美人の熱弁
「どうしたのよ、これからなんでしょ?」
「そうなんだけどさ、屋上での話。此方なにか言いたそうにしてただろ? なにかなって思ってさ」
「それで? あんたは本当にもう」
此方はやれやれと顔を振る。すみませんねほんと。
「別にそういうことならわざわざ言わなくてもいいのかな、と思ったんだけどさ」
「いったいなんだったんだ?」
俺は察しが悪いところがあるからな、その点此方は気が利くからぜひ教えて欲しい。
「あのね、同行する魔卿騎士団の人って女なんでしょ? 自分の彼氏が訳アリだとしても他の女とクラブ行くなんていい気がしないでしょ。このこと香織はまだ知らないんだし」
「あ」
そういうことか。悪魔や未来のことで頭がいっぱいでそこまで気が回らなかった。
「いやでも! 浮気じゃない! これは必要なことで」
「分かってる、分かってるわよ。だから騒ぐことじゃないかもしれないけど、ほら、気持ちはさ? たとえば、あんたは訳があって香織が他の男と二人で遊びに行くって聞いてどう思うの?」
「え……嫌かも」
香織が他の男とデートなんて想像したこともない。それがもしスパイ活動だとしても嫌だ、想像するだけでこんな気分になるんだから実際に起こったら……やばいな、吐くかもしれん。
「ほら」
此方の言い分にぐうの音も出ない。
「香織に、連絡してるの?」
ほんと、彼女の言う通りだ。
この作戦は今後を左右するかもしれない、引いては人類の命運を決めかねない重要な作戦だ。だとしても香織の気持ちを無視していいわけがない。
誰よりも大切な人は、他ならぬ彼女なんだから。
「此方、ありがとう。すげー助かった」
「まったく、付き合い長いのに恋愛下手よね、聖治は」
「忘れてたわけじゃないんだが、良くなかったな」
反省だ。
それで此方に改めてお礼を言おうとするのだが、ふと教室から視線を感じて振り返る。
「ねえ、あれってさ」「あの人って確か沙城さんと付き合ってたよね?」「えー、やばくない?」
決して大きな声ではないのだが不思議とその話だけが大きく聞こえる。それにからかうような嫌な感じもあった。
それは此方の耳にも入っているはずで。俺は彼女を見るが此方は涼しげな顔をしていた。
「気にしないで」
彼女はそう言うがそんなはずがない。なにより俺が嫌っていうか……悲しいだろ。
きっと此方はクラスにあまり馴染めていない。というか、ハブられてるんだと思う。そんなの気にするだろ、此方は俺の大事な友達で仲間だぞ。
「もう、なんて顔してんの」
思っているのが表に出ていたのか此方に言われてしまう。
此方は優しい目で俺を見てくれていたが、そこで一つ息を吐いた。
「ほら、私ってこういう見た目でしょ? 冷たく見えるっていうか、性格もそんな慣れ合う感じじゃないし。だから、仕方がないっていうか」
「んなわけねえだろ!」
つい大声が出てしまった。それで廊下だけでなく教室中がしんと静まり返る。全員が何事かと見てくるし。ああくそ! でもいい、我慢出来るか。
「仕方がないことなんてあるか。此方はなにも悪くない。むしろ完璧だろ!? それが分からん連中がいることにびっくりしてるよ俺は!」
「完璧って」
「そりゃそうだろ!? クールビューティーな見た目に赤くて長い髪はさらさらでかっこいいしまるで一輪のバラのようだ。ツンとした雰囲気もバラの棘みたいでそれも似合ってる。それに輝いていて完成されてる。宝石みたいだよ。ルビーで作ったバラの彫刻だ。芸術だよ!」
「いや、あの――」
「待ってくれ、まだ俺のターンだ。おーい、誰かほんとの詩人を呼んでくれ! 俺じゃ彼女の素晴らしさを言葉に出来ない。いいか? アイドルグループは何人も集まって活動してるが此方は今一人だ? なぜだ? 一人で足りてるからだ! お前はセンターで飾りなんていらない、一人で十分魅力的だ。ちょっと笑ってみろよ、いいから」
「え」
「ほら、笑ってみろって」
「は、はは……」
「ほら最高だ、普段笑わないからギャップがあってより際立ってる。親に無理矢理七五三の衣装された五歳児みたいなやつれた表情が最高にいけてる。想像してみろ、ギリシャ神話のアフロディーテとローマ神話のヴィーナスと日本神話の木花咲耶姫と映画マスクに出演してた頃のキャメロン・ディアスを足して割った姿を。考えたか? お前はその百倍綺麗だ! 自信を持っていい! それに、なにが最高かって本当は優しいところだ。普段はツンとした雰囲気してるが周りをよく見てるし気を配ってくれてる。こんなに綺麗で美しくて優しい性格してるとか完成されてるだろ! 宝石はただ輝いている、誰のことも気にしないで。周りにどう思われようが輝いているものだ、だから此方こそ気にしなくていい。分かってるやつにはちゃんと伝わってる。お前は最高だってな!」
言い切った。俺の熱弁に教室の連中はもちろんのこと隣の教室にいる人まで出てきて黙っている。
それで当の此方と言えば、ジト目で俺を見つめていた。
「……終わった?」
「終わった。半分な。それか三分の一かもしれん」
言いたいことは言った。悔いはない。
「ちなみに聞くんだけど、あんた香織にもこんな風に言ってるの?」
「いや、今が初めてだ」
「なんでよ!」
そんなこと言われても。
「そこは香織に言うんじゃないの!?」
「する機会がなかったんだ! 仕方がないだろ!」
「機会がないとしないわけ?」
「でも……いきなり言ってもキモイだろ……」
「それは……でも香織なら喜びそうよ」
「それは言えてるな」
確かに。なんだかんだ香織は喜ぶだろうけど。
「とりあえず、私に言うのはもう止めて。恥ずかしくて死ぬかと思った」
「ごめん」
でも伝えたかったんだ! 分かってくれよ。
「てか、よくあれだけべらべらと言葉が出てくるわね。国語の成績良かったっけ?」
「一応4だ」
「4の喋り方じゃないでしょ。はあ、まったくもう」
これから教室に戻るのが憂鬱なのかため息が聞こえる。逆に追い込んでしまっただろうか? あれ、もしかして俺オウンゴール?
「でも、ありがとうね」
「え」
不安になるが、そこで此方が言ってくれた。
「気持ちは、嬉しかったから」
笑っている。小さく。それは無理矢理作ったぎこちないものじゃなくて、温かさを感じる小さな花のようだった。
「でも! もう絶対しないでね? 私以外の人にも。いい!?」
「はい! わっかりましたあああ!」
「ほんとに分かってんのあんた……?」
が、すぐに鬼のような顔で詰め寄ってきたので敬礼して応えた。此方は呆れているようだがそれでも最後はやれやれと許してくれた。
「ほら、行ってらっしゃい。予定あるんでしょ? それとあんたが今一番話さないといけないのは私じゃないでしょ?」
「おう。行ってくる。ありがとうな」
「もう。いいわよ」
それで俺は廊下を歩き此方は教室へ戻っていく。すると背後から声が聞こえてきた。
「安神さんあんな風に喋るんだね」「今まで話す機会なかったから知らなかったな」
「いや、あれは」
「さっきのあれすごかったね、私びっくりしちゃった」
「それは私もそう」
教室に戻った此方にクラスメイトが話しかけているようだ。なんだか仲良くなれそうな流れで口元が緩む。俺は振り返っていた顔を正面に戻し今度こそ走っていった。
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