池畔での物語
世間を知らない魚が、仲間とともに移動する鳥と出会う。本来なら捕食者と獲物という関係のはずが、似たような経験を持つことで、特別な友情が芽生えていく。
最初に出会ったとき、君はとても醜かった。まるで水底の朽ちた木のようだった。
君には、この意味が分かるかい?私は何度も見てきたんだ、理由も分からず水に沈んだ太い枝を。水面を揺らす陽の光に照らされて、深く、怨めしげな木目を浮かび上がらせる。そう、君はまさにそんな姿だった。ただ、水に浸かっていなかっただけで。
あの時の私は本当に無鉄砲だったと思わないか?私は池の中、君は池の外。初めて蓮の葉の庇護を離れ、誰が葉のそばに立っているのか確かめようとした。もしかしたら、生きることに飽きてしまっていたのかもしれない。水面から顔を出し、君を見てこう言った。 「何だ、この変な鳥は。雨が降ってるのに木の上じゃなくて、こんなところに隠れてるのか?」
君はすぐに返事した。「じゃあ、何だ、この変な魚は。話し相手に同族じゃなくて水鳥を選ぶなんて。」
あの日も雨だった。覚えてるかい?私はずっと濁った池の中で、寄る辺もなく生きてきた。でも、どれだけ孤独でも、まさか鳥に話しかけるなんて思いもしなかった。なのに、君という変わり者に出会ってしまった。魚を一匹も食べたことがない、そんな鳥に。雨が上がった後、君はこの蓮の葉を覚えたらしく、よく飛んでくるようになった。君は空の話をし、私は池を語った。どちらの話も、結局は同じ孤独へと繋がっていたけれど。
私は言った。「卵から孵ったときから、この蓮の葉の下で生きている。同類の姿を見たことがない。」
君は言った。「卵から孵ったときから、仲間たちと一緒に縛られていた。みんな獰猛で、狩りの名のもとに魚の腹を突き刺すたび、残酷な笑みを浮かべていた。それが怖くてたまらなかった。」
長いこと話したな。まさかこんなにも奇妙な縁があるとは思わなかった。君はこうも言った。「移動を強いられる鳥でいるより、池で自由に泳げる魚になりたい。泳ぎ方を教えてくれないか?」本当に、君は変わり者だった。
あるとき、私たちは池のほとりを歩く人間を観察していた。君が言った。「人間には奇妙な習性がある。仲間を失うと、目から水滴をこぼして悲しみを表す。それを『泣く』と言うらしい。」
私はそれを聞いて「そんな行為、馬鹿げている」と笑った。でも君は、特に気にしていない様子だった。
私は思っていた。畢生で何かを羨むことなんてない、と。でも、その夜、夢を見たんだ。君が水中に潜り、羽が煌めく鱗へと変わる夢を。弦月のように美しかった。
今日の雨は、君と出会った日のそれと同じくらい激しい。空を舞う君によく似た影をいくつも見て、私は慌てて蓮の葉の下に隠れた。すると、突如として周囲が揺れ始めた。
「お前たち……どうしてここへ連れてきた?」それは君の声だった。
「お前、毎日決まった時間にここで誰かと話しているらしいな。」誰の声だ?
「見間違いだろ。ただ水面に向かって独り言を言っていただけだ。」
「そんなはずがない。魚の頭が見えたぞ。さあ、食え。」
「……何だと?」
「食え。さもなくば、お前の翼を折る。好き嫌いがあるやつに、群れと共に移動する資格はない。」
もう、十分に生きたと思ったのかもしれない。私はゆっくりと蓮の葉の端から顔を出した。その瞬間、君は勢いよく跳び上がり、空へと舞い上がった。影が小さくなっていく。そして、君は急降下し、水面へと突っ込んだ。
ほんの一瞬、君は本当に魚になったのだと思った。濁った水の中は、君がずっと生息していた空だったのかもしれない。
しかし、すぐに君は苦しそうに身を捩らせた。口から泡を吐き続け、やがて何も出なくなった。私は呆然と君の瞳を見つめた。その心の内を、どうしても読み解きたかった。
他の鳥たちは、すでに飛び去っていた。君が朽ちた木になる前に、私はただ静かに君と泳ぎたい。もし、この池で他の魚に出会うことがあれば伝えよう。池底の枯れ木も、かつては変わり者の水鳥だったのだと。
私は君が水底に横たわるのを見つめた。朽ちた木々と共に、眠る君を。
かつて、君は泳ぎ方を知りたがっていた。
そして今、私は泣き方を知りたい。
もともとは、友人が「二千字小説」チャレンジを発案したことがきっかけで、この物語を書きました。本当に難しかったですよ!