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そうだ、推しのカレンダーを買いに行こう

作者: 吉見 依瑠

「なろうラジオ大賞6」参加作品のため1000字の超短編です。

 情緒のない電子音。眩しい画面に表示された時刻は7:00。大遅刻だ。

 今から予約で回しておいた洗濯物を干して、夫のご飯を準備したら、化粧する時間は何分残る?

 カレンダーを見ると今日は12月25日水曜日。ド平日のクリスマスだ。浮かれた街中をひどい格好で出勤する自分を想像してため息が漏れる。推しのアイドルが微笑むカレンダーも心なし憐れんでいるよう。そろそろ新しい年のものに変えないと。

 

「……推しのカレンダー?」


 それは数年前まで毎年買っていたもの。けど今は会社で余った見やすさ重視の二色刷カレンダーを使っていたはず。

 目線を下にずらせば、手入れの時間が惜しくてボブにした髪は胸元でくるんと跳ねているし、なにより隣で眠る夫の姿がない。


「どういうこと?」


 もう一度カレンダーをよく見れば、小さく書かれているのは2019年の文字。

 これはもしやタイムリープというものではなかろうか?


「やったー!」


 2019年ならまだ独身。自分のことだけなら7:00に起きたって全然余裕。これはサンタが人生やり直しのチャンスをくれたということ? 記憶を使ってチートで人生楽勝モードというやつかも。


 五年前の私は新卒で入った会社の四年目で営業の仕事に悩んでいた。OJTを任された新人はクソ生意気で、こんな会社すぐに辞めてやるって毎日思ってた。

 でも今の私なら大丈夫。苦しみながらも仕事を続けてきたおかげで営業のコツは習得済み。クソ生意気だった新人だって立派な右腕に成長するとわかっていれば可愛いものだ。


 余裕で仕事をこなした後は売れ残りケーキとワインで一人乾杯し、最高の贈り物をくれたサンタに感謝しながらほろ酔いで眠りについた。


 翌朝、いつもの電子音。眩しい画面に目をやると時刻は6:00。もうこんな時間に起きる必要はないのに。

 そう思いながらぐぐっと背伸びをすれば、隣から「……静かにしてよ」の掠れ声が。


「えっ……」


 甘い言葉に流され結婚した夫は、しばらくすると心の病と言って会社をやめた。追い詰めたら悪化すると思い、昼夜逆転生活も無断外泊も見知らぬホテルのレシートも見て見ぬふりをしてきた。

 あぁ、また自分を殺す日々の始まり。残酷な夢を見せたサンタが恨めしい。

 

 ……いや、違う。五年前はあんなに辛かったのに昨日は笑って過ごすことができた。だからきっと五年後だって。

 まずは自分を取り戻すことから始めよう。そのためには。


「そうだ、推しのカレンダーを買いに行こう」

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
1000文字以内の文章の中に急な時系列の転回が2回あってそれだけでも高い芸術性を感じました。 今の不幸な自分をなんとかしたい、会社での苦痛な毎日など、とにかく主人公から出る不幸オーラが強烈で良かった…
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