2.門番と街
浮遊感がおさまると、辺り一面草原の場所に立っていた。私は転生したんだ!!やったー!とつい舞い上がってしまった。もし人に見られていたら恥ずかしさのあまり、地面を転げまわることになっただろう…。
視線をあげると、太陽はまだ真上には到達していないからまだ午前中かな?グズグズしていると時間を無駄にしてしまうから早速行動に移そう。
正面には薄っすらと建物が見えるから、きっとあれがアロエルの言っていた街だろう。街へ向かいながら現状確認をしていこう。歩きながら危ないかもしれないけど、じっとしていると魔物がいつ現れるか分からないから許してほしい。
まず服装は麻の長ズボンに長袖シャツ。この格好でちょうどいい気温なので、季節は春か秋くらいかな。体型はぱっと見たかんじ、歩いていても違和感はない。靴は革靴なので歩きやすい。
続いて腰にはポーチがあって中身は小さめの水筒、携帯食料、見たことない硬貨が入っている巾着袋、最後にナイフが入っている。水筒の重量からして空ではないが、何が入っているかは後で確かよう。硬貨は銀色で、数えると10枚あるから餞別でくれた銀貨10枚だろう。ナイフは護身用かな?一通り確認を終える頃、街がすぐそこまで見えてきた。
街はぐるっと大きな壁で囲われている。この高さだと大型巨人にも負けない程の高さに感じる。入口前の門では、街に入る手続きのために人や馬車が並んでいる。私もそれに倣って並ぶことにした。体感で30分程待つと、ようやく私の番がやってきた。
「次の人!見かけない顔だな。身分証を提示してもらおうか」
「すみません。田舎の村から来たため身分証をもっていません。私の住んでいた村から、この街が一番近かったため冒険者ギルドで身分証を発行するためにきました」
「む。女の一人旅は危険だが、無事に街につけたようだな。身分証がないと通行料で銅貨5枚の支払いが必要だ。それと、犯罪者でないかを調べさせてもらうから、詰め所まで同行してもらう」
並んでいる間に考えた設定だけど、何とか怪しまれずにすんだみたい。「私転生者です」なんて馬鹿正直に言えないからね。
門番の人は頬に傷があり強面だが、女性のことを心配してくれているあたり、優しい人に思える。
見た目は30代前半くらいで、私の身長が160㎝くらいあるから、少し見上げるくらいの彼は170㎝くらいといったところかな。
もし夜道にでも声をかけられたら、思わず逃げてしまいそうになる程迫力がある…。
彼とは別にもう一人立っているが、その人は手に槍を携えておりTHE門番といった佇まいをして周囲を警戒している。
彼はもう一人の門番と代わり詰め所の方に歩いていったので、慌てて彼についていく。
中は手狭そうで四角い机とイスが二脚あって、机の上には蒼い水晶が置いてある。
「では、そのイスに座ってもらって、目の前の水晶に手を触れてくれ。犯罪者である場合は赤くなり、そうでない場合は何も変化はしない」
さすが異世界。水晶に手を触れるだけで犯罪者か判別するとは便利だなぁ。
彼に言われた通り水晶に触れてみる。生前では法に触れることはしていなかった――まして異世界にきたばかりで、犯罪者どころか犯罪に手を染めていないため、水晶は変化しないはず。
「ふむ、変化なしか」
そういわれ少しほっとした。犯罪をしていないといっても異世界人の私が触れると何かしらのイレギュラーが起こるかと思ったけど、気にしすぎだったみたい。これで街に入る手続きは終了かな?
「犯罪者でない確認は済んだ。君は身分証をもっていないので、ここで通行料の銅貨5枚を支払ってもらう必要がある。今すぐ払えるか?」
私はポーチから銀貨1枚を取り出し彼に手渡した。
「あいにく銅貨を持ち合わせていないため、銀貨での支払いでお願いします」
「うむ。わかった。両替をするのでしばし待て」
そう言い残すと彼は入ってきた扉とは別の、奥にあった扉から出て行ってしまった。ぽつんと取り残された私は特にすることがなかったので、その場でじっと待つことにしたが、すぐに戻ってきた。
「待たせたな。これがお釣りの銅貨5枚だ。ようこそホビッグへ、君を歓迎する」
定型文のような言葉を言われたが、これでようやく街に入れる。お釣りはポーチの中へしまっておく。この街はホビッグという名前なのか。どの国の街だろう?
まだ時刻は昼過ぎのはずだから、冒険者ギルドで身分証を発行してその後に宿屋を探す方向で行こう。
今日の予定を考えていたら彼に声をかけられた。
「君は冒険者ギルドで身分証を発行するのだったな?もし身分証を発行する前にこの街を出て、また入ろうとすると再び通行料で銅貨5枚を支払ってもらう必要があるので注意するように」
彼の顔は無表情だから分かりにくいけど、ツンデレさんなのかな?
優しそうな彼に気になっていたことを聞いてみよう。
「あのー、二つお聞きしたいことがあるのですが、お時間大丈夫ですか?」
「うむ。手短であるならば問題ない。それから、答えられる事柄しか答えることはできない」
「わかりました。お時間はそんなにかからないと思います。まず一つ目ですが、田舎から来たため今いる国の名前がわからないので、教えていただけますか?」
「…ここ、ホビッグはスドモニス王国にある街だ」
変な間があったように思えたけど――もしかして国の名前くらいは誰もが知っていることだった?
スドモニス王国――アロエルの話では西側にある国だったはず。当面はこの街に滞在をして情報収集と冒険者としてお金を稼いで、別の国や街に訪れるのもありかもしれない。何だかわくわくしてきた!
もし治安が悪い街だったら、他の街への移動も視野にいれて情報収集を行おう。でも並んでいる時に見た感じ、門番は真面目そうに仕事をしているし、門の前で暴れるような人はいなかったから、大丈夫だとは思う。
「スドモニス王国…ありがとうございます。では二つ目の質問ですが、冒険者ギルドの場所を教えてほしいです」
「初めてきた街なら知らないのも仕方ないことか。雑な説明になってしまうが、冒険者ギルドはこの詰め所を出て真っすぐ大通りを行くと、左側に大きな建物が見えてくる。それが冒険者ギルドだ」
「真っすぐいって…左ですね。早速行ってみます!」
「ああ、気を付けていけよ。今更だが俺の名前はディーンだ。もし何か困ったことが起きたら、詰め所までくるといい。誰かしらは滞在しているから、力を貸してくれるはずだ」
「はい!ディーンさんご親切にしていただき助かりました。私はユイって言います。もし何か困り事があったら立ち寄らせてもらいます」
やっぱり、彼――ディーンさんは親切な人だね。人を見かけで判断してはいけないね。これで知りたいことは判明したから、ディーンさんに別れを告げ、目指すは冒険者ギルド!!
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