まさかの転校生_4
「なー清丸、人間、どう? 楽しい?」
「まぁな」
「いいなぁ、俺も人間になろっかな」
「もういきますよ、鈴緒」
「音羽なんでそんな顔してんの?」
「とにかく! いきますよ!」
「ちぇっ。……はぁい。じゃあまたな! 清丸! あしか!」
そう言って、風がサッと吹くように二人はいなくなってしまった。
「……一体、なんだったんだろう?」
「ま、ここはあいつらと俺の家だからな。いてもおかしくないんだけど」
「用事があったのかな?」
「……そうじゃないと思う。まぁ、いいや」
「?」
清丸の声が、さっきより低くなっていた。私のほうを見ている視線も、いつもの茶化すようなものじゃない。
「アイツらもいなくなったから、ちょっと真面目な話しても良い?」
「え、何急に」
「あしかは、俺のことどう思ってるの?」
「えっ……」
急にそんなことを聞かれて、言葉が詰まった。どうって……。どうって、そんなの……。
「い、いきなり何言ってんのよ! そんなこと急に言われたって……」
「気になってたんだよ。何年も前から、ずっと、ずっと」
「そんなこと……」
「昨日偶然に再会して、俺は人間じゃなくて、でも普通にあしかは話してくれてるから……」
「……」
「だから、期待しても良いのかな……って。思うだろ?」
「それは……」
――私だって、ずっと清丸のことは探していた。あの子どものころに見た清丸が、見間違いじゃなかったという確証を探していた。清丸が私のことを覚えていてくれて嬉しかったし、同じお狐サマたちに、時嶋家の人たちに、私の話をしていたことは嬉しくて恥ずかしかった。でも私はずっと自分を子どもだと思っていて、この好きだとか嬉しいだとか恥ずかしいとか、それがどういう意味なのか良くわからなかったし、表現もできないんだ。好き、という気持ちは、清丸と同じ好きなんだろうか。嬉しいのは、恥ずかしいのは、好きだからなんだろうか。
私が何も言えないでいると、清丸は私の顔を覗き込んできた。距離が近い。覗き込んだ後、離れたと思ったら清丸がほんの少しだけ体を寄せてきて、思わずお互いの肩が触れた。
「待って待って、近いってば」
「別にいいでしょ?」
「よっ、よくない!」
「俺はいいと思うけどな? あしかとこうしてると落ち着くし。なんか安心する」
「~~~~っ!」
だめだ。頭がグチャグチャする。何か考えようとしても、言葉にしようとしても、何も形にできない。どうして私、こんなにドキドキしてるんだろう。
しばらく沈黙が続いたあと、清丸がフッと笑った。
「ま、答えは今すぐ聞かねないことにするよ。あしか、まだ自分でもよくわかってなさそうだし」
「……わかってないって、何が?」
「そんなの決まってるじゃん。自分の気持ち、だよ」
「……!」
「でも、いつかちゃんと聞かせてほしい。あしかが俺をどう思ってるか」
清丸はそう言うと、ふっと立ち上がった。そして、いつものように茶化す声で言った。
「ホラ、もう暗くなるし、送っていく」
「べ、別にいいって! 一人で帰れるから」
「だめだって。俺、あしかをひとりで帰すとか心配だし」
「……なんだか、昔からそういう性格な気がする、清丸って。私、清丸のこと全然知らないのにね?」
「俺がずっとあしかのこと好きだったのは、もう知ってるでしょ?」
「なっ……!!」
その言葉に、頭が真っ白になった。清丸は気づかないフリをして、さっさと石段を下りていく。
(……ズルい。ホント、ズルい神様なんだから)
――次の日から、学校は体育祭ムードに入った。教室には赤や青のハチマキが配られていて、みんなそれぞれ自分のチームカラーを巻いている。
私は赤組で、清丸も同じ。でも清丸は、当然のようにどの女子にも囲まれていて……。
「清丸くん、騎馬戦の練習、うちのチームに入ってくれない? 勿論上だよ! 上!」
「え、チーム対抗リレーも清丸くん出るでしょ? 最下位走ってても、全員追い抜いちゃいそうだよね」
「ねえねえ、写真撮っていい? アルバム作るんだ!」
(ああ、ほんっと、モテるなぁ……)
転校してきてまだ全然日付は経っていないのに、この人気は一体なんなんだろう。不思議なことに、男子にもモテる……というか、人気があるから誰も妬んだりしていない。これが神様の本領発揮なの? と思ってしまうくらいには、清丸は当たり前のようにそこにいた。……顔も頭も運動神経もイイし、仕方ないってわかってるのだけど……何とも言えない、複雑な気持ちだ。
「……清丸、あしかのこと、じーっと見てるよね」
隣に座ったみっちゃんが、ニヤニヤしながら私を小突いた。
「べ、別に見てない!」
「ふーん? あしか、顔赤いよ?」
「赤くない!」
「へえ、じゃあ今度、清丸くんに直接言おっか。『あしか、清丸のこと気にしてるよー』って」
「や、やめてってば!!」
みっちゃんは悪戯っぽく笑って、机に頬杖をついた。
「でもさ、清丸、あしかのほうばっかり見てるよ?」
「えっ……」
「ホラ、今も」
みっちゃんの視線を追うと、騎馬戦の作戦を話してた清丸と目が合った。……気のせいか、ほんの少しだけ笑ったように見える。