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第九話 日記(三)

 私はミチル。

 見た目も中身も、小学生。

 どうやら私は――普通の女の子になってしまったみたいだ。

 今日も一日が始まる予感がする。

 でも、その予感はちょっとだけ嫌な予感でもあって――

 私はお布団を頭から被り、現実から目を背けた。

「ミチル。朝よ。起きなさい」

「……起きれない」

 小さく返事をして、そのまま丸まる。

 だって、眠いから。

「まったく。また蒼を見送れなくなるわよ」

 ――ガバッ。

「おはよう、紗羅! ほら、早く起きないと、そーちゃん行っちゃうよ!」

 勢いよく飛び起きる。

 寝ぼけてなんていられない。

 だって――そーちゃんを見送るのは、大事なお仕事だから。

「そーちゃん、おはよう」

「おはよう、ミチル」

「今日もお仕事?」

「ん? 今日は一緒にクロの所に行くんだろ」

 ……。

「紗羅。また嘘ついた……」

「ミチルがなかなか起きないからでしょ」

 紗羅は涼しい顔で言う。

 でも、その嘘は、どこか優しい。

 私は少しだけ頬を膨らませる。

 ……明日こそ、一人で起きる。

 ……嘘。やっぱり明日も起こしてほしい。

 そんなことを思いながら、猫さんのショルダーバッグにスマホを入れて、三人で家を出た。

 中央街の道は、今日もにぎやかだった。

 お店の人の声、歩く人たちの足音、遠くで聞こえる笑い声。

 私は、その全部が好きだ。

「こっちの道、知ってるよ」

「本当か?」

「うん。一人でお出かけしたことあるもん」

 胸を張って歩く。

 この辺りは、もう私の知っている世界だ。

 すると――

「やぁ。また会ったな」

「あっ、猫さん!」

 庭の塀の上から、一匹の猫さんがひょいっと飛び降りてきた。

 すり寄るように、私の横を歩き出す。

 前に迷子になった私を案内してくれた猫さんだ。

「ミチルは猫が好きよね」

「うん、好き」

 私はしゃがんで、そっと頭を撫でる。

 柔らかくて、あったかい。

「色んな所に連れて行ってくれるから」

「連れて行く、ね……」

 紗羅が少しだけ不思議そうに呟く。

 でも、私にとっては当たり前のことだった。

 猫さんについていくと――知らない道、知らない場所、知らない景色。

 いっぱいの“楽しい”に出会えるから。

 少しだけ一緒に歩いたあと、分かれ道に来た。

「今日はミチル、こっちに行くんだ〜。バイバイ〜」

「あぁ。また明日な」

 猫さんはしっぽを揺らして、別の道へと消えていく。

 その後ろ姿を、私は手を振りながら見送った。

(また明日、連れて行ってもらおう)

 小さくそう思う。

 世界はまだまだ知らないことでいっぱいだ。

 でも――

 三人で歩くこの道も、私にとっては大切な“知っている場所”。

「ミチル、行くぞ」

「は〜い!」

 私は元気よく返事をして、二人の元へ駆け寄った。

 今日もまた、新しい何かに出会える気がする。

 そんな予感を胸に抱きながら――私は、前を向いて歩き出した。


 大きな木が、だんだんと近づいてくる。

 枝を大きく広げたその木の上には、黒いカラスのクロの住処だ。

 いつも紗羅に仕事を持ってくる、神の使者。

「クロは今日も、あのおっきい木にいるの〜?」

「あいつはあの木にいるのが仕事だからな」

「今日も“魂の動向調査”の資料整理の仕事が来てるわ。特に娯楽の街への流れが多いから、大変よ」

 紗羅はため息混じりに言った。

 どうやら、お仕事はかなり忙しいみたいだ。

 三人で並んで歩く。

 街の中にはバスも走っているけど――

「近場は歩きよ。お金がもったいないもの」

 って、紗羅が言っていた。

 私は歩くの好きだからいい。でも、またタマシーランドに行きたいから、その時はバスが楽しみ。

 そんなことを考えているうちに、あっという間に木の前まで着いた。

「着いたね〜」

「クロ。いるんだろ?」

「何だよ。こっちは忙しいんだが?」

 上から、クロの声が聞こえた。

「私も忙しいわよ。誰かさんのおかげで……」

 紗羅がじとっとした視線を向けると、クロはやれやれと羽を広げた。

「クロ〜」

 私は両手を振る。

「お? 何だ。元の姿になっているじゃないか」

「まぁ、一応タマシーランドのおかげでな」

「それは良かったな。俺のおかげだな」

「何を偉そうにしてるのよ」

「俺は偉いんだよ」

 うん、クロは偉いらしい。

 私は素直に頷いた。

 するとそーちゃんと紗羅が――

「で、余命力の使い道が少し分かったんだが……」

「ミチルはたまに、私たちの身体に“感情を込めた余命力”を送っているみたいなの」

「余命力を送る?」

 クロの声が低くなる。

 顔は真っ黒で分からないけど、きっと真剣な顔をしている。

 クロはそーちゃんと紗羅をじっと見つめた。

「これは……余命力にこんな使い方が……?」

「どうしたんだよ?」

 そーちゃんが眉をひそめる。

 少しの沈黙のあと、クロがゆっくりと言った。

「少しずつだが――お前たちの失われた余命力が回復している」

「え?」

 そーちゃんと紗羅が、同時に驚いていた。

 私は……よく分からない。

「回復って……そんなこと、あり得るのか?」

「本来、余命力は減る一方だ。外から補充する手段なんて、聞いたことがない」

 クロの言葉は重かった。

 でも――

 私は、ただ思っただけだ。

 楽しいって。

 嬉しいって。

 一緒がいいって。

「……ミチル」

 紗羅が、私を見る。

「え?」

「あなた、何かしてる自覚はある?」

「う〜ん……?」

 私は首を傾げる。

 何も分からない。

 ただ――

「三人でいると、あったかいの」

 自然に言葉が出た。

「それで……こう、ぎゅーってしたくなるの」

 私は、二人の手を取る。

 ぎゅっと握ると――

 ふわり、と。

 淡い光が、また手の中から溢れた。

「……これだな」

 そーちゃんが小さく言った。

「無意識、か……」

 クロも低く言った。

「とんでもないことをやってるぞ、この娘は」

 とんでもないこと?

 私は、よく分からないまま――

 ただ、二人の手を握り続けていた。


「ミチル。余命力は大切って話はしたよな?」

「うん。そーちゃんは“とくいたいしつ?”で、“よめーりょく”が減り続けるんだよね?」

「そうだ」

「紗羅は“よめーが短い”んだよね?」

「そうね」

「ミチルは……“よめーりょく”がいっぱいあるんだよね?」

「多分、な」

「そーちゃんも紗羅も、自分の使い方で使うんだよね?」

「そうね」

 私は、二人の手を見た。

 ぎゅっと握ったまま、離さない。

「ミチルはずっと三人でいたい。そのためにミチルの“よめーりょく”を使いたい。ミチルだけ、残るのはヤダ……」

 ぽつりと、言葉がこぼれる。

 胸の奥にある気持ちを、そのまま出しただけだった。

「それが……ミチルの使い方、か?」

「うん……」

「そうか」

 そーちゃんは静かに頷いた。

 その横で、クロが羽を揺らしながら口を開く。

「おそらく、お前たちだから可能にした使い方だろうな」

「俺たちだから?」

「その娘の、現世で知ることが出来なかった“家族”を守りたいという強い気持ち。それがなければ、こんな芸当は成立しない」

 難しいことは、よく分からない。

 でも――

「家族を守りたい……」

 その言葉だけは、すっと胸に入ってきた。

 私は、二人の手をもう一度強く握る。

「分かった」

「……でも、私は消えるつもりはないわよ?」

 紗羅が、いつもの調子で言う。

「私は永遠の十七歳なんだからね」

「前は永遠の十五歳だったよな」

「言ってた〜」

「何よ!」

 三人で笑う。

 なんでもない会話。

 でも、それがとてもあったかい。

 ――幸せだ。

「ところで、娘よ」

 クロが話しかけてきた。

「擬態の姿に戻れるのか?」

「ぎたい?」

「大きい姿の方だ」

「う〜ん……分からない」

「そういえば、ベニが言ってたわね。“服を着る感覚”だとか何とか……」

「服? 着たことないよ?」

「そうか。魂になれば基本的に必要ないものね」

 紗羅が少し考え込む。

 そして、ふっと顔を上げた。

「だったら、魔法少女の変身だと思えば出来るんじゃない?テレビ、見てるわよね?」

「みてる〜」

 テレビで見たことがある。

 くるっと回って――ピカーンってなるやつ。

 私はその場でくるりと回った。

「へんしーん!」

 くるっ。

 ……。

「どう?」

「変わってない」

「え〜?」

 蒼が即答する。

 紗羅も肩をすくめた。

「そんなに簡単じゃなかったのね」

「へんしーん!」

 もう一回。

 くるっ。

「変わった?」

「変わってない」

「もう〜!」

 私はその場でぴょんぴょん跳ねる。

 何回やっても、体は小さいままだった。

 この日は、夜まで変身の練習をした。

 魔法少女みたいに変身できたら、かっこいいなぁって思うから・・・。

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