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結界魔法で異世界旅  作者: 白紙
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7.集落と貴族

 森の奥へと進む前に『結界魔法』を発動しておく。結界は離れていても大雑把な位置が分かるため、仮に森の中で居場所を見失うなってもこの結界が目印となって迷子にならずにすむ。

 準備が整ったので探索を開始する。木々のせいで死角が増えて危険なので、私を中心に『移動結界』を張る。この魔法は読んで字のごとく、私を原点として半径1mの円の結界を張り、私に合わせて結界も移動する便利な魔法である。これによって不意打ちを防げるのだ!しばらく進むと広場のようなひらけた場所にでた。そこで3匹のウルフを見つけた。

 ウルフ達はまだこちらには気づいていないのか、うろうろと周囲を闊歩している。このチャンスを逃すまいと3匹まとめて『真空結界』を張った。ウルフの毛皮もお金になるため、傷つけないで倒す方法としては残酷だけど……窒息死で倒させてもらう。突如酸素が消え失せウルフ達はもがき苦しみ、なすすべなく絶命した…。


「…っ」


 初めての殺害によって齎された吐き気をぐっと飲みこむ。……深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、水魔法で喉を潤した。ゲームだと罪悪感を覚えないから――現実(いま)を生きていると思い知らされる。


 複雑な気持ちに何とか整理をつけ、再び奥へと進むことを決心した。今度は2匹のゴブリンを見つけたが、驚くべき事に人間の女性も一緒にいた!…鎧をつけている女性は意識がないのか無抵抗で攫われている。このままだと巣に運ばれてひどい目に合う未来しか見えない……でも何で運んでいるんだ?考えられるとしたら…集落があるからとだと予想される。もしそうなら街道にも危険が広がる。見て見ぬふりなんて私にはできない。だからここで逃げるなんて選択肢は端から持ち合わせていない。『移動結界』に結界内の不可視と外に音が漏れないよう沈黙も重ねて貼りなおし、後をつける。


「…!?やっぱりあったか…」


 悪い予想は的中しゴブリンの集落へと到着してしまった。そこは粗末ながらも小屋が形作られ、多くのゴブリンが生息している。中には上位種と思われる個体も見受けられる。ウルフ同様に集落ごと窒息死させようかと考えたけど、捕らえられている人が他にもいるかもしれないからもう少し追跡を続け集落を探ってみる。


 ゴブリンに続いて小屋の中に入ると、運び入れた女性以外に三人もいた!ゴブリンは攫った女性を無造作に地面へ投げ捨てた。三人の女性はまだここに連れ去られたばかりなのか、衣服の乱れはほとんどなく寝かされている。一人はローブを着ているが、残りの二人を見て言葉を失う…。メイド服を着ている女性にも驚いたけど、問題は一目で華美な服と分かる物を着ている金髪の女性。もしかして何処かのお嬢様かお姫様?……一先ず救出を優先しよう。


「よっかた…。みんな息はある」


 ゴブリン達が外に出たのを見届け四人の安否を確認した。安全確保のため私と同じ結界で包みこむ。この場にいては危険なので脱出するために四人を起こす。


「うーん…」

「…」

「っお嬢様!!」

「……っ」


 それぞれ起きだしみんなに声をかける。


「私は冒険者のユイ。あなた達がゴブリンに捕まっているのを発見して助けにきた。ここから脱出を試みるけど、どこか体に異常や怪我はない?」

「……多少頭が痛いですが、移動する分には大丈夫です。助けていただきありがとうございます。私はマールと言います。こっちにいるアイリーンとパーティーを組んでゴブリン退治をしていたのですが、予想以上に数が多くこの有り様です……。」

「…怪我はない。…私はアイリーン。…助けてくれてありがとう」


 この二人は見た目通り冒険者だった。お互いに大した怪我もなくて良かった。何でも二人は青薔薇の月というパーティー名で活動をしていて、普段はゴブリン相手に遅れを取ることはないのだが、今回は運悪く上位種が乱入してきて今に至る。

 マールは剣を所持していれば女騎士を彷彿させる佇まいで、まさにゴブリンが好みそうな風貌かつ体型をしている。一方アイリーンも杖は持っていないが如何にも魔法使いといった服装をしている。人見知りなのかマールとは対照的に必要最低限の言葉しか話さない。


「お嬢様もご無事で良かったです…。立てますか?

 申し遅れましたが私はお嬢様の専属メイドを仰せつかっている、イースと申します。お嬢様共々救っていただき感謝いたします」

「ありがとうイース。…ユイさん(わたくし)はクリスタ・フォン・オーエントと申します。助けて頂き感謝したします」

「…大丈夫そうでしたら、早急にこんな場所から立ち去りましょう」


 …名字持ちってことはやっぱり貴族!?場違いなほど見事なカーテシーで自己紹介されたけど、初めての貴族にどう接したらいいのかな…。丁寧に話しかけ不況を買わないようにしよう…。冒険者二人は積極的に関わるつもりはないらしい。私を助けてほしい…。


「ユイさん、今は非常時ですので敬語は結構です」

「わかり…わかった。…では四人共私についてきて」


 事情は安全な場所に移動してから聞くことにして、今は脱出の事を考える。貴族にはあまりいい印象を抱いていないけど、クリスタ様は高慢には見えずメイドの事を思いやってるあたり、平民を見下す嫌な貴族ではないように感じる。

 武器などはゴブリンに没収されたらしいが、集落内で荷物を探すような真似は危険なので、冒険者には悪いが手ぶらで脱出してもらう。不可視の結界のおかげでゴブリンに気づかれる事なく集落の外へ出ることができた。


「一先ず集落から脱出できたけど、みんなはこのまま街に帰る事ってできないよね?」

「私達だけでは森で迷い最悪また連れ去られる可能性があるので、ユイさんには街に着くまで助けてほしい」


 マールさんの意見はごもっともである。私も見捨てるつもりはなく、あくまで確認したかっただけである。自分の居場所が分からなければ森から出ることは不可能に近い。このまま集落を放置するのは忍びないが四人の安全確保を優先する。私の表情から察したのか、集落についてはギルドに報告をすれば討伐隊が編成されるだろうとマールさんが教えてくれた。何でも集落の偵察で規模を把握して戦力を集めるが、ゴブリンが多いと冒険者に緊急依頼を出すこともあり得るらしい。つまり私達は一刻も早くこの事をギルドに報告するの事が求められる。


「ではこのまま街まで護衛します。クリスタ様達もそれでいい?」

「えぇ、かまいませんわ。私はあまり戦力になりませんのでユイさんに従います」

「お嬢様がよろしいのであれば、私に否は御座いません」

「それじゃあ私が魔法を使用するから近くに集まって」


 『転移結界』を使って直接街まで戻りたいけど、さすがに五人は不可能なので森の入口まで転移する。五人同時の転移は初めてだけど、左程距離が遠いわけではないのでたぶんできるはず…。


「もし魔力枯渇になったら二人に周囲の警戒を頼める?」

「お任せください!」

「…大丈夫」

「ではいきます。『転移結界』」


 視界が一瞬ぶれて代り映えのない木々の景色が映し出され、転移に失敗したかに思えた……。でも実際は森の入口まで戻ることができていて一安心した。安心したのも束の間、やはり五人の転移は無理が生じ地面に倒れ込むことになった…。魔力枯渇がひどく今にも意識が飛びそう……。


「ここは…。私達は先程まで森の中にいたはずですが…」

「だ、大丈夫ですかユイさん!?アイリーン魔力譲渡をしてあげて」

「…わかった」


 意識が途切れそうになった時、右手から暖かい魔力が注ぎこまれ徐々に気持ち悪さが消えていき、意識がはっきりしてきた。


「ありが…とう。アイリーンさん」

「…うん」


 アイリーンさんからの魔力譲渡によって何とか動けるまでに回復した。魔力譲渡は魔法適正があり、魔力の流れを感じられる人なら誰でも使える。ただし譲渡する魔力量を間違えると自分が魔力枯渇に陥ってしまう欠点がある。


「これで森を抜けることができたけど…五人同時に魔法を行使するのはしんどいわね。生憎と馬車がないためここからは歩いて街に戻りましょう」

「分かりました。道中の護衛は私達が優先的に行います」

「それよりも一体どんな魔法をお使いになられたのですか?」

「えぇと…魔法については詮索しないでもらえると助かります」

「…分かりました」


 てっきり「私は貴族です!歩いて帰るなんてあり得ません」って言われるかと思ったけど、すんなりと了承してくれた。貴族にしては物分かりがよすぎて、この世界の貴族はこういう人ばかりなのかと思ってしまう。

 安全を考慮して前衛が私、中衛はクリスタ様とイース、そして後衛は青薔薇の月といった編成で移動する。道中魔物が出現したが危なげなく退治して休憩をはさみつつ2時間ほどで街に着いた。…だけどここからまだやることがある。私と青薔薇の月はギルドに報告を行うためクリスタ様達とはここで別れることになる。


「では、私達はギルドに行ってくるけど、二人はこの街に来たのは初めて?」

「あら?てっきりユイさんは私をご存知だと思っていましたが、違っていたのですね。私はこの街を治める領主の娘です」

「…」


 開いた口が塞がらないとはまさにこの事か…。まさか領主の娘とは驚きだ!この街、いやこの世界に来たばかりで領主の名前なんて知らなかったのだから仕方ない。


「青薔薇の月のお二人方も街までの護衛感謝申し上げます。今回の件が片付きましたら、お屋敷にて改めてお礼を申し上げます。衛兵にはユイさん達が来たら通す様に伝えておきますので」

「私達もむしろ助けられた側ですので、お礼はユイさんにだけしてください。有り難いお誘いですが、辞退させて頂きたいと思います」

「…ユイちゃんのおかげ。…お礼は不要です」

「そうですか…。残念ではありますがわかりました。ただギルド経由でお二方に護衛料をお支払い致しますので、そちらはお受け取り下さい」

「ありがとうございます」


 青薔薇の月は辞退したけど私も辞退したいなぁ…。


「ユイさんにも改めてお礼を申し上げます。謝礼は()()()でさせて頂きます」

「お礼は何度もきいたよ。依頼が片付いたらお邪魔させてもらうよ…。それじゃあギルドに報告しに行ってくる」

「はい、お待ちしております。今回の一件はお父様にも報告しておきます。イース、警備隊の方に馬車の手配を頼めるかしら?」

「畏まりました。ユイ様並びに青薔薇の月のお二人方、この度は本当にありがとうございました」


 ――逃がしませんという圧に負け、招待を了承してしまった。イースはお礼を言い残し詰め所の方に行ってしまった。先の事を未来の私に頼むとして、今は考えないようにする。…決して現実逃避ではない。

 今日はウルフ討伐をするだけのつもりが、まさかこんな事態が起きるとは予想外だったな…。早いとこ終わらせてゆっくりしたいなぁと思いながら、薄暗くなる景色を背後に青薔薇の月と共にギルドへ向かう足を速める。



次話は閑話になります。

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