表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/26

神様との関係_3


 「な、何!」

「別にぃ? ただ――もしかして、清丸のこと考えてた?」

「な、なんでそうなるの!」

「だって、わかりやすいんだもん。最近のあしか、『毎日充実してます』って顔してるよ?」

「っ……そ、そんな顔してない!」

「ほら、今もしてる」

「してない!」


 慌てて否定すると、ナナはますますニヤッと笑った。その笑顔に思わず口ごもってしまう。


「……あしか、清丸のこと、どう思ってるの?」

「ど、どうって……」


 どう思ってる、なんて、そんな簡単に言えるわけないのに。でも、言葉を探している間に、胸がドクンと強く跳ねた。


「……やっぱり、あしかは清丸のことが好きだと思うけどなー」

「なっ、なにそれ!」

「だってね、あしかが清丸見てる時の顔、すっごいわかりやすいよ。……ホラ、今も赤くなってるし」


「う、うるさいっ」

「まっ、清丸はいわずもがなだしね」


 顔が一気に熱くなった。ごまかそうと視線を逸らしたけど、ナナはそれすら見逃さなかったみたいだ。


「あははっ! やっぱりね。――でもさ」

「でも?」

「神様って、人間と一緒になれないんだよね?」


 その一言で、私は息を止めた。


「ど、どういうこと?」

「だって、清丸、お狐さまでしょ? あれ、普通の神様と同じだよ。人間と結ばれるのは、あんまりよくないって聞くよ。何かの本で読んだんだもん」


 ナナはあっけらかんとした口調だったけど、その内容は胸に重く響いた。


「……そんなの、決まってるの?」

「うん、時嶋家でも、そういう話、よく出てたみたいだよ。だってさ、神様って『人間の願いを叶えるため』にいるんだから。恋愛にかまけてると、力が乱れるんだって。だって、自分の願いを叶えちゃうことになるじゃん?」

「力が……乱れる……?」

「そう。お役目が大事な時に、人間に気持ちが引っ張られたら困るでしょ? だから昔から『神様と人間は深く関わるな』って言われてるんだよ」

「……」

「それにね、神様が人間と強く関わると、人間の寿命に合わせて力が削られるって話もあるよ。あれ、力の消失に合わせて寿命が削られる……だったっけ? ――あ、これ、ホントかわかんないけどね」


 ナナは何気なく言ったけど、私の頭の中ではその言葉がグルグル回った。清丸から聞いた話と、そんなに変わらない気がしたから。


「……ナナ」

「何?」

「もし、神様が人間を好きになったら、どうすると思う?」

「さあね。でも、清丸なら――迷うと思うよ」

「迷う?」

「だって、清丸、あしかのこと大事にしてるじゃん。大好き。……でも、それ以上に『お役目』も大事にしてるでしょ? だから、今も神社に何度も顔出してるんじゃない?」


 ナナは少しだけ真剣な目で、私を見た。


「――あしか、清丸に無理させないでね。清丸が無理するってことは、音羽も鈴緒も無理するってことだから。……下手したら、時嶋君も」

「……うん」


 うんって言ったけど、心の奥はグラグラしていた。


 その日の放課後、私は我慢できなくて神社に向かった。夏の夕方、石段を登ると、セミの声がやけに大きく耳に響く。階段を登りきると、ひんやりした空気と、木々の匂いが迎えてくれた。


 拝殿の前に座り込んでいる清丸が見えた。


 また見えている尻尾をパタパタ揺らしながら、空を見上げている。耳がピクピクとわずかに動いているのが、妙に気になった。


「よ、あしか」

「……清丸」


 私が声をかけると、清丸は振り向いて、いつもの調子で笑った。でも――その笑顔、やっぱり無理してる。


「今日、何かあったの? 清丸、あんまり元気がなさそうに見えるんだけど」

「なんにもないよ。あしか、俺のこと気になるから心配しちゃう感じ? 嬉しいな」


 清丸は軽く言ったけど、耳がピクッと動いた。

 ――嘘をついてる。


「……ねえ、清丸」

「ん?」

「神様って、人間と……一緒にいちゃ、いけないの?」

「っ……」


 清丸の笑顔が止まった。狐耳の先が、夕日に赤く染まっていた。


「それ、誰に聞いた」

「ナナが、教えてくれた」


 沈黙。

 清丸は少しだけ俯いた。


「……あしか、嫌いになった?」

「え?」

「『神様だから』って理由で、俺のこと、もう嫌になった?」


 その言い方が、胸に突き刺さった。


「そんなことない!」

「でも――お前、普通に考えりゃ、そうなるだろ」


 清丸は、少し笑ってみせた。でも、その笑顔が痛かった。


「……前に話した通りだよ。……でも、今は……どうしても、離れたくない」


 清丸は膝を抱えて座り、遠くを見ていた。私は、そんな清丸の横顔をチラチラと見てしまう。


(……前みたいに、からかってくれればいいのに)


 気まずさをごまかすために、わざと口を開いた。


「……ねえ、なんで急に大人しくなったの?」

「大人しい?」

「だって、前はもっと、こう……うるさかったじゃん」

「うるさいってお前なぁ」


 清丸は苦笑したけど、すぐに視線を逸らした。


「……別に。ただ、ちょっと考え事してるだけだよ」

「考え事?」

「……あしか、ホントはどう思ってるんだ?」

「え?」

「俺と一緒にいるの、迷惑か?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ