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元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!  作者: 楠ノ木雫


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28/30

◇26

 暗闇の中、私は目が覚めた。


 頭がくらくらする。これ……床に転がされている? あと、目隠し、かな。だから暗かったんだ。


 それに、両手首も縛られているような気がする。


 一体何が起こったんだっけ。確か、馬車で王城に向かっていたはず。けれど、いきなり御者の悲鳴と、馬の鳴く声が聞こえてきた。そしてすぐに、馬車が大きく揺れて私は倒れこんだんだ。


 一体何が、と体を起こそうとして……何か布が口と鼻に当てられた。誰かいると気づいた時にはもう遅くて、気を失った。そしたらこれだ。


 ……マジか、襲撃? 私が狙われたって事? エヴァンは王城にいるわけだし。


 どうしよう、これ。どうにかしてこの縄をほどけないかな……


 視界が遮断されたことによって、耳がよく聞こえるようになったのか、小さな足音が聞こえてきた。その瞬間、身体がこわばる。


 どんどん、足音が大きくなってくる。ここに、近づいてきてる。


 きっと、その足音は私を連れてきたやつだろう。じゃあ、一体誰が? 私を捕まえてどうしようとしてるの?


 最悪、殺され……



「っ……」



 ダメダメダメダメ、そんな事考えちゃダメ!!


 今は、逃げる事を考えなきゃ。早く、何とかしないと。


 焦る心を落ち着かせていると、私がいるこの部屋のドアだろうか、開く音がした。その瞬間、ビクリと肩が上がる。



「あぁ、目が覚めたか。ご夫人さんよ」


「っ……」



 身体が震える。けど、落ち着け。大丈夫。パーティーが始まっても来ない私を、きっとエヴァンはすぐに気が付いてくれる。合流する約束をしたんだから。だから、きっと私を探しに来てくれるはず。


 大丈夫。きっと、きっと……――エヴァンが助けに来てくれるはずだから。


 いきなり、頭に何かが触れる。そして、目隠しが取られ眩しくなり目を細めた。



「へぇ、上玉だな」


「……」



 誰だ、こいつ。私より一回りくらい年上の男性だ。着ているものからして、貴族ではないけれど裕福な暮らしをしているように見える。


 転がされている私の上に覆いかぶさってきて、顎を掴んできた。汚い手で触るな。



「大公の嫁だって聞いたが、少し若いな。けど、小娘と遊ぶのも嫌いじゃない」



 あ、遊ぶ? 私と? いや、まさか、そういう事、じゃ、ないよね……?


 私をなめ回すかのようにじろじろと見てくる。首の下辺りで目が留まり、そういう事かと焦ってしまった。けれど……



「えいっ!!」


「うぐっっっ!?」



 思いっきり、男の股間を蹴ってやった。思った通り、男は股間を手で押さえもだえ苦しんでいる。今だ!! ときょろきょろ部屋を見てドアを見つけて走り部屋を出た。


 男が入ってきた場所を耳で確認しておいてよかった。あと、目隠しを取ってくれたことと、足を縛らないでおいてくれたことが災難だったわね。中々手首の縄が解けないけれど、立ち止まったら捕まっちゃう。


 早く逃げなきゃ!! そう思いつつ、ドアの先にあった廊下を右に進んだ。どっちか分からないけれど早くこの部屋から離れなきゃっ! いつあの男が動けるようになるか分からない。


 ここはどこかの屋敷みたいな所じゃないみたい。古っぽいけれど、ドアがいくつもある。ここは一階じゃなかったみたいで、下に続く階段を見つけた。急いで、静かに降りるけれど……人はいない、よかった。早く行かなきゃ!


 でも、どこが出口なのか分からない。どこだろうどこだろうと彷徨っていると、足音が聞こえてきた。アイツが私を探し出したようだ。


 やばいやばいと近くにあった、鍵のかかっていないドアを開け、何とか開けて中に入った。よかった、中に誰もいない。すぐに内鍵をかけた。


 ここには明かりがある。部屋の中をもう一度見てみると……ベッドと、ローテーブルと、ソファー。あとは、木の小箱? 南京錠がかかってる。きっと中に入ってるのは貴重なものね。


 けど、ローテーブルにあるこの紙。一体何だろう……!?


 あれ、なんか、私の名前、書いてありません……? これ、二枚重ねて留めてあるみたいだけど……なんだろう、これ……っ!?



「きゃぁ!?」


「見つけたぞっ!!」



 その紙に夢中になっていたからか、私は気が付くのが遅れてしまった。後ろから、あの男が迫ってきていた事を。髪を掴まれて頭皮が痛い。しかも、首には銀色に光る……ナイフ。これは、非常にマズい……



「ったく、あの小娘……ただの夫人じゃねぇじゃねぇか!」



 こ、小娘……?


 さっき、私の事を小娘って言ってたけど、この言い方だともう一人小娘がいるって事よね。じゃあその人は誰?


 私を誘拐したのがこいつだったとして、じゃあ、それをお願いした人がいるとしたら……



「普通なら震えあがって動けないはずなのに、油断したぜ」


「っ……」


「よくもやってくれたな。結構効いたぜ? だが二度目はない。まぁ、強気な女も俺は好みだ」



 やばい、やばい、少しでも動いたら、このナイフが……


 そう思うと、カタカタと身体が震えてくる。頭皮も痛い、死にたくない。けど、一番は……


 エヴァン……


 そう思うと、視界が歪んでくる。諦めるな、なんて言葉があるけれど、もう私じゃ、これ以上は……


 そう思っていた、次の瞬間。いきなり大きな音がした。



「ぇ……」


「なっ!? てめぇらっ!!」



 私が背を向けているドアの方から音がした。そして、私にナイフを向けている男の怒鳴り散らす声。あとは……



「テトラっ!!」



 私が、ずっと聞きたかった声。


 頭皮が痛くなくなり、足に力が入ってなくてぺたりと床に座り込んだ。あれ……男は? そう思ったら、床に何かを叩きつける音と……



「ぐぁぁっ!?」



 さっきの男の声がした。


 ふと首を抑えるけれど、痛くない、血も出てない。大丈夫、切られてない。その事に安心していると……暖かいものに包まれた。



「テトラっ!!」


「……え」



 私を抱きしめてきた、エヴァンだった。珍しく焦ったような声だ。



「ったく……冷や冷やさせんな」


「うぅ……」


「怪我はないか」



 そんな、優しいエヴァンの声に、自分が助かったことへの安堵感が生まれてきた。それと同時に、数日前からずっとあまり話してなかったから、久しぶりのエヴァンに安心した。


 ナイフで腕の縄を切ってくれて、ようやく手が自由になった。けれど、さっきまでの、あの恐ろしさを思い出すと、震えが止まらない。不意にエヴァンを強く抱きしめた。



「こ、こ、怖かったぁ……」


「そうか。ごめんな、早く見つけてやれなくて」


「エヴァンと、会えなく、なるのが……怖かった……」


「……そうか」


「ごめ、なさい……」


「別に謝らなくていい。テトラに手を出した犯人が悪いんだから」


「避けちゃって、ごめんなさい……」


「そっちか。別にいいって、俺が悪かったんだから。つい言っちゃったってだけ」


「……」



 そうじゃない……そうじゃないの……!



「エヴァン、大好き……」


「……はぁ、恐ろしいなウチの嫁さんは」



 私を離すと、不満げな顔をするエヴァンの顔が見えた。一体どこが不満なんだろうか。けれど、笑ってきて、そして、キスをしてきた。



「かーわい、テトラ」


「……」


「そんじゃ、さっさと帰、ろう……」



 私の後ろを見た、エヴァン。床に視線を送っていて、真顔になっていた。一体何が? と思い私もその視線の先を見てみると……


 いきなりエヴァンが立ち上がると、早足で犯人の男の元へ。そして……



「うっ、ぐぅっ、痛っ!!」


「てめぇ!! よくもっ!! やってくれたなっ!!」



 ガシガシと、足で何度も強く踏んづけていた。あぁ、これか。頭皮を掴まれて何本か抜けてしまった私の髪。はぁ、本当に私の髪好きね、エヴァン。



「万死に値する。おい、遠慮はいらないぞ。さっさと連れてけ」


「はっ!」



 あんれま、連れてかれちゃった。


 だいぶ怒ってるな、エヴァン。



「あ、ねぇ、さっきね、私の名前が書いてあった紙を見つけたの」


「名前?」



 これ! と指を差し、エヴァンに見せる。と……またまた怖い顔をしていた。



「あぁ、なるほどな……」


「え……」


「一緒に屋敷に行くつもりだったけど、一人で帰ってくれないか。用事が出来た」


「待て待て待て、まさか……」


「ぶっ飛ばしに行ってくる」


「待って!! じゃあ私も行くっ!!」


「アホか! さっきまでナイフ突きつけられてたやつが!!」


「やられたらやり返すのが普通でしょ!! 一発殴らせて!!」



 やられっぱなしは嫌よ。せめて犯人の顔くらい拝ませてよ。


 渋っていたエヴァンは、仕方ないなと了承してくれた。けど……



「……重くないですか」


「軽い」


「あ、はい、そうですか……」



 まさかまた抱っこされるとは思わなかった。しかもこの前のこと覚えてたし。レディに失礼って言ったやつ。


 そして二人で馬車に乗り込んだのだった。



「あっ、待って!!」


「どうした?」


「ヘアクリップ!!」



 そういえば、ここにきてからヘアクリップ付けてなかった!! ど、どうしよう、どこかに落としちゃったかな……!?



「お探し物はこれか?」


「あっ!?」



 まさにそのお探しのヘアクリップは、エヴァンの手にあった。え、どうして……?



「テトラが最初に乗ってた馬車に落ちてたんだ。ウチの馬車ではあるけれど、もしかして違う馬車に乗ってたんじゃ? って思ったけどこれがあって助かった」


「な、なるほど……」


「でも、だいぶ気に入ってくれたみたいだな?」


「……せっかく、エヴァンが作ってくれたんだから、もったいないじゃないですか」


「へ~、まっ、今はそういう事にしておくか」



 あっち向け、と指示され、私の髪にヘアクリップをつけてくれた。

 

 だって、これはエヴァンの初めてのプレゼントだもん。大切にするに決まってるじゃん。


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