まさかの転校生_2
「え、超かっこよくない!?」
「目、めちゃくちゃキラキラしてるよね?」
「すごーい! モデルみたい!」
(嘘でしょ……! 本当に来ちゃったんだ……!)
「じゃあ清丸くん、あしかの隣、空いてるからそこに座ってくれ」
「了解でーす!」
先生に言われるが早いか、清丸はズンズンと歩いてきて、私の隣に腰を下ろした。机を引き寄せて、ニヤリと笑う。
「よ、相棒。よろしく」
「……っ、なんで来たのよ!」
「あしかがここにいるからに決まってるじゃん? さっき言ったのに、もう忘れたの? 『人間になる』って」
「わ、忘れてないけど……」
「これからずっと、あしかの隣にいられるってことだよ?」
耳元でさらっと言わないでほしい、変に顔が熱くなるし、周りから見たら赤いだろうから。……クラスメイトたちはもう、私と清丸を交互に見てヒソヒソしている。
(ああもう……最悪だってば……! これ、絶対明らかに噂になるヤツだもん!)
だけど清丸は、そんな私の心配なんておかまいなしで、ニッコニコの笑顔を向けてきた。
「なあ、放課後さ。一緒に帰ろうぜ?」
「……断る!」
「えー、ずっと一緒の相棒のクセに」
「相棒じゃない!」
「そう言うなって。……転校生に色々と教えてくれるよね?」
「私だって、昨日転校してきたばかりなんですけど!? っていうか、清丸はずっとこの町にいるじゃない……」
……って言ってるのに、きっと帰り道で強引についてくるんだろうな、このお狐サマは。
複雑な私の気持ちなんてつゆ知らず、転校初日から清丸は完全にクラスの人気者だった。……まぁ、あんな顔と人懐っこい性格してたら当然だよね……とは思うけれど、なんとも言えない感情が押し寄せてくる。
「清丸くん、これノート! 昨日の授業の分だよ! いきなり授業入るより、どこまで進んでるかわかったほうが良いよね?」
「ねえ清丸くん、給食一緒に食べよ! ランチルーム案内してあげる! 広いしそれにとっても綺麗なんだよ!」
「体育のあと、タオル貸そうか? 私二枚持ってきてるし……」
女子たちがわらわらと群がるのを、私は横目で見ていた。
清丸は毎回、ニコニコと笑って――
「わぁ、ありがとう! ……でも俺、あしかに全部お願いするつもりなんだ」
――なぜか、いちいち私の名前を出す。
「えっ……あしかちゃん? どうして?」
「まさか、二人って元々知り合いなの?」
「あしかちゃん、昨日転校してきたばかりなんだけど……」
そのたびに視線がこっちに集まるから、ほんとやめてほしいんだけど。
「……そういえば、雰囲気が初対面じゃないし、特別っぽいような……?」
「ち、ちがっ……! そんな仲じゃないから!」
「そうそう、まだそんな仲じゃねえな。な、あしか?」
「『まだ』って何!? 余計なこと言わないでよ!」
私が慌てる姿を見て、清丸は楽しそうに笑う。――ああもう、このお狐サマは、私のことを面白がってからかってるんだ。
そして、その日の体育の時間。バスケットボールの授業だったんだけれど、清丸がやたら目立っていた。
「清丸くん、バスケうまっ!」
「ジャンプ力すごいね!」
「カッコイイ!!」
女子たちの歓声が飛ぶたびに、清丸はチラリとこっちを見ていた。
「な、あしか! 見てたか? 俺、結構やるだろ!」
「あー……はいはい、すごいすごい」
「おーい、棒読みだぞ?」
そう言って私に近づいてくる。清丸はわざとボールを私の足元に転がして、屈んだ時に耳元で小声で言った。
「ねぇ、あしか。もしかして、ちょっと拗ねてたりしない?」
「は、はぁ!? なっ、なんで私が!」
「だってさ、さっきからずっと俺のこと見てたでしょ? 女の子たちが何か言うたびに」
「べ、別に見てないし!」
「……へぇ? じゃあ俺が、他の女子ともっともっと仲良くしてもいいってこと?」
「……っ!」
言葉が詰まる。悔しいけど、胸がキュッと締め付けられるようだった。なんで、こんなにドキドキしなきゃいけないんだろう。
「あははっ! 冗談だって」
清丸はにやっと笑って、私の頭をぽんと叩いた。
「あしかが見てくれてるほうが、俺は楽しいからさ。他の女子たちに褒められるよりも、見つめられるよりも、ずっとあしかのほうが良い」
「……っ!」
(なになにもう! ほんっと、このお狐サマ……ズルい……!)
顔が熱いのをごまかすために、私はボールを拾って清丸の胸に押しつけた。
「はいこれ! さっさと戻りなよ! 試合負けちゃうよ?」
「おう、ありがと、相棒」
「相棒じゃない!」
そう言ったのに、清丸は嬉しそうに笑ってコートに戻っていった。――なんで、そんな顔するんだろう。前を向く直前、一瞬だけ悲しそうな笑顔が見えた。
そして、放課後。
みんなを待っていたらきっと清丸に捕まる。みっちゃんもナナもココも待っていたかったけど、休み時間の間に話をして、一人げ帰ることにした。清丸が転校生としてやってきたことに三人とも驚いていたけど、あれは正しい反応だと思う。だって急に、神様が人間になって学校に通い始めたんだから。時嶋くんの苗字まで借りて。……私はさっさと帰ろうと思っていたのに、校門を出たところで、清丸に見つかってしまった。