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文化祭は大変!?_1


 体育祭が終わってすぐ、学校は文化祭モードに切り替わった。文化祭と言っても、それぞれのクラスがちょっとした出し物やお店を企画して、生徒たちだけで楽しむイベントらしい。「高校生だったら、きっと他所の学校の友達も呼べたのに!」って、ナナが残念がっていた。気持ちはわかる。そのほうが、みんなでワイワイできる気がしたから。


 私たちのクラスはお化け屋敷をやることに決まっていて、準備で放課後もバタバタだ。実は、転校する前……小学生だったけど、お化け屋敷をやったことがある。怖いのは苦手だけど、人を驚かすって意外と楽しい。……って、そんなことをうっかり口にしちゃったら、清丸に私が驚かされそうだから、絶対口に出さないって決めた。


「なぁあしか、それ運ぶの手伝ってやろうか?」

「え、別に大丈夫だよ。それに清丸担当が違うじゃん!」

「いーからいーから。ほら、重いだろ?」


 清丸が私の手から段ボールをひょいっと奪い取る。女子たちが「きゃー! 清丸くん頼りになるー!」と盛り上がる横で、私は思わずムッとした。


「何でそんなに女子に愛想振りまけるわけ?」

「え? 俺別に振りまいてないけど?」

「ウソ。絶対わざとでしょ!」

「あしかまさか、嫉妬?」

「じ、嫉妬なんかしてないし!」


 言い返したけど、清丸はニヤニヤ笑っている。


「あ、ヤキモチだー!」

「ちょっと、ナナまで!」

「あははっ! 清丸、ヤキモチじゃないってさ? あしかいわく。……あははっ」

「はいはい、そういうことにしといてやるよ」


 面白がってナナまで言っている。……ムカつく。ムカつくけど、言い返せないうえに顔が熱い。


 お化け屋敷の衣装係も、なぜか清丸がしゃしゃり出てきた。面白がってみっちゃんも考えている。


「よし、あしかは……ゾンビ役な!」

「はあ!? なんで私がゾンビなのよ!」

「だって似合いそうじゃん」

「似合わないし! ってか、ゾンビが似合うってどういうこと!?」

「でも、ホラ、俺がメイクしてやるから」

「いらないってば!」


 清丸は相変わらず好き放題だ。でも、みっちゃんが笑いながら「やったら絶対面白いと思うよ」と言ってくれて、結局私はゾンビ役を引き受けることになった。


(……清丸のペースに乗せられてる気がする。悔しいな)


 放課後、教室の窓に黒い布を張りながら、私は無意識に清丸を目で追ってしまう。清丸は男子にも女子にも人気で、みんなに声をかけられていた。


「清丸くん、ここ持ってて!」

「オーケー任せとけ」

「清丸くーん! 後でそっちのダンボール持ってきてー!」

「はいよー!」


 女子が楽しそうに笑う声が耳に刺さる。それに対して、清丸はいつもの軽い調子で返事をしていた。


(別に、清丸がモテるのはわかってる。……でも、なんか嫌だ)


 心の中で相変わらずモヤモヤを抱えたまま、私は布を張る手を止めてしまった。そして気付けば清丸が近づいてきていた。


「あれ、あしか? 手止まってるよ?」

「え、あ……」

「どした、疲れた?」

「……別に」


 清丸が首をかしげる。その仕草が、なんだか本当に人間の子どもみたいで、余計に胸がくすぐったくなる。


 ――ついに文化祭当日。私はゾンビ役としてお化け屋敷の一角に隠れていた。


「……うわあああ!!」

「きゃー! あしかちゃんめっちゃリアル!!」


 意外にも、私のゾンビは好評だった。お化け屋敷から出たお客さんが「ゾンビすごい!」と言ってくれて、ちょっとだけ嬉しい。


 ……ただ、清丸のほうがもっとすごかった。彼はなぜか大したメイクもせず吸血鬼役をやらされていて、女子に大人気だ。


「清丸くん、かっこよすぎ!」

「ねえ、写真撮っていい?」

「おー、いーぜいーぜ」


 ……ムカつく。

 いや、別にいいんだけど。……でもやっぱりムカつく。


 午後、少し休憩中。私は裏口近くでぼーっとしていた。


「お、あしか、疲れた? お茶飲む?」


 そう言いながら、清丸が近づいてくる。


「……うん、ちょっとね。お茶はさっき飲んだから大丈夫。……ありがと」

「そっか。無理すんなよ」


 清丸は笑っていたけど、その笑顔がどこかぎこちない。私が「どうしたの?」と聞こうとした時――


「……やっぱり、俺、あんまあしかに近づいちゃダメだな」


「え?」


 思わず聞き返す。清丸は目を逸らした。


「俺、お狐サマだしさ。あしかとずっと一緒いたくて人間の振りしてるけど、神社の催事が近付いて来てわかった。……長く続けられないってこと」

「……それ、体育祭の時も言ってたよね」

「うん。……だから、変に期待させたくないんだ」

「期待って……なにそれ」

「……期待してたのって、俺だけ?」


 清丸の声が、なんだか遠い。私は何か言いたかったのに、言葉が喉につかえて出なかった。不安そうな顔をして、清丸は戻っていった。……けれど、私は何も言えなかった。


 大盛況のまま文化祭が終わり、私は神社に向かっていた。とっくに夜になっていたから、私はお母さんに「ナナに教科書返すの忘れてた」と嘘を吐いて家を出た。

 清丸に会いたい、でも会いたくない――そんな気持ちが頭の中でごちゃごちゃしていた。


 ――鳥居のそばに、清丸が立っていた。

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