上級騎士編あらすじと解説文
〇上級騎士編あらすじ
コール村の門番からリィアへ戻ってきて上級騎士三等になったティロであったが、前途は多難であった。本来自分がいたかもしれない地位へ帰ってきたことで失ってしまったものが強く思い出され、ますます惨めな気分になっていた。しかし上級騎士筆頭のゼノスに可愛がってもらい、発起人ライラと再会するなど良いこともあった。
毎年新年を迎えると開催される上級騎士での全体稽古で、上級騎士筆頭補佐になったかつての仇、ザミテス・トライトとティロは対戦する可能性が出た。それだけでティロはパニックに陥り、二回戦敗退という結果にゼノスは失望する。
このままではいけないとティロは一念発起して剣で身を更に立てる計画を立てるが、その矢先にゼノスが上級騎士筆頭を辞職するという知らせが届く。ゼノスと最後の手合わせを行い、本当の自分についてティロは語るべきか逡巡するが結局何も言えないままだった。
その後空席になった上級騎士筆頭の席にザミテスが着くと、問題児であるティロを何とかしようとしているのかザミテスはティロを週末に家に呼び、息子に剣技を教えてほしいと申し出てきた。断る口実も見つからずティロはザミテスの家に行き、そこで息子のノチアや娘のレリミア、妻のリニアと対面する。ただでさえザミテスの家に行くだけでも苦痛であったのに彼らの素朴な差別心や劣等感などを浴び、ついにはザミテスに「自慢の息子のようだ」と声をかけられたことでティロの心はすっかり折れてしまう。
様々なことが重なり、再度自殺を企てたティロだったがそこへ発起人ライラが現れた。どうせ死ぬならと彼女に胸の内を明かしているうちに、ティロは死ぬ前にザミテス及びトライト一家に一矢報いる決意を固める。
〇上級騎士編リンク
https://kakuyomu.jp/works/16817330664310915681/episodes/16818093077022066706
○キャラ動向
ティロ(21~23)
今まで頑張ってきましたが、今回で完全に闇堕ちしました。ただでさえ上級騎士の環境はティロにとってストレスフルであるところに、ゼノスはいなくなるわザミテスはしゃしゃってくるわで最悪です。そして今回、自身の意図での二度目の自殺未遂を試みたところで発起人ライラに話をする流れになり、一連の復讐劇が始まることになります。
ゼノス
山に捨てられていたティロの拾い主。彼の事情及び心境は事件編で大いに語られているので是非そちらを見てもらいたいのですが、ティロから見てもゼノスは立派な人物だったようです。
リストロ
ティロの同室先輩。第一部では存在だけ示唆された第二部オリジナルキャラです。
そして、暗示されているのですが上級騎士時代のティロにとってシャスタに当たる人物になります。彼がティロとこの後どうなるかというのは事件編を読めばわかります。探してみてください。
ザミテス
リィア軍上級騎士隊筆頭補佐、改め筆頭。そしてクラド、ゾステロと共にジェイドとライラを埋めた張本人です。何故彼があのような凶行に至ったのかというのも全容編で明らかになる予定です。事件編でのザミテス視点を読むと、本当にティロに気をかけていないことがよくわかります。彼にとって重要なのは、自分の地位を維持することとクラドに気に入られることのみです。そんな彼がクラドとどういう関係なのかというのも気になるところです。
レリミア
ザミテスの娘。うるせー奴。何故か異様にティロに懐いているのですが、彼女の本意がわかるのは少し先になります。
ノチア
ザミテスの息子。へたれ。事件編で見るより邪悪度がかなり高くなっていますが、彼はただの世間知らずの生意気なガキです。
リニア
ザミテスの妻。ポリコレ棒を振る女。ティロに対して相当舐めた態度をとったので、これから彼女は破滅へ向かいます。さあ大変。
ライラ
ようやく暗躍してきたライラ嬢。ティロに思わせぶりな態度を見せたり現状報告をしたりと、そこそこ充実した生活をしているようです。そして発起人として暗躍していたはずなのにそれを放り投げてトライト家に乗り込んだ彼女は一体何がしたかったのか。しばらくティロ視点で彼女を見ていく必要があります。
猫2
リストロ同様、全容編オリジナルキャラです。ただの猫です。ただの猫なのですが、おそらくその辺の猫よりも大事な猫です。
ベックス&ライファー
ティロと一緒に上級騎士として勤務する2名。同期で仲がいい。元々ネームドにする予定はなかったのですが、とある事情からネームドにすることが決まってうんうん悩んだキャラ。この作者が一番時間をかけるのはネーミングなんです。コール村のキャラも最初は全員ナシで行こうとしていたんですけど、どうしてこうなったんだろうなあ……。
○ティロの一人称について
小説を書く上でキャラの一人称はある程度統一されていたほうが望ましい、というのは大原則だと思います。
ただ、ティロに関しては「優等生のエディア時代」「惨めな名無しの路上生活時代」「ようやくティロになれた予備隊時代」「失望と諦めの一般兵時代」を経て、作中何度も繰り返されるとおり「俺は誰なんだろうな」と常に自問し続ける状態になっています。
そういうわけで、ティロの一人称が不安定な時は彼の自我もかなり不安定であるということを押さえていただけるとより楽しく(?)読めるかと思います。つまり、彼の一人称の激しすぎるブレは仕様です。わかってやっていますので、気にしないでください。
○内容解説
《第1話》
「リィア軍本部」
→首都の真ん中、王宮より少し離れた場所にあります。予備隊も首都にあるけれどちょっと離れた場所にあります。ちなみにザミテスの屋敷などお金持ちが住むような住宅地はここから徒歩で通勤できる場所にあります。ティロのよく行く河原は大通りを抜けて、そこから30分くらい歩いたところにあります。ぶっちゃけ移動距離や時間などは考えてますが、位置関係などはあんまり考えてないです。必要になったら頑張ります。
「筆記試験」
→リィア軍の法規の穴埋めと意見文みたいなものを想定しています。意見文に関しては「市民を守るために必要なものは何か」という漠然としたもので、とりあえず筋の通ったことを何か書いてあればOKくらいの緩いものです。ティロは既に試験問題をもらっているので、この筆記試験はほぼ意味のないものになっています。
「実技試験」
→事件編でも出てきましたが、上級騎士になるには本来厳しい実技試験が存在します。試験対策として受験者たちは情報交換を密にするため、そこに絡まなかったティロが異質な者とされるのも仕方ないことだったりします。
「粗末な一般兵の服」
→普段であれば、隊服がボロボロになれば交換できます。しかしコール村にいた頃は予備のリィアの隊服はなかったので、ティロはリィアの隊服を着潰した後はオルドの隊服を借りて着ていました。今回リィアに戻ってくるということでとりあえずボロボロになったリィアの隊服を着てきました。惨めですね。
「地面なんかで寝たことないんだろうな」
→不眠に加えて、ティロはいろいろあってそもそも「寝台で横になって楽になる」という行為に抵抗があります。エディアを出てから具合が悪い時以外は積極的にベッドや寝具を用いていないのですが、仕方なく地面に寝ていたのは路上生活時代とトリアス山の山の中だけで、後はきちんと彼専用の寝台は用意されています。
「じめじめした建物の裏」
→常に陽が当たらなくてコケとか生えているような場所。コケが生えているということはあまり人がやってこない場所。現代の日本だと給湯器とか置いてある場所がティロの好みです。これは「誰も来ないひとりになれる場所」を追求した結果です。
「クルサ家」
→事件編で大体語られましたが、全容編でのおさらいです。リィアの政変は、元々権力があったクルサ家をラコス家とフレビス家が協力する形で失墜させたというのが大まかなあらすじです。そしてフレビス家のドラ息子がティロの仇のクラド・フレビス、つまり政変が起こらなかったら彼は家の威光を着ることもなく、おそらく大人しい性格だったのではと想像できます。この政変について直接語ることはありませんが、その背景は後ほど語られる予定です。
《第2話》
「しっかり目を隠すと、本心をすっかり覆い隠せた気になる」
→この時点でのティロの髪型は、前髪が見えない米津玄師みたいな感じを想定してください。ちなみにティロが目隠し属性になった本当のところは「散髪」エピソードをやりたかったからで、作者が特段目隠し属性が好きというわけではありません。
「あの懲役刑から逃れられるなら俺はリィアの隊服だって着るぞ!」
→確かにコール村の食事はおいしく心穏やかに過ごせたようですが、それは剣に生きるティロにとっては自由を封じられて刑務所で過ごす穏やかさと一緒のようでした。もし剣技を封じられなければ、彼はあそこに落ち着いていたかもしれません。
「純然たる良心に囲まれて」
→コール村では大歓迎を受けていたのでは? と思った方もいるかと思います。しかしコール村での歓迎会はティロ自身ではなく「今日から余所者と一緒に暮らす記念」なんです。その証拠にティロがいなくなっても歓迎会は続いていて、彼らは単にティロをダシにして酒が飲みたかっただけなんです。しかしここでは「剣の腕を買われて来た」ということでティロ自身が大歓迎を受けているわけです。ここまで初手で受け入れられたのはエディアを出てから初めてだと思われます。予備隊では最初いじめられていたので。
「急に固まって黙り込んでしまったティロ」
→都合の悪いことを尋ねられると、ティロはフリーズする傾向にあります。それで一般兵時代は不気味がられて誰も寄りつかなくなったのですが、上級騎士の人はみんな優しいのでちゃんとティロの話を聞こうとしてくれます。よかったですね。
「士官卒」
→士官学校は大体15歳~18歳くらいで通う場所で、入学式はなく都度入学生がいて、四年間のカリキュラムを終えたら卒業します。つまりこっちでいうところの「有名大卒」みたいな印象です。だからキアン姓で兵隊になるしかなかったと嘆いていた災禍孤児の彼などからすれば士官卒というだけで妬みの対象になります。そしてティロはキアン姓の気持ちもわかるし、士官卒の立場もわかるというとても複雑な心持ちです。
「ティロを一般兵たちは完全に舐めてかかっていた」
→特務予備隊編では気に入らない相手はボコボコにしていたので誰も寄りつかなくなった、という記述がありました。ボコボコにされた奴らが積極的に「あいつは舐めてはいけない」と吹聴するはずもなく、降りかかる火の粉は払うけれど後は言われたい放題、というのがティロなので彼のことをよく知らない人は「陰気でチビの怠け者(よく居眠りしているため)」と思っていたと思います。
「面倒くさい、実戦形式で全員まとめてかかってこい雑魚どもが」
→基本的に剣を持つと性格が変わる人です。詳しくは書いていませんが、一般兵時代の鬱憤(稽古で爪弾きにされたことなど)をこれでもかと晴らしたのではないかと推測しています。これは当時言いたくても言えなかったひと言なんでしょう、きっと。
「要人警護」
→つまりSPです。普段は街の詰め所の管理もしつつ、要請があればSPとして派遣されるのが上級騎士のイメージです。これが有事になると、全力で王宮を守るために動員されます。この辺はオルド編でちょっとやる予定です。セラスの兄さん2人はオルドの上級騎士でしたので。
「ティロはきっと死なずに済んだんだ」
→非常にややこしい話なのですが、便宜上彼は「ティロ」と呼称されていますが本人は自分がティロだなんてちっとも思っていなくて、あくまでも「ティロ」はあの日死んだはずの見知らぬ少年です。ではジェイドはどうしたのかと言えば彼は姉と一緒に埋められています。じゃあ自分は何なんだ、というジレンマに絶えず晒されている状態です。面倒くさいですね!
《第3話》
「案外騎士一家の女って芯が強いというか、我が強いというか……男に負けず豪胆な感じの人が多いんだよな」
→これは彼の経験則なのですが、殊更にカラン家の女は強くないとやってられなかったと思います。そういうわけで彼の姉さんも結婚などしていればどうなっていたことかわかったもんじゃありません。
「それでも会いたい。やっぱり、今の俺にも彼女は必要なんだ」
→これは明確に恋愛感情ではなく、どっちかというと母性とか安心毛布のようなものに近い「会いたい」です。普通に気持ち悪いのですが、姉一筋に始まった気持ち悪いこじらせをしているティロなのでまだ軽い方です。
「シャイア・ミグア」
→事件編では反乱のリーダーのようなポジションにいた人です。フォンティーアと同様彼にもある程度の個人的事情がありますが、彼の事情はかなり特殊です。それも今度の反乱が無事終わったら明らかになる予定です。
「俺のことをしっかり覚えている、ということはないとおもうけど……」
→シャイアがカラン家のご子息様のジェイドのことを覚えているかどうかに関しては、実は事件編で少し触れられています。探してみてください。
「クライオに反リィア組織が? 何でまた?」
→これ本当に現地の人が聞いたら「は?」ってくらい訳がわからないことです。そもそもクライオ自体が他国のいざこざに巻き込まれたくないというスタンスなのと、革命思想自体が育ちにくい土壌なのでそういう組織が国内にないというのがひとつです。そういう背景もあって、あの坊ちゃんはあそこに隠されていたわけです。
「革命思想の派閥は特務が把握している限りでも複雑に分かれていた」
→ここでいろいろ固有名詞出してみましたが、特に意味はありません。革命思想でひとつだけ覚えるならばシャスタが関わっている「聖獅子騎士団」だけです。ちなみに革命思想の団体の名前は読者が「ダサい」と思うようなネーミングにしていますが、現地でも「ダサい」と思われていると思います。
「ライラは何故革命思想と反リィアの違いがわからない?」
→事件編ではスルーしていましたが、ここまで読んでくればわかるとおり、何故彼女はこの世界では常識と思われる革命思想や反リィアというものに対しての知識がないのでしょうか? これはこの作品全体に関わる大きな問題のひとつに関わってきます。
「いや、何かで言ったのかもしれないけどさ、俺は覚えてないぞ!」
→ここは言った言わないの世界なので作者もよくわからないのですが、ティロがライラから金を受け取っていたのは事実なので返した方がよさそうですね。
「利き手について特に気にしたことは言われなかった」
→案外他人の利き手なんて気にしないものです。ゼノスも左で持っていたから「あれ、左だったかなあ、右で持っていたような気もするけどなあ、まあいいか」くらいの感覚です。
「これが老化って奴なのか?」
→このときティロは21歳です。疲れやすいのは老化ではなく、慢性的な睡眠不足と鬱状態のせいです。
《第4話》
「新年は半島の平野部ではこれから春になっていく季節」
→新年の祝いは、時期的に立春あたりを想定しています。そういうわけで、まだまだ寒い日が多いです。
「リストロが優しくすればするほど、ティロはその優しさが怖くて仕方がなかった」
→この辺の心理はなかなか理解しにくいと思われますが、様々なことをなくして裏切られ続けたティロは容易に他人の好意を受け入れることができなくなっています。
「御覧試合」
→探求編でちらりと出てきましたが、王家の面々の前で行われる新年の恒例行事だそうです。基本的に親衛隊の方々に加え、上級騎士の上澄みを集めて行われるのでかなり高度な試合です。それでも勝敗を付けるわけではなく、巧みな技術を見ることが目的なので和気藹々と開催されます。
「あの人のメンツもあるんだろうな」
→もしティロが結果を残せない場合、ゼノスの目は節穴だったということになるのも理解しています。その辺を心配するあたり、彼は本質的に真面目な良い子なんです。
「そのまま左腕を抱えて泣き続けた」
→事件編で「試合にあっさり負けて、ふらりとどこかへ行った」の答えがこれです。ゼノスを初め外野からは「どこかに行った」としか見えなかったのですが、彼には深刻な事情がありました。
「単なる勝ち負けが優劣に結びつかなくなっていた」
→どこの世界でもそうですが、最終的に実力主義を謳っていても金とコネが最後に勝ちます。リィア軍もそういう傾向になっているということです。
「剣はいつかは時代遅れになるかもしれない」
→この世界で銃の開発が遅れているのはみんなが剣のほうがカッコイイと思っているからで、銃の利便性がわかれば開発も進み爆発的に普及することになるでしょう。しかし、ここまで愛されているので剣技が消えることもないと思われます。
「もしや、他の連中と自分は違うと自惚れているわけではないだろうな?」
→たとえ表面上では隠し通していても、ティロのアイデンティティであるカラン家の血筋であるという自負はなかなか消せるものではありませんでした。キアン姓であるという上級騎士では特殊な生い立ちで、このような変なプライドが見え隠れしたら叱られても仕方ないかもしれません。
「こういうのは技術で黙らせるに限る」
→基本的にティロは剣技に関してはかなりストイックです。エディアにいた頃はもちろん、予備隊にいたときも高水準の環境にいたためにティロの「普通」はかなりレベルの高いものになっています。ティロ自身はナチュラルに大谷翔平レベルの能力があって、周囲はイチローくらい努力できるのが当たり前だと思っていたので一般兵時代に齟齬が発生していました。
「そういう意味で僕は他のキアン姓とは違うんだ」
→わりとこの「実はキアン姓ではない」というのはティロがいろいろ拗れていることに繋がっていて、もちろん彼には立派な家があったのですが、それをなかったものとしているためにどうしようもなくアイデンティティの崩壊に繋がっています。
「もし災禍がなかったら、俺も立派な上級騎士様になっていたのかな」
→この辺の自意識過剰なところは読んでいてクソ面倒くさいと思うのですが、作者も「こいつ面倒くせえな」とか思っているので安心してください。こんな奴だからいろいろ面倒なことになっています。
《第5話》
「思う存分自分の境遇について自分自身と語ること」
→そろそろ読者も自分会議に慣れてきたと思うのですが、普通に著しく精神を病んでいます。この「友達」の存在もティロにとっては他人に言えない大事な秘密です。
「俺は常に前向きだから」
→本人の主観です。彼はこれでかなり前向きなつもりです。
「あれこれ妄想している」
→ちなみに彼はいつも「隙あらば死んだ姉と致したい」と思っています。この作品はR15なのでこの辺の描写に止めていますが、相当拗らせた気持ち悪い妄想に浸っています。その辺りは剣都編などから何となく察してください。
「王家をお守りするんですものね」
→ここは珍しくゼノス視点であるため、ティロの含みを持った言葉の真意は書かれていないのですが今までぐちゃぐちゃ自分会議を開いてきたティロの内心を読んできた方なら、これが何を意味するのかは大体想像がつくと思います。
「ゼノスは現在のリィアの情勢を良く思っていなかった」
→ここでリィアの情勢についての解説が欲しかったために、ゼノス視点だったわけです。この交代劇についても後々関係者からは話が聞ける予定です。関係者、はて?
「それからしばらく、ティロは自殺の方法についてぼんやり考えていた」
→自殺する方法を考えている間はまだ大丈夫です。その後死なない理由を考えているので。この後ヤバくなったときはそれもなくなるので、怖いことです。
「なんだ、ジェイドらしくない。弱気になっちゃって」
→そろそろ忘れられそうな設定なのですが、彼の作り出した「友達1」はアルセイドがモデルです。埋められた例の件のトラウマが激しいためあまり出てきませんが、自分の選択でアルセイドを助けられなかったことを彼は相当悔いています。姉も含めて自分ひとりが助かったという罪悪感が根本的に彼の中にあり、後の「どう足掻いたって俺が幸せになれるわけないじゃないか」に繋がってきます。
「僕は十分本気ですよ」
→作者は正直、このシーンを書くのが本作で今のところ一番キツかったです。読み返してもかなりキツいです。事件編もこのシーンを書いてる時がキツかったのですが、全容編ではもっとキツかったです。
「お前、俺と一緒に来ないか?」
→事件編では、この時ゼノスがティロを養子にする予定だったという話が出ています。予備隊でもティロの無自覚人たらしでシャスタという最大の被害者を出しているのですが、そんなティロと多く剣を交えたゼノスはこうなってしまいました。何故彼がそこまで執着されるかというと、それは「そういうところ」に集約されます。本当はいい奴なんです、彼は。
「もしその「いつか」が訪れるなら、心の底からゼノスと手合わせがしたいと思った」
→事件編ではその「いつか」は訪れませんでしたが、全容編以降は事件編では達成できなかったことを全部やっていく予定です。つまり、この「いつか」もそのうち訪れる予定です。楽しみにしてくれると嬉しいです。
「やはり、予備隊に入る前に剣技をどこかで習っていなかったか?」
→ここは事件編を読んでいる前提の、全容編オリジナル展開です。トリアス山でゾステロに名乗ったティロと同じです。
「除隊理由は一貫して「一身上の都合」であると発表された」
→一応の除隊理由は事件編に書いてあります。簡単に言えば査察旅行で怪しい動きをしたとクラドに嫌疑を吹っかけられた末の辞職願ということになっています。反乱編でラディオが怪しんでいたように、このゼノスの失職には裏がありまくります。そこを明らかにするとなると、ザミテスとクラドの両名は一体どういう関係なのかという話になってきます。それはこれからティロ視点でどんどん暴かれていく予定です。ちなみに2人はデキているわけではないので安心してください。
「解放戦線の人たちに隊長の保護をお願いしてもらいたい」
→随分ライラが来るのがタイミング良すぎるのでは? と思うのですが、実はこの河原に来る人物は基本的にタイミングが良すぎます。まず自殺未遂のティロを発見したシャスタ、このシーンのライラ、そして2度目の本気の自殺未遂のティロを発見したライラ。これだけは都合が良すぎる、で許してください。他設定しっかり作ってあるんで……。
《第6話》
「上級騎士内で一番剣技に長けている君」
→これは一応誰もが認める事実なのですが、何故か本番に弱いことや周囲とうまく関われないことが原因でティロは上級騎士三等のままの扱いでした。それは周囲も本人も誰もが了解していることです。そしてこの「ザミテスの家にティロを招く」というのも、周囲から見たときに一見「ティロのコミュ障を何とかしようとしているのだな」としか見えないのもキツい話であります。ティロに逃げ場はありません。
「猫2」
→全容編オリジナルキャラその2です。渾身のしょうもない名前シリーズ第4弾。そして今回は誰も突っ込んでくれる人がいないのでめでたく(?)採用されてしまいました。事件編で一切登場しなかったのですが、「どこで何をしているのか」というと、ひとりでザミテスの家に行っている期間ティロはずっと河原で子猫と戯れていたというのが正解になります。元々は路地裏の野良猫に餌付けをするというシーンから始まって、こういうキャラになりました。もしこの作品に何かの間違いがあってメディア化されるようなことがあったら、マスコットキャラは「犬1犬2」かこの「猫2」です。
「俺たちいい友達になれそうだな」
→剣都編の最後にある通り、ティロの物語は一貫して「友達の話」です。頭の中の「友達」を除くと、災禍で失った親友アルセイドに始まり予備隊で親交を深めたシャスタ、そして現在話し相手レベルのライラとこの猫2。リストロについては、今のところティロとしてはあまり友達になりたくなさそうです。
「トライト家」
→トライト家についてのティロの見解は、恨みよりも僻みのほうが大きくなっています。しかも一応ティロの方がエディアで何事においても格上の生活をしていたため、ムカつくことは避けられません。
「ノチアの不自然な技量」
→一応ティロはエディアの公開稽古で様々な技量の子供たち相手に「実演」を行っていた過去があるため、こういった鑑定もできます。ついでにいうと批評眼については祖父譲りのところもあります。
「強固に顔面に張り付けた笑顔で溢れ出しそうな黒い感情を必死で抑えた」
→事件編と合わせて読むと、ザミテスがこのティロに対してどう思っているのかが書いてあります。まさか本気で殺意を抱いていたとは思っていないでしょう。
「正しく持てば、強くなりますか?」
→ノチアじゃないのですが、○○がうまくなりたいです、という人に「じゃあ基礎をやりましょう」と言った後返ってくることが多い言葉だと思います。こういうときはガタガタ抜かさず基礎をやったほうがいいと思います。
「今は19歳ってところか、若いな」
→ティロはこのとき22歳です。大して変わりないじゃないか、と思うのですが20代前半なんてそんなもんだと思います。ちなみにティロは夏生まれで、このトライト家の話は春頃なのですぐに23歳になります。大して変わりませんがね。
「姉とどうにかなった世界」
→全編R18のろくでもない世界です。死神編で少し出てきましたが、不安になって一緒に抱き合って寝る逃避行編に始まり、分岐ルートとして生活のために結婚した姉へのBSS(僕が先に好きだったのに)ルートや真面目に姉とどうにかなってどうにかして子供が出来てそれでというルート、どちらにしても客観的に見れば最悪な世界です。かなり拗らせています。
「一刻も早く腹を満たすために急いで食べる方法」
→日本風に言えば、味噌汁をご飯にかけて食べるみたいなものだと思います。この「みっともない食事」に関しては後々また別のところで問題になってきます。
「年上、ですかね……」
→姉を拗らせているティロの最大限の譲歩です。ちなみに書き切れなかったのですが、予備隊で猥談になったときに彼はひたすら「俺は年上が好き」と言い張るというエピソードがありました。年上とは。
「帰る? 俺はどこに帰ればいいんだ?」
→ティロはずっとトライト家から帰りたいと願っているのですが、彼に帰る場所などありません。このアンヴィバレントな感情が彼をより苦しめます。
《第7話》
「作り笑顔が以前より上手になった」
→事件編で「人当たりがよくなった」というところの、ティロの状況です。前面に出していた卑屈さが消えた分とっつきやすくなった、という感じです。
「粉状の痛み止め」
→経口摂取でも効果はありますが、注射より劇的に効くわけではない感じです。咳止めのODくらいの感じだと思われます。酒や煙草は頻繁に使うと匂いがキツいので、ティロは痛み止めの使用に落ち着いた感じです。
「ティロがどこへ行くか調べておくように」
→なんでザミテスがこんな指示をしたのかというのは、上司は部下の居所を知る必要があるという前提を超えたところに理由があります。ザミテスが本当のところティロをどう思っていたのか、というのは後で本人の口から聞いた方がよさそうです。
「何で俺がお前らごときに頭を下げなきゃいけないんだ!?」
→これだけ聞くとものすごく不遜ですが、本来であれば文句なしに誰からも頭を下げられるような身分であるところを隠しているためにこういった不満は出ても多少は致し方ないと思います。
「どこか人のいないところ」
→事件編ではそのまま姿を消した、となっていましたが彼は屋敷内に留まっていました。しかも誰も来ない植え込みの下で倒れているいう酷い有様です。何故見つからなかったのか、というのも予備隊出身で特殊な訓練を受けたティロが必死に隠れていたからです。
「ティロは門を飛び越え、寝静まった通りを河原目掛けて歩き始めた」
→門と言っても、お金持ちの屋敷の門なので数mくらい高さがあります。しかし、予備隊で育ったティロならこのくらい平気でよじ登れます。大抵のことは「予備隊でやった」になります。予備隊は便利だ。
「あーあ、どうしよう、本当にどうしよう、どうしたらいいんだろう……」
→剣都編で姉の墓の前で呟いたのと同じ台詞です。ティロは時間の経過で身体こそ成長して知識も増えましたが、根本的に心の中は未だに8歳のままで止まっています。時折見せる大人げない態度は、彼の精一杯の悲鳴でもあります。
「睡眠薬を口に入れると、酒で一気に喉の奥に流し込む」
→大変危険な行為なのですが、ティロにとっては多量の薬物を摂取するという自傷行為でもあります。これで別に死んでもいいと思っているので、こういうことが平気で出来ます。
《第8話》
「一体あいつは何を見ているんだ?」
→ザミテスが一体何を見ているのか、というのは結構大事なポイントです。ティロは等身大の自分の息子よりも世間体を見ていると踏んでいますが、果たして実際のところはどうなんでしょう。それもしかるべきタイミングで本人から問い糾す必要がありそうです。
「ティロは手にしている模擬刀でそのままノチアを撲殺してやろうかと思った」
→ティロくらいになると、丈夫な棒が一本あれば十分人を殺せる技量があります。一応素手でも相手によっては殺すことができます。ノチアなら……いけますね。
「あんた、よかったら俺を殺してくれよ」
→ノチアは本気で殺してくれなんて思っていなくて単に愚痴っただけなのですが、ティロからすればマジで殺してやるよという挑発です。この言葉がなかったら、後にノチアは殺されなかったかもしれません。
「キアン姓のくせに」
→ニュアンスとしては「捨て子のくせに」であり、現段階でこれはティロに対する最大の侮蔑です。ノチアはティロに甘えているので平気でこういうことを言うのですが、相手がティロでない場合その場で殴られても文句が言えないくらい酷い発言です。相手がシャスタの場合、腕を捻られる奴です。
「一瞬ティロも目を奪われるような美しい顔立ちをしている」
→リニア・トライトが全容編で初登場です。彼女は美しい顔立ちこそしていますが、その中身は相当ひん曲がっています。彼女がどうなるかは事件編で明らかになっているので、この後お楽しみください。
「参考までに孤児院について詳しそうな方にいろいろお話を聞いて回ってます」
→リニアの婦人会での活動については後々語られてきますが、現時点で最高にティロを煽った発言ではあります。相手がシャスタの場合、女性にどう出るかは不明ですが男性の場合速攻で本気の腹パンがくる奴です。
「ティロは何故レリミアが自分に纏わり付くのか理解できなかった」
→そのうちレリミア側の心情も明らかになるのですが、一応この作品に相応しい心情となっています。彼女の行く末については事件編と大きく変更がありますので、じっくりお楽しみ頂けたらと思います。
「相手のことを一生懸命考えろ」
→この台詞は剣都編の一番最初で出てくるように、ティロの大事な部分にいつもある教えなのですがザミテスに同じことを言われるとムカつく以外の何者でもありません。ただこれは誰が言っても意味が同じになる普通の正論なので、まだティロはギリギリ耐えることができました。
「自慢の息子」
→ここまで何とか耐えてきたティロの心を打ち砕いた言葉。ティロの聞いた父の最期の
言葉は「お前らは俺とアリアの自慢の子供たちだ」で、今までも父のことは心の底から敬愛していました。それも全てぶち壊されたことで、ティロの心は完全に打ちのめされました。
「予備隊にいた時のことが役に立つなんてな」
→リストロに尾行されたときのことを単に書くのを忘れていたので、ここで慌てて回収した感じです。すみません。ちなみに予備隊で学んだことはかなり彼の人生で役に立っています。山登りとか、壁登りとか、あといろいろです。
「裏通り」
→要はいかがわしいものを取り扱っている地帯の通称です。薬に密売品、女に男と何でも売ってます。ティロは本質的には良い子なのですが基本的に悪い奴なのでこういうところにスっと入っていけます。本来は取り締まる側なのですが……。
「薬屋と値段を交渉する技術と知識」
→本来は特務予備隊編で少しやる予定だったのですが、暗すぎる一般兵時代をあんまり長引かせても悪かろうと急いで先へ進めたので、ここで初登場です。これは事件編でも明らかな通り、この先その手腕が遺憾なく発揮されていくことになります。
「いや、それと、針」
→トリアス山でも登場した注射器。経口摂取よりかなり薬の効果が高くなるけど、お値段も高くなる。これにハマるとろくでもないことになるのはティロも重々承知しています。それでもいいと思えるくらい、ティロの精神は例の発言でぶっ壊れています。
「この注射器を使った痛み止めをエディアで受けて以来」
→ティロのおくすり初体験はエディアの診療所であったため、本人の意志とは関係なく注射されました。ちなみにティロに注射を施した看護婦は、ティロが長くないと思ったため苦痛を早く和らげようと結構強めに薬を入れました。この強烈な体験がこれから深刻化するヤク中生活に繋がってしまうのです。
《第9話》
「さっきからずっと変な方を見て涙を流していた」
→事件編でもさらっと取り上げられましたが、相当終わっている精神状態です。周囲では「あいつ大丈夫か」「いやダメだろう」「もう少し様子見るか」などヒソヒソされていました。この明らかなティロの離脱状態は数週間経たずに収まったため、周囲はほっとしたとかしないとか。
「あまりにもあり得ない失敗」
→真剣をしまい忘れたとのことですが、ぶっちゃけ周囲が怒るより前に「お前大丈夫か」と聞きたくなるレベルのミスと言って思いついたのがそれなのですが、警官が拳銃をその辺に忘れてきたみたいな奴なのでもうヤバいですね。そして何気に全容編でラディオ筆頭補佐が初登場です。
「猫2……」
→申し訳ないのですが、こいつはキャラ設定時からこうなる運命でした。ちなみに当初の退場理由はもっと酷いものだったのですが、流石に酷すぎるということでこういう形になっています。これよりも酷い理由、もし完全版が書けたらやってみたいです。
「姉には本当に申し訳ないことをしたと思っていた」
→この話の根幹に「ティロは姉に対して多大な罪悪感を抱いている」というのがあります。この罪悪感が彼の全てをここまでねじ曲げているのですが、一体それが何を意味するのかというのは今後ザミテスを始末していく過程で書かれる予定です。
「明るい未来」
→ちっとも明るくないのですが、これは「残月」との兼ね合いです。そしてティロは度々「未来は明るいぞ」ということを言ってきています。この時点で彼の明るい未来とは今生との別れなのでこれ以上悪くなりようがない、という意味で明るいのだと思われます。
「俺はちゃんとしてちゃいけないから」
→姉に対しての罪悪感に加えて、ここに至る過程でいろんなものに何度も裏切られてきたティロの辿り着いた諦めの境地です。この辺の再放送が有明編のラストになります。
「兄のように慕っていた従兄弟」
→ミルザムのことを忘れられないのは家族であったからという他に、カラン家の人間で姉を除いて最後に会った人物だったからかもしれません。
「ライラは以前のように河原に現れることが減っていた」
→ライラはこのときティロを放っておいて一体何をしていたのか、というのは後で大事になってくるので各自考えておいてください。
「自分に優しい姉がいたことだけは誰かに聞いてほしかった」
→このとき、もしライラがここに現れなければティロは「残月」のようになっていたはずです。ここで姉の話を始めたのは「どうせ死ぬから」というより、とにかく寂しくて構ってほしかったのですが希死念慮が激しすぎたためにこんな話題しか思いつかなかった、というのが実際のところです。
「そこから先の記憶は曖昧だった」
→多分ここまで読んできた方なら「こいつ生き埋めの話ばっかり思い出すけど、その前段階の殺されかけた話は全然出てこないじゃないか」って思っていると思います。実際剣都編でもこの事件については詳細が一切わからないことになっています。なんでこんなことになっているかと言えば、もちろん常軌を逸した事態が起こったからです。それこそティロの記憶が曖昧になるレベルの、ろくでもないことがありました。そういうわけで、この復讐劇は別にティロの過剰な逆恨みというわけでもないということを念頭に置いて頂けると嬉しいです。
「そこから先のことは話す気にもなれなかった」
→姉を掘り出した件に始まり、ビスキワープ含めて事件編で問題になった「空白の1年間」についてです。亡霊編の冒頭ではティロの左腕はすっかり治っているので、剣都編の最後からその間のエピソードがあるはずなのですが彼の中ではごっそりなかったことになっています。いろんなことが落ち着かないと、真相は明らかになりません。ちなみに、このワープの謎に関しては現時点でも作中にちりばめられた情報から推測することも可能です。ヒントは「どうして他の領地ではなくビスキだったのか」ですね……。
「彼らを巻き込んでザミテスに更なる絶望を与えなければならないという使命感」
→トライト家を全員巻き込んだ理由のひとつがここで明かされます。要はそれだけザミテスにムカついていた、ということなのですが他にも深い深い事情があります。それが明らかになるのは復讐が果たされたときです。
「どうせ死ぬなら、この子の気持ちを無駄にしたくない」
→実は復讐自体はしっかりライラが後押ししていたのですね。この彼女の行為が何を意味するのかというのは察しのいい人ならわかると思うのですが、それが大問題になるのはずっと先の話です。
「そんな状況でも、頑張って生きてきたじゃない。君は十分強いよ」
→執行編にてレリミアに「あなたは強いのに」と言われるのですが、ここまで読んできた通りティロは社会的に非常に立場が弱く、肉体的にも恐怖症やトラウマなどでかなり制限されていることがあります。それを乗り越えたから強いというライラと、ティロの肉体的強さしか言及していないレリミアとの対比でもあります。
〇余談
これは余談なのですが、全容編のひとつのテーマは「何故ティロは一家4人をあのような回りくどい方法で始末したのか」の解になってきます。
「何故リニアを薬漬けにしたのか」
「何故ザミテス以外の家族も殺す必要があるのか」
「何故レリミアを誘拐する必要があったのか」
「ノチアはいつ、どうやって殺されたのか」
「何故事件編ではティロの望む復讐が果たせなかったのか」
この辺の謎がこれから具体的に語られてきます。事件編と照らし合わせると、ものすごく不自然な描写や辻褄の合わない言動などがあるかもしれません。そこに真実が隠されているはずです、多分。
一応、全てのことには理由がちゃんとあってトライト家関連に関しては全容編では決着をつけます。ヒントは災禍の日の夜に具体的に何があったのかということと、事件編と同じく「言わないのではなく言えなかった」ことはないかというところです。あの表現は別に自主規制じゃありません。
そういうわけで、ここからは特に事件編も合わせて読んでほしいところです。