ミレナ、ひとりでパン焼いてみた!〜ドジと涙とちょっぴり成長の朝〜
「今日は私がパンを焼く!」
パン屋ユウトの厨房で、元気よく宣言したのは、ミレナだった。
「え?」
ユウトがまるで呆けたように立ち尽くす。
「うん! 今日、ユウトさんが急に用事があるんでしょ? それで、私が頑張ってみようかなって!」
「いや、でも、パン焼くのは君はまだ……」
「大丈夫だよ! 私だって、もう少しで成長するから!」
ミレナは思い切り胸を張ってそう言うと、エプロンを結び直し、やる気満々の顔で生地をこね始めた。
「……あの、どこまで本気で言ってるんだ?」
「もちろん本気! でも、ちょっと不安もあるけど、でも頑張る!」
ユウトは渋々とした表情を浮かべながらも、結局ミレナの挑戦を見守ることに決めた。
「分かったよ。でも、失敗しても焦らないでな?」
「うん! 失敗しても大丈夫! だって、私は成長するんだから!」
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——そして、パンの準備が始まった。
ミレナは、まずは基本的な材料をそろえ、こねる作業に挑戦する。
だが、すぐに様子がおかしくなった。
「……あれ? これ、なんか固くない?」
強力粉が多すぎたのか、生地がなかなかまとまらない。ミレナは苦戦しながらも、必死にこね続ける。
「うーん、あれ? なんか、ボールの中でパサパサしてる気がする……」
生地をこねる力が足りないのか、ちっとも伸びず、硬いままである。ミレナは汗をかきながら、なんとか頑張っていた。
「だ、大丈夫! 絶対に、うまくやってみせるんだから!」
だが、次にミレナがしでかしたのは、より大きなミスだった。
「……あれ? 塩、入れたっけ?」
「……え?」
「だって、パンって、塩も入ってるよね?」
慌てて棚を開けるミレナ。だが、塩の位置が見つからない。手探りで探し回っていると、棚の奥に隠れていた塩の袋が落ち、床に散らばった。
「うわっ、塩がこぼれた!? どうしよう、どうしよう!」
「ミレナ、焦らないで!」
ユウトが声をかけるが、ミレナはうろたえていた。
「どうしよう! これ、どうしたらいいの!?」
その時、隣から、セレスティアが静かに言った。
「ミレナさん、冷静に……お塩は、ちゃんと計って使わないと、パンの味が大きく変わるんですよ」
「うぅ……そうだよね、セレスティアさん。でも、うまくいかないよ……!」
「大丈夫、少しずつ進めば良いのです。失敗しても、それは成長の一部です」
セレスティアの言葉に少し落ち着きを取り戻したミレナは、再び塩を取り、慎重に生地をこね続けた。
「……よし、今度こそ、うまくいくはず!」
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その後、ミレナは再び生地の発酵を試み、オーブンの温度を確認する。
だが、今度は焼き時間を間違えて、パンが少し焦げてしまった。
「うわっ、焦げた!? あぁ〜〜!」
「ミレナ、まだまだだな」
ユウトがクスっと笑ってみせる。だが、ミレナは焦った顔で言った。
「だって、どこで失敗したか分からなかったから!」
その言葉を聞いたユウトは少し黙り込んでから、優しく言った。
「大丈夫だよ。失敗も、成長するための一歩だからね。君が一人で頑張ってる姿を見て、僕も嬉しいよ」
「でも……でも、こんなにうまくいかないなんて……」
「ミレナ、パンは毎回完璧に焼けるわけじゃない。でも、その失敗を繰り返しながら学んでいくんだよ。それが、パン屋として大事なことだよ」
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その日の午後、ついにミレナは焼きあがったパンを並べることに成功した。
「……うん! できた!」
パンがこんがりと焼け、ほんのり甘い香りが広がる。
「見て! 焼けたよ、ユウトさん! 私、ちゃんと焼けたよ!」
ユウトがパンを手に取って一口食べてみる。
「……美味しい!」
「え!? 本当に?」
「うん、焼き加減もちょうどいいし、味もちゃんとあるよ」
「よかった……! ありがとう!」
ミレナの目が潤んだ。
「頑張ってよかった……!」
「その通り! 君が一歩踏み出して、挑戦してくれたからこそ、成長できたんだ」
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その夜。
ミレナは厨房の片付けをしながら、ふとつぶやいた。
「今日は本当に大変だった。でも、ちゃんとできたから、すごく嬉しい」
その言葉に、セレスティアが微笑んで言った。
「ミレナさん、成長しましたね。私も嬉しいです」
「うん! これからもっと、頑張る!」
パン屋ユウトに、穏やかな夕暮れが差し込む中、ミレナは新たな一歩を踏み出したのだった。