第一話 日記(一)
私はミチル。
見た目は高校生?
――と、紗羅が言っていた。
中身は小学生?
――これも紗羅が言っていた。
どうやら私は、あの有名な名探偵?の逆らしい。
――もちろん、これも紗羅が言っていた。
私の朝は、紗羅と同じ部屋にある自分のベッドの中から始まる。
「ミチル。朝よ。起きなさい」
「……起きれない」
私は起きない。
だって、眠いから。
「まったく。また蒼を見送れなくなるわよ」
ガバッ。
「おはよう、紗羅! ほら、早く起きないと、そーちゃん行っちゃうよ!」
私は飛び起きる。
そーちゃんをお見送りするんだから。
「そーちゃん、おはよう」
「おはよう、ミチル」
「今日もお仕事?」
「ん? 今日は休みだぞ」
……。
「紗羅。嘘ついた……」
「ミチルがなかなか起きないからでしょ」
紗羅はウソツキだ。嫌いだ。
……嘘。好きだ。
……私もウソツキだ……。
私は朝から、たくさん食べる。
「今日の朝ご飯は何?」
「焼き魚よ」
「……また?」
紗羅は魚が好き。
だから、いつも魚だ。
私は肉が好き。
だから、いつも肉がいい。
「分かってるわよ。ミチルには焼肉も用意してあるわよ」
「ホント? やった〜!」
紗羅は出来る女だ。
何が出来るかはよく分からないけど、出来る女だ。好きだ。
「おいしい〜」
ご飯もおいしい。
やっぱり出来る女だ。
ご飯を食べたら、私は外に遊びに行く。
決められた範囲なら、一人で行ってもいいって、そーちゃんが言っていた。
「遊びに行ってくるね。いってきま〜す!」
「気を付けろよ」
「は〜い!」
私はまず、施設に行く。
昔お世話になった義理は忘れない。
「この道を〜真っ直ぐ〜行けば〜……」
歩いていると、すぐに施設が見えてきた。
入口の前で、おねーさんが掃除をしていた。
いつも掃除をしている。エライ。
「おねーさん!」
「あら、ミチルちゃん。おはよう」
「おはよう!」
「今日も遊びに来てくれたのね。入って入って」
「は〜い!」
おねーさんは優しい。
だから好きだ。
施設の中からは、子どもたちの声が聞こえてくる。
「ミチルお姉ちゃーん!」
「ミチルだー!」
みんな元気だ。
私も元気だ。
だから今日も――
いっぱい遊ぶ。
施設を出ると、私は公園に向かった。
施設の子どもたちと遊ぶのも楽しいけど、一人の時間も必要だ。大人なのだ。
「ん~~、ここでゴロゴロするの、気持ちいい〜」
私はいつものように芝で寝転ぶ。お日様はあたたかく、芝もじんわり温かい。
(今日は来ないかな?)
私はここで待つ。たまに出会う、あの子……。
「また来たのか、ミチル」
「あっ、チャト〜」
この子はチャト。神の使者の一人だけど、茶トラのネコだから“チャト”と呼ばれている。
「チャトはお仕事〜?」
「俺はいつでも仕事中だ」
「エライエライ」
チャトは働き者だ。エライ。
「次はどこに行くの?」
「商業地区だな」
「え〜、いいなぁ。ミチルも行きたい」
私も行きたくなった。しかし……
「お前はこの辺しか許されてないんだろ?」
「うぅ〜」
約束を守る。私は我慢する。
「じゃあ、ギリギリまでついて行く」
「勝手にしろ」
諦めない女、それが私。
チャトと一緒に、お店がいっぱいある近くまで歩くことにした。
「チャト〜、速いよ〜。ゆっくり行こうよ〜」
「仕事だって言っただろ。遊びじゃないんだよ」
チャトは文句を言いながらも、少しゆっくり歩いてくれた。優しいチャト。
チャトが歩くと、少しずつネコたちが集まってくる。
「チャトのコマさん?」
神の使者は駒?を使うって言ってたけど、チャトにもいるのかな?
「俺の駒じゃないな」
「ここは、のんびり出来る」
猫さんの魂がしゃべった。かわいい。
「どこに行くの〜?」
「集会場」
「しゅ〜かいじょ〜?」
分からない言葉だった。
途中で、チャトと猫さんは別の方向に行ってしまった。
チャトはお店がいっぱいの方に行くので、私は行けない。だから、しゅ〜かいじょ〜に向かうことにした。
私は今、住宅地区の空き地にいる。
どうやら、ここが“しゅーかいじょー”のようだ。
空き地の真ん中には、土管が三本。三角になるように積んで置いてあった。
「なにもないね〜」
猫さんと待っていると、次々と別の猫さんが集まってきた。
「今日も集会かい?」
「そうだね〜」
「あそこはご飯くれるらしいわよ」
「そうなのかい?」
「また若い子猫が来たみたいよ」
「世知辛い世の中だね〜」
猫さんたちは、のんびりおしゃべりしていた。
日向ぼっこしながら、ゴロゴロしながら、好き勝手に話している。
私はちょっとだけ近づいてみた。
「ねぇ、みんなはいつもどこにいるの?」
「あっち」
「こっち」
「そっち」
……全然分からなかった。
でも、たくさんの猫さんと会えて楽しかった。
しばらくすると、お腹がぐぅっと鳴った。
(そろそろお昼ご飯の時間だ)
私は立ち上がる。
「ミチルは帰るね。バイバイ〜」
「気をつけてね」
「バイバイ」
「またね」
猫さんたちが、しっぽをゆらゆらさせながら見送ってくれる。
猫さん、優しい。好き。
私は来た道を戻ろうと歩き出した。
……。
……あれ?
「……あれ?」
足が止まる。
周りを見回す。
同じような道。
同じような家。
同じような空き地。
「……」
私は小さくつぶやいた。
「お家の帰り道、分かんなくなっちゃった……」
「やれやれ……」
後ろから声がした。
振り向くと、さっきの猫さんの一匹が座っていた。
「迷子かい?」
「うん……」
「しょうがないね」
猫さんは立ち上がると、ゆっくり歩き出した。
「ついてきな」
「送ってくれるの?」
「迷子を放っておくほど、猫も冷たくないさ」
猫さん、優しい。好き。
私は小さく笑って、猫さんの後ろを追いかけた。
私は今、迷子。
猫さんに、お家の近くまで送ってもらっている。
「猫さんはこの辺の子?」
「そうだ。いつも見ている」
「そうなの?」
「不思議な感じだから覚えている」
「ふしぎ?」
どうやら私は、“ふしぎ少女”のようだ。
そんな話をしていると――
「お、ミチル」
「あ、そーちゃん」
そーちゃんがいた。
お家の前で、何かを探していたみたいだ。
「何してたの?」
「それはこっちのセリフだ。ミチルを探してたんだよ」
そーちゃんは私を探していたみたいだ。
そーちゃんは私のこと好きだ。
「そーちゃん、お腹空いたよ〜」
「ちょうどいい。いつもの食堂に行こうって話してたんだよ」
「やった〜!」
そこは、そーちゃんと初めてご飯を食べた場所。
私のお気に入りの食堂だ。
「ミチル、いたのね。じゃあ行きましょうか」
紗羅も家から出てきた。
三人そろった。
だから、これからご飯だ。
「猫さん、ありがとう〜。バイバ〜イ」
私が手を振ると、猫さんはしっぽをゆらりと動かした。
猫さんはゆっくり歩き出し、しゅーかいじょーの方へ、帰っていった。
私は、そーちゃんと紗羅の間に立つ。
そして――
いつもの三人で、いつもの食堂へ向かった。
私は、いつもの食堂へ行く。
「あら、蒼ちゃん、紗羅ちゃん、ミチルちゃん。いらっしゃい」
「おばちゃん。いつもの、いいかい?」
「私もいつもの」
「おばちゃん、ミチルも〜」
これで伝わる。
私は常連さんだ。もうオトナだ。
「はいよ~」
いつものお店で、いつも三人で、いつものご飯。
紗羅はパソコンを見ながら、ご飯を待っている。
お仕事って言ってる。そーちゃんから貰った宝物。ズルい。
「そーちゃん。ミチルにもパソコン買って〜」
「何でだよ。使えないだろ」
「紗羅だけズルいもん」
「私は仕事で使うから……」
紗羅は少し顔を赤くしている。
怒ってないけど、赤い顔。
「ふぅ……ミチルのために何か買うか」
「ホント? やった~」
そーちゃんは優しい。好きだ。
「お待たせ〜」
目の前には、いつものご飯が並んでいた。
みんな、それぞれ食べる。
いつもの味。おいしい。
おばちゃん、スゴイ。
「美味しいね〜」
「そうだな」
「もう家庭の味ね」
みんな、食べ終わった。
残さず食べた。みんな、エライ。
「ごちそうさまでした」
三人、声をそろえて言う。
お金も払った。
お金持ってる。スゴイ。
「まいどあり〜。また来てね〜」
みんなでお店を出る。
「ちょっとお店を見て回るか?」
「私は仕事があるから帰るわ」
「ミチルはお店行く〜」
「よし、行くか」
「うん」
「じゃあ、二人とも気をつけてね」
紗羅は家に帰った。
そーちゃんと二人でお買い物。
お店がたくさん並んでいる。
人もたくさん歩いている。
私は、そーちゃんの隣を歩く。
手を伸ばせば、すぐ届く距離。
私の周りには――
幸せが、いっぱいあった。




