エピローグ
むかしむかし。
小さな森のはずれに、ザザザザッ……が住んでいました。
ある冬の夜。
妹は窓の外を見上げながら、きらきらと輝くザザザザッを指さして言いました。
「ねえ、お兄ちゃん……幸せのザザッ……ザザッがいるのかな?」
兄は、少しだけ考えて――
ザザザザッ……と、やさしく笑いました。
――ザザッ……。
◇ ◇ ◇
――ミチルは、夢を見ていた。
ときどき見る、いつも同じだったはずの夢。
だけど今日は、なぜか違っていた。
輪郭がぼやけて、言葉が崩れて、何もかもが遠くなっていく。
(……あれ……?)
思い出そうとする。
でも、思い出せない。
確かに大切だったはずの記憶が、指の隙間からこぼれ落ちるように消えていく。
それでも――
ひとつだけ、残っていた。
まだ生まれる前。
あたたかくて暗い、やさしい場所にいたころ。
誰かの声が、そっと語りかけていた。
「幸せを、探しなさい」
その言葉だけは、はっきりと残っていた。でも……
「しあ……わせ……を……」
ザザッ……
声に、ノイズが混じる。
「さ……が……し……な……」
ザザッ……ザ……
言葉が崩れていく。
音が遠ざかっていく。
思い出そうとするほどに、消えていく。
(忘れても……)
ミチルは、ゆっくりと目を閉じた。
(もう私は……)
そして、はっきりと――思った。
「三人で、幸せを見つけたい」
小さな声で、つぶやく。
「そーちゃんと……紗羅と……ミチルの三人で……」
その想いは、夢の中でも消えなかった。
――たとえ過去を忘れても。
――たとえ声が届かなくなっても。
“今”の気持ちは、ここにある。
やさしく、あたたかく、確かにそこにある。
◇ ◇ ◇
やがて、朝が来る。
いつものように、目を覚まし。
いつものように、三人で過ごす一日が始まる。
特別じゃない、何でもない日常。
だけど――
それこそが、ミチルにとっての“幸せ”だった。
そして今日もまた、ミチルは探しに行く。
たくさんの幸せを。
三人で、見つけるために。




