面影
気がつくと、私は何度も同じ時代に立っていた。
時間が巻き戻っていると、はっきり分かるわけじゃない。ただ、胸の奥が「またここだ」と静かに告げる。その場所には、いつも彼がいた。
背が高く、黒い髪。着物をまとい、顔立ちはなぜか思い出せないのに、声だけははっきり覚えている。低くて落ち着いた声で、名前を呼ばれると、世界が少しだけ柔らかくなる。
彼は追われる身だった。罪人だとか、危険な人物だとか、周囲はそう呼んでいた。でも彼は、古びた建物で子どもたちの面倒を見ていた。孤児院のようなその場所は暗くて古く、決して立派じゃない。それでも笑い声があって、温もりがあって、私はそこが好きだった。
彼と過ごす時間は短く、静かで、確かだった。
けれど終わりは突然やってくる。警察のような人々が現れ、彼は逃げ、戦い、そして——戻らなかった。
泣いた。息が詰まるほど泣いた。
次に目を開けたとき、私は現代にいた。
あの孤児院があったはずの場所に、足が勝手に向かう。寺院のような建物に変わっていて、中に入ると、かすかな面影だけが残っている。意味がないと分かっているのに、私は何度も歩き回った。
庭に出ると、小さく窪んだ場所があった。お墓のようで、でも何も埋まっていない。ただの空洞。
分かっている。ここには誰もいない。
それでも私はそこに縋りついた。ここに居続けたら、彼が来てくれるんじゃないか。そんな淡い期待を手放せなかった。
墓標には、かつてお揃いで持っていた物が括り付けられていた。ボロボロになっていて、触れただけで、時代の違いを突きつけられる。
——本当に、生きていた時間が違ったんだ。
胸が裂けるように痛んで、私は声を殺して泣いた。
待っても、待っても、彼は来なかった。
涙が枯れるまで泣いて、体が動かなくなった頃、ようやく目が覚めた。
夢だったと分かっても、悲しさだけが残っている。
それでも、あの時間は確かに存在していた。私の中でだけ、静かに、生き続けている。




