閑話<ディーン視点>
≪ディーン視点≫
俺の名前はディーン。ホビッグの街の警備隊として働き始めて今年で五年目になる。
元々は別の街で働いていたが、結婚をして将来の事を二人で考えた結果、この街に移り住むことを決意した。しかし引っ越している最中に、魔物の襲撃があった。乗り合い馬車で移動していたが、冒険者を護衛として雇っていた。だがこちら側が不利そうであったため、多少腕に覚えがあった俺は助太刀として参戦し、何とか撃退には成功したが、その際頬に傷を負ってしまった…。
職場での俺は無愛想で目つきが悪いと言われ怖がられるのだが、この傷のせいで後輩からは余計に恐れられ、さらには同僚や先輩からも怖がられる始末だ。俺はただ、表情にでないだけで怖い人間でなない。この傷は妻から、名誉の負傷だと感謝されているから気にはしていないが…。
今日はたまたま同僚が体調を崩したので、その代わりとして門番の仕事をするように言われた。しかし、門番の仕事は嫌いだ。なぜなら、俺としてはただ普通に話しかけているのに、勝手に怖がられるのだ。同僚からはお前の見た目のおかげで暴れるやつや、文句を言う輩が少ないから助かっていると言われるが、こちとらまったく嬉しくない。
そんな憂鬱な気分になりながらも真面目に仕事をしていたら、見慣れない少女が一人でやって来た。もしかして迷子かと思ったが、きちんと門に並んでいたからそれはないか…。とりあえずは普段通り門番としての仕事を全うする。
「次の人!見かけない顔だな。身分証を提示してもらおうか」
「すみません。田舎の村から来たため身分証をもっていません。私の住んでいた村から、この街が一番近かったため冒険者ギルドで身分証を発行するためにきました」
「む。女の一人旅は危険だが、無事に街につけたようだな。身分証がないと通行料で銅貨5枚の支払いが必要だ。それと、犯罪者でないかを調べさせてもらうから、詰め所まで同行をしてもらう」
やはり迷子ではなかったが、女性の一人旅とは危険なことをする。つい注意をしてしまった。だが、この少女は俺の顔を見ても普通に話をしてきた。年頃の少女なら怖がり泣きそうなものだが。…自分で言うと余計に悲しくなってくるな。
そんな取り留めのないことを考えながら詰め所へと向かう。少女がついてきているのかを確認しながら進み、詰め所に入ってから少女に声をかける。
「では、そのイスに座ってもらって、目の前の水晶に手を触れてくれ。犯罪者である場合は赤くなり、そうでない場合は何も変化はしない」
そういうと少女は少し躊躇いながら水晶に触れた。
「ふむ、変化なしか」
もしかして犯罪者なのかと疑ったが、水晶は変化しなかった。心なしか少女はほっとしたように思えたが、きっと気のせいだろう。犯罪者でない確認はできたので手続きをすすめる。
「犯罪者でない確認は済んだ。君は身分証をもっていないので、ここで通行料の銅貨5枚を支払ってもらう必要がある。今すぐ払えるか?」
少女はポーチしかもっておらず、一人でいるため田舎から出稼ぎにきたのだろうかと思った。そういう人は大抵お金を持っていない可能性があった。もし払えなければ、街に入ることは許されない。少女を街の外で置き去りにするのは酷なことだが、決まりなので俺にはどうすることもできない。
だが、あっさりとお金を出してきた。
「あいにく銅貨を持ち合わせていないため、銀貨での支払いでお願いします」
「うむ。わかった。両替をするのでしばし待て」
そう言い残し奥の扉に入って両替をする。銀貨をもっているあたり、出稼ぎの件はほぼなくなったが、何とも不思議な少女だ。一人考えながら少女の待っている場所へと戻る。
「待たせたな。これがお釣りの銅貨5枚だ。ようこそ、ホビッグへ、君を歓迎する」
これで手続きが終わったので門番の仕事に戻ろうと思ったが、余計な事を口走ってしまう。
「君は冒険者ギルドで身分証を発行するのだったな?もし身分証を発行する前にこの街を出て、また入ろうとすると再び通行料で銅貨5枚を支払ってもらう必要があるので注意するように」
少女は少し驚いたように見えたが、その後微笑みかけながら俺に話かけてきた。
「あのー、二つほどお聞きしたいことがあるのですが、お時間大丈夫ですか?」
「うむ。手短であるならば問題ない。ただし、答えられる事柄しか答えることはできない」
「わかりました。お時間はそんなにかからないと思います。まず一つ目ですが、田舎から来たため今いる国の名前がわからないので、教えていただけますか?」
「…ここ、ホビッグはスドモニス王国にある街だ」
積極的に話しかけてくるとは珍しい。大半は会話を早く終わらせようとする人ばかりなので、少し嬉しく思いながらも決して表情には出ないよう心がける。いざ少女の問いに答えようとしたが、拍子抜けするほど当たり前のことを聞かれてしまったので、つい間があいてしまった。田舎から来たのならば知らないのも仕方ないのか、などと勘ぐってしまう。そんな俺の心境を知るよしもない少女は次の質問を問いかけてきた。
「スドモニス王国…ありがとうございます。では二つ目の質問ですが、冒険者ギルドの場所を教えてほしいです」
「初めてくるならわからないのも仕方ないことか。雑な説明になってしまうが、冒険者ギルドはこの詰め所を出て真っすぐ行くと、左側に大きな建物が見えてくる。それが冒険者ギルドだ」
「真っすぐいって…左ですね。早速行ってみます!」
「ああ、気を付けていけよ。今更だが俺の名前はディーンだ。もし何か困ったことが起きたら、詰め所までくるといい。誰かしらは滞在しているから、力を貸してくれるはずだ」
「はい!ディーンさんご親切にしていただき助かりました。私はユイって言います。もし何か困り事があったら相談させてもらいます」
どんな事を聞かれるのかと身構えたが、結局二つ目の質問もこの街の住人なら誰でも知っていることだったのですぐに答えられた。
いつもは俺から名を言うことはほとんどない――たいていのやつは俺の事を怖がるのでさっさと街に入るか、さっさと会話を終わらせる――のだが何故か自分から少女に名乗ってしまった。むこうにとっては一門番である俺の事など気にとめることはないだろうと思ったが、少女はユイと名乗り返し、元気よく挨拶をして詰め所から出て行った。
今日はたまたま門番の仕事をしていただけで、ユイとはもう会うことはないと思うが、とても礼儀正しく可愛らしい少女だったな。…それに俺の事を怖がらずに話してくれたのは嬉しかった。もしまた会えたらもう少し話をしてみたいものだ…。
それから次に生まれてくる子どもは彼女のように可愛い娘であってほしいとこっそり願った。
ディーンはこの後も再登場予定です。
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