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事ある毎にルー大柴の『mottainai』を歌ってたアイツ

作者: ミーそやえ

 ルー大柴が「mottainai」と言うヘンな歌をリリースした年、アイツは事ある毎にその歌を歌いあげていた。


 例えば誰かが、チョコボールサイズにまですり減った消しゴムをゴミ箱に捨てた時。

 例えば誰かが、下らないギャグにウケて口に含んだ牛乳を吹き出した時。


 そんな時、アイツは決まって「エムオーティティー……」とバカみてぇなリズムと共に、ルー大柴の「mottainai」を歌い始めるのだった。


 二~三回位は周囲にウケたのだが、味を占めたアイツはマジでクソウザくなるほど「mottainai」を繰り返す狂気のエセエコ野郎に成り下がった。


 周囲の「またかよ」「思ってたとしても普通に言えよ」とのツッコミも意に介さず、誰かが少しでも勿体ない事をすると、「エムオーティティー……」と、クソみてぇなリズムの歌詞を口ずさみ始めるのだった。


 私は、そんなアイツが苦手だった。


 何故って、ルー大柴は私の心のギャグ琴線をビンビンに掻き鳴らす、憎いあんちくしょうだったからだ。


 と言うより、私は今現在もルー大柴がツボだ。


 昔なろうで書いた短編のサブタイトルにもルー語を用いたモノがある。

 脳内でアイデアを探している時、フッと頭に浮かんで来る位には好きだ。


 なので、アイツが「mottainai」を口ずさみ始める度に、私は周囲の人間に自らの笑いのツボを晒さない様、歯を食いしばって口角の反乱を抑える羽目になった。


 ガキの頃の自尊心と言うヤツは複雑で、私はルー大柴の「mottainai」ごときナンセンスさで、ゲラゲラ笑う醜態を周囲に見せるワケにはいかなかったのだ。


 そんなある時、事件は起こった。


 何時もの如く誰かが勿体ない行為を働いた時、アイツは件の歌を高らかに歌い始めた。

 私は口を真一文字に結んで笑いの波に対抗していたのだが、アイツは何を思ったのか歌い終わるとおもむろに私の方に近付いて来た。


 笑いを堪えているのを見透かされたのか、とドギマギしていると、アイツは開口一番こう言い放った。


「ユーもトゥギャザーしようぜ?」


「……は?」


 キレそうになった。


 アイツ、笑いのツボが私とは全然違ったのだ。


 このボケは「mottainai」というヘンな歌をしつこく繰り返す性質のものだ。本質はルー大柴ではない。「いつまでやるんだ」と言うツッコミを経て完成するものだ。


 私はこのツッコミを、大笑して敗北を認めながらアイツに言い放つ日を、心の何処かで期待していたのに。


 あのボケは尊くも純で、尊敬にすら値すると思っていたのに。

 この時までアイツは、ルー大柴とは違う面白さがあったのに。


 私のこの感覚はアイツとは共有出来ていなかったのだな、と理解すると、笑いの波もアイツへの興味も急速に萎えていった。


 私がアイツに感じていた一方的な友情は、やはり私の一方的なモノでしか無かったのだ。


 その後、アイツとは深く親交を交わすこと無く、ほどほどの距離感のまま卒業と共に別れた。


 私にとってこの出来事は、自分にしか理解出来ない心の動きだったのか、ありふれた青春の一ページだったのか、今でも判別出来ずにいる。


 ただ、茹で足りなかったブロッコリーの芯を流しに捨てようとする時などに、アイツの口ずさむメロディーが不意に浮かんで来たりする。


 私はそんな時、双方向性を持ち得なかった友情の行く先を、エムオーティティーエーアイ! エヌエーアイ! と思わずにはいられなくなるのだ。


おしまい

この後、私は一口囓ったブロッコリーの芯を茹で直したと言うことじゃ……。

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