、そこには猫の耳が付いた小さなショルダーバッグがあった。
「可愛いな」
「うん」
「それにするか?」
「うんっ!」
支払いを済ませる。
これはミチルへのプレゼントだ。蒼は自分の小遣いから払った。
(結構いい値段するじゃないか……)
そんな心の声とは裏腹に、
「わ〜い!」
ミチルは早速、肩から鞄を下げてくるくる回り始めた。
満面の笑み。
それを見て、蒼は思う。
(ま、いい買い物だったな)
「スマホ、ここに入れる〜」
赤いスマホを鞄に入れて、ミチルはそれを大事そうに抱きしめた。
夕方の光の中。
二人は並んで、家へ向かって歩いていく。
遠くから、
「い〜しやぁ〜きぃ芋〜……お芋っ」
そんな声が聞こえてきた。
同時に、ふわりと甘くて香ばしい匂いが漂ってくる。
二人の足は、自然とその声と匂いの方へ向いていた。
通りの先には、小さな移動販売車。
車の横には、大きく――**「石焼き芋」**と書かれている。
「そーちゃん。お芋、食べたい」
「そうだなぁ。美味そうだよなぁ」
蒼も、漂ってくる匂いに思わず頷く。
「紗羅も好きだよね?」
「多分な」
蒼は店員から袋いっぱいの焼き芋を受け取った。
まだ温かい袋をミチルが両手で抱える。
「わ〜、あったかい〜」
「落とすなよ」
「大丈夫〜」
湯気の立つ袋を抱えたまま、ミチルは嬉しそうに歩き出した。
二人はそのまま、家の方へ向かって歩いていく。
家に帰る途中、チャトとすれ違った。
「ミチル。こっちに来れたのか。良かったな」
「チャト! そーちゃんが一緒だからね〜」
ミチルがタッタッタッと走り回る。
「蒼。大変だな」
「周りに助けられてるよ。お前も、だろ?」
「フン」
チャトは少し照れくさそうに、顔をそらした。
そして、ふと真面目な声になる。
「蒼。ミチルは成長してるぞ」
「そりゃ、俺と紗羅が毎日色々教えてるからな」
蒼たちは、ミチルに少しずつ知識を教えていた。
今では、小学生くらいの知識なら問題ない程度になっている。
だが、チャトは首を振った。
「そういう意味じゃない。魂の成長だ」
「な? それって……」
「余命力を使っているな」
カラスのクロが広範囲の監視役なら、チャトは魂の個体を観察する役目で街を巡回している。
つまり、魂を見る目はクロよりも正確だ。
「いつだよ?」
焦って聞く蒼。
「いつの間にかって感じだな。俺も度々会っているが、すぐには気づかないくらいだ」
「まさか……俺と同じ?」
「それは違う。今は使ってないからな」
蒼は特異体質で、余命力が常に使われている。
そのため魂楽界にいても、現世と同じペースで成長していく。
この世界では、かなり異質な存在だった。
「分かった。確認してみるよ」
ミチルの外見は、作られた姿だ。
見た目は高校生くらいだが、中身はまだ五歳児ほど。
つまり、中身が少しずつ成長していても、外見は変わらない。
だから気づきにくいのだ。
「ミチル! 行くぞ」
「は〜い」
遠くからタッタッタッと走って戻ってくる。
蒼はその手を軽く握り、ミチルの顔を見た。
だが、蒼には違いが分からない。
「じゃあな、チャト」
「チャト、バイバ〜イ」
「またな」
チャトと別れ、二人は家へ向かう。
途中、何匹もの猫とすれ違った。
そのたびにミチルは猫たちと何か話している。
蒼には、何を話しているのかよく分からない。
「今日は猫と遊んでたのか?」
「うん。しゅーかいじょーって所に行ったの」
「集会場? ……あぁ、猫の集会か」
「そう」
「何を話してたんだ?」
「え〜っと……世知辛い世の中、って」
「そうか。猫の世界も大変だな」
そんな話をしているうちに、家に着いた。
「ただいま〜」
「おかえりなさい」
家の中では、紗羅がパソコンを開き、情報整理をしていた。
「焼き芋だよ〜」
ミチルはテーブルに焼き芋の入った袋を置いた。
「あら、美味しそうね。」
「それと……」
蒼はテーブルに三台のスマホを置いた。
「そろそろスマホ買うかって言ってたよな?」
「そうだけど……」
「そーちゃんが買ってくれた。え~っと……ケーキ?で」
「ケーキ?」
「それを言うなら、経費な」
「そう、ケーヒ」
「あら、ありがとう」
赤、青、黄色。並べられた三色のスマホ。
それぞれのスマホを手に取り、使い方を確かめる。
「これでメッセージ送れるのね」
「ミチルも送れる〜?」
「教えるから落ち着け」
その後、三人は焼き芋を片手にスマホを触りながら、遅くまで盛り上がっていた。
スマホの使い方を一通り試した。
機能が少ないから、時間はかからなかった。
「GPS機能もあるわね」
「パソコンに登録させておくか」
「そうね」
紗羅はパソコンを操作し、スマホ三台を登録していく。
一方、ミチルは鞄の中身をどうするか悩んでいるようだった。
あれを入れて、これを入れて、また出して。
蒼はその様子をぼんやり眺めていた。
「今日、チャトと会ったんだけど……」
「うん……」
紗羅はパソコンを見ながら相槌を打つ。
「ミチルの魂が成長してるって言ってた」
「……え?」
紗羅の手が止まった。
「それって、余命力を……?」
「そう言ってた」
「どうやって確認するの?」
「そうだな……」
蒼は少し考える。
以前、一度だけ見たことがあった。
ミチルが車と接触した事故のとき。
驚いた拍子に、ミチルの姿が五歳児くらいの姿になった。
本当の姿が見えたのは、あの時だけだった。
「ミチルに聞いてみるか」
そう言って振り向く。
すると――
ミチルの鞄がパンパンに膨らんでいた。
「ミチル。それは入れ過ぎだ。鞄が壊れる」
「うぅ〜」
ミチルはしぶしぶ、鞄の中身を取り出していく。
「ミチル。少し教えて欲しいんだけど……」
「な〜に〜?」
物を出しながら返事をする。
「余命力、使っているのか?」
「ん~~、分かんない」
(意識していないって事か? 少しマズイな)
蒼は内心でそう思う。
「ミチルの本当の姿を見たいんだけど、見せること出来るか?」
「本当の姿?」
ミチルが首を傾げる。
「俺と会うために“今の姿”になったんだよな?」
「……うん」
「本当のミチルは、まだ小さいはずなんだ」
「分かんない」
「分かんない?」
「本当のミチルの姿、やり方分かんない」
ミチルは、自分の意思で今の外見を得た。
だが、それを自由に扱えているわけではないらしい。
「そうか……」
蒼は腕を組んで考える。
「明日、クロに聞きに行ってみるか?」
その言葉に、ミチルの手が止まった。
「そーちゃん」
「ん?」
「本当のミチル見ても……いなくならない?」
少し不安そうな声だった。
蒼はすぐに答える。
「いなくならないよ」
ミチルは少しだけ考えてから、うなずいた。
「……分かった。いく」
こうして。
明日、クロに会いに行くことになった。




