忘れられたかもしれないヒロイン
それから力也と別れ俺は駅前の歩道を歩いている。時刻はすっかり夜であり車のライトが行き来する。いやー、盛り上がったな。ていうか力也ボーリングもダーツも上手すぎだろ!? 見かけによらないというか意外とテクいことしやがって。ちなみに力也とは賭けをしていないのでノーダメージだ。
だからというわけではないのだが、俺が駅前を未だに歩いているのは買い物があったからだ。ぶら下げた紙袋に目を移す。
中に入っているのはゼリーの盛り合わせだ。フルーツが入ったけっこういいやつ。
頭に浮かぶのは、香織のことだ。
まあ、彼女には寂しい思いさせてるからさ。せめてもの差し入れと思って。ゼリーなら食べやすいだろうし、そう思って買っていた。
ぶっちゃけ俺も食ってみたいんだよな~、香織にお願いして俺も食べさせてくれないかな? だって八個入りで2500円のゼリーだぜ? 気になるだろ、フルーツはどれもブランド品らしいし。これ見よがしにレシート入れとくか。
(気に入ってくれるといいな)
想像の中で笑う彼女に俺の口元が持ち上がる。
すると電話が掛かってきた。誰だろうかと見てみれば、
「もしもし? 実はちょうど考えていたところなんだよ。体調はどうなんだ、香織?」
それは俺の恋人、沙城香織だ。話をすれば長くなるが未来から付き合いのある女性でその頃からの恋人だ。長い桃色の髪が特徴の可愛らしい人。俺が最も辛い時ずっと隣にいてくれた、そういうのもあって彼女はいろいろな意味で特別なんだ。
『私、メリーさん』
だというのにこいつは一言目で否定するんじゃねえよ!
「香織さんですよね? 健康だけでなく正気まで失ったんですか?」
『私は正気のあるメリーさん』
「聞いたことねえよ正気のあるメリーさんとか。てか普段は正気じゃないみたいな言い方止めろ」
『私は正気だし普段からも正気であるということを保証するコンプラにも配慮できるメリーさん』
「めんどくせえメリーさんだな」
『今、あなたの後ろのいるの』
「マジ?」
『マジ』
マジかよ。
「じゃあ俺がどこにいるか当ててみろよ」
『あれでしょ? オゾン層の下でしょ?』
「お前……天才か?」
『私、メリーさん。今オゾン層の下にいるの』
「範囲広すぎだろ」
『普通連絡するよね?』
「はっはっはっは!」
そういうことかよ!
「え、寂しかったの?」
『寂しいとかじゃないけどさ、普通彼女が病気なら心配の連絡するのが彼氏の義務なんじゃないの? 私のこと心配じゃないの? 飽きちゃったの?』
ようするに、連絡出来るのになんで連絡しないのと痺れを切らして電話してきたわけね。
「そうじゃないって、心配し過ぎだよ」
『じゃあ今までなにしてたのさ』
「え? 力也とラウンドニャンで遊んでた」
『はあ~~~~~~~~!』
クソでかため息止めろよ、俺だって忘れてたわけじゃねえよ。




