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◇1

「ごはんだぁ~!」


「こらっ! レオ! 走らないのっ!」



 私は、ボロボロな屋敷の廊下を走っていく弟を追いかけた。まだ3歳ではあるけれど、本当に子供は元気いっぱいだ。


 お腹を空かせた私達を待っていたのは、古びたテーブルに並べられたお昼ご飯。


 皆が言う豪華、というわけではないけれど、うちにとっては一段と豪華な食事だ。



「あら? おにぎりがあるじゃない。ばあや、今日何かあったの?」


「はい。米がたくさん採れたらしく、お裾分けしてくださったんですよ。お嬢様達に食べてほしいって」


「そっか。じゃあ、後でお礼言わなきゃね」



 そして、畑仕事から帰ってきたお父様も交えて席に着き、いただきますと声をそろえた。


 汗水たらして働き食べる食事ほど最高に美味しいものはない。



「畑はどうだった?」


「そうだな……少しずつではあるが被害が大きくなっている。こう気候不順が続くと、卸す分も減ってしまうし、領民達に配る分もなくなってしまうな……」


「そっか……」


「早く対策を打たないといけないんだが……困ったな」



 我がレブロン子爵領は主に農作物の事業を進めている。けれど、天気が不順続きで中々上手くいっていない。


 これがこのまま続くと、領民達を空腹にさせてしまう。食事の他にも、生活するにあたって必要なものを買う生活費さえ手に入らない。



「それにしても、このおにぎりは本当に格別だな。知らなかったとはいえ、テトラに提案されるまで全て米を捨てていたのだから、何とももったいない事をしていたな」


「大げさだって」



 このレブロン子爵領では、飼料を作るための田んぼがある。といっても、米の部分はカットした状態で卸し、その部分は破棄していた。


 この世界(・・・・)ではこれが常識だとはいえ、こう食糧不足な時に米を無駄にするなんて事、この日本人(・・・)であった私が許せるはずがない。


 前世では一般家庭で育ち、大人になって……結婚なんてものもせずぽっくり逝ってしまい、気が付いたらこの世界で赤ちゃんになって生まれた。まさかの赤ちゃんプレイを強いられたわけだ。


 無駄にしていた米は、絶対に捨てるなと言い聞かせ、ご飯の炊き方も伝授している。だから皆美味しいご飯を炊けるから、食糧不足に少しは貢献している。一応。


 そんな時、うちの執事がお父様に声をかけてきた。



「旦那様、その……お客様が」


「……分かった、今行こう」



 二人はゆっくり食べていなさい、とお父様は席を立った。眉間にしわを寄せながら、じいやと一緒に食堂を出ていく姿から目が離せなかった。


 あの様子だと、客人の予測は出来る。いや、客だなんて呼びたくないくらいの人物だ。



「……レオはここにいて」



 隣に座っておにぎりを頬張っていたレオにそう伝え、ごちそうさまでしたと席を立った。



「お嬢様」



 食堂を出ようとしている私を止めたのは、ばあやだ。けれど、私は「美味しかったよ、ごちそうさま」と残して食堂を出た。


 ばあやが悲しそうな顔をしていたのは、見逃さなかった。


 今来ている奴は、何度も何度もこの屋敷に足を運んでくる者達。もちろん、私達の一番の悩みの種だ。


 きっと、お父様達は客間にいるはず。そう予測して足を進めた。けれど、後ろから声をかけられてしまった。



「ここにいたのか、テトラ」



 今一番聞きたくなかった声だ。せっかくご飯を食べていい気持ちだったのに、こいつと会うなんて最悪だ。


 後ろからその声がしたから、そのまま聞こえないふりで逃げてしまおうかと思ってしまった。だけど、足音がこっちに近づいてきて、肩を掴まれた。



「聞こえないふりか? 可愛いじゃないか」


「……」



 背筋がぞわぞわとしてしまった。マジでこいつは苦手で嫌いだ。


 彼はとある商会の商会長の一人息子だ。私より年上で、何度もこの屋敷に訪れてきては私に話しかけてきた。


 こいつがいる、という事はお父様の客はこいつの父親。【アブラム商会】というここら辺では大きな商会の商会長だ。


 きっと今日も、以前私達に提案してきたものの答えを聞きに来たんだと思う。



「結婚するんだから、もう少し俺の事を見てくれると嬉しいんだが」


「……」



 う……っぜぇ……なぁにが結婚だ。したくないわ。


 そもそも、まだその縁談話という気持ち悪い提案を飲んだわけじゃない。とはいえ、私達はこいつらに借金をしてしまったから断れずにいるのも事実だけど。


 うちは貧乏だし、領地で不作が続いている。だから、そこでこれを出されたらきっぱり断れるわけがない。


 けれど、それだけは絶対に嫌だ。だってこいつ、顔がいいから愛嬌を振りまいて女をはべらかしているんだから。私もそのうちの一人になれですって? ふざけんな。



「まぁ、俺としてはこれくらいつんつんしている女の方が好みだしな」



 いや知らんがな。気持ち悪いからやめてくれ。


 と思いつつ、カツカツと歩き出した。当然こいつも付いてくる。お父様は今応接室だろうからその部屋に向かおう。



「今、不作が続いてるんだって? 領民達の為にも、俺達の結婚は重要だと思うんだけど」


「……」


「俺と結婚すれば、貧乏な暮らしから解放されるんだぜ? 美味しいご飯、綺麗なドレスにアクセサリー、貴重な宝石だって買ってやる。どうだ?」


「……」



 確かに、結婚すればお金が手に入って領民達も助かるかもしれない。けれど、こいつらはただうちの爵位が欲しいだけだ。結婚はただの手段でしかない。


 こいつらは金持ちの家だ。でも、持っていないものが一つ。そう、それが爵位だ。


 彼らは私達が持つ爵位が欲しい。私達はお金が必要。まさに相性のいい関係だ。だけど、私達は知ってる。そのお金が汚いものだという事を。


 だから、何が何でも結婚は阻止しないといけない。この家は結構歴史のある由緒正しい貴族の家。……貧乏になってはいるけれど。


 そのため私達はこの家を守っていかないとご先祖様方に申し訳が立たない。だからこそ、そんな家にそんな汚いもんを入れてたまるか。内側に入られたら何をされるか分からない。だからそれだけは絶対にダメだ。


 応接室に着くと、中から声が聞こえてきた。



「その判断が何を意味するのか、身をもって実感するといい。後悔するのはそちらだ」



 そんな声が聞こえてきて。これはこいつの父親の声だろう。


 いきなりドアが開き、その商会長が出てきた。私を見つけては不気味な笑みを見せ、帰っていった。じゃあな、と一人息子も付いて行った。


 部屋の中にいたお父様は、ソファーに座って頭を抱えていた。一体何を言われたのだろうか。



「……あぁ、テトラか」


「何を言われたの」


「……いや、いつもと同じだ。縁談話を受けろ、と。断ったが……今回は、何か企んでいるように見えてな。今日の様子を見るに、どうしても爵位が欲しいようだ。だから、金を惜しまず使ってくるだろう」


「うん……」



 一体何を企んでいるのやら。でも、私達は何を対策すればいいのか分からない。お金がないから出来ることも限られてくる。



「……悪いな、テトラ」


「……」



 別に、お父様が悪いわけではない。悪いのは貪欲で悪徳なあいつらだ。


 けれど、そんな奴からお金を借りなければならなくなってしまった状況を作り出したのはこちらではあるし、私達が弱いから目を付けられた、というところもある。うちはそんなに強い家ではないし、力もない。


 一体、どうしたらいいのだろうか。


 何も出来ない自分が、とても悔しい。


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