迎えた日常、けれど元通りではないヒビ
「おい! 今日終わったらラウンドニャン行こうぜ、そこで俺の活躍を取り戻す!」
ラウンドニャンとはボウリングやカラオケ、ゲーセンからダーツまで一通り遊べるアミューズメント施設だ。
「そこで取り戻してどうしたいんだお前は」
「いいんだよ! お前は行かねえのかよ」
近寄るなよ、顔が近いぞ。
「おいおい、授業の体育で目立てなかったからって放課後にラウンドニャンに行くかだって? 安直なんだよお前は。そんなので遊んで満たせる自尊心になんの意味がある? 行くに決まってるだろ!」
「うぇーい!」
こうして俺たちの放課後ラウンドニャン行きが決定した。俺だって活躍しちゃうぞ!
「おい、ボーリングでジュース賭けようぜ? 十点差で一本な?」
「いいのか星都、これから先一か月は飲めなくなるぜ?」
「やってみろよぉおお~~~!」
「ふぉおお~~! ふぉお~!」
星都は蟷螂拳の構え、俺は鶴のポーズで威嚇している。
「はは、二人ともやる気満々なんだな」
「力也、これはただの遊びではない、戦いなんだ。いや、もしかしたら本当に血が流れるかもしれん」
「おう」
「そんな……」
俺は星都と睨み合う、その隣では力也が苦笑いを浮かべていた。
「そういうことなら此方達も誘ってみるか」
とまあそういうことなで、せっかくなら此方達もいた方がいいだろう。俺はスマホを開き連絡してみる。此方ってボーリングうまいんだろうか。日向ちゃんはなんか得意そう。
「でもそうなると沙城さんにはちょっと申し訳ないね」
そこで力也が残念そうに言ってきた。俺は彼女の席に目を移す。
そこには、誰も座っていなかった。
すでに着替えは終わり教室には男子だけでなく女子の姿もある。休憩中の賑やかな雰囲気。ただしその席は静かで、ぽつんと空席が置いてある。
その席を、俺は見つめる。
「風邪だろ? どうなんだ?」
そこで星都が言ってきた。星都の言う通り香織は風邪を引いていた。それでここ数日休んでいる。連絡は取っているのだが学校で会えないのは寂しいかな。
「んー、そこまで酷くはないがけっこうキツイらしい」
「どっちなんだそれは」
「本人は元気そうなんだが体力的な問題じゃないかな」
文章でやり取りしてる分には大丈夫そうなんだけど、実際には休んでいるし熱はあるみたい。まああと数日もすればさすがに治るだろう。
「まあ、心配だけど、待ってればいずれ治るさ。喪に伏すほどじゃないって」
むしろ自分のせいで俺たちが自粛する方が香織は気にすると思う。
「俺たちが遊んで楽しかった話でもすれば嫉妬して早く起き上がるよ。お、此方からだ。一緒に来るってよ」
「そういうことなら僕も行くんだな」
「っしゃー、俺の活躍見とけよ見とけよ~」
「はいはい、そうやって見栄張れるのも今だけだもんな」
「んだとてめえええ~~~~!」
「ふぉおお~~! ふぉおお~~!」
「あははは……」
それで休憩時間は終わり次の授業が始まっていった。未だに笑顔が余韻を引いている。風邪をひいてしまった香織は残念だがこればかりは本人の体調管理と運が悪かったと諦めてもらおうしかない。
それで授業が始まり黒板の前では先生が教科書を読み上げそれをみんなは黙々とノートに写す。聞こえるのはチョークと筆記具の音だけ。静かで、穏やかなな時間が過ぎていく。
平和で、いつもの日常。争いのない風景につい口元が浮かび上がる。友達がいて学校が終われば遊びに行く約束もある。最高の学校生活だ。
「……?」
そこで、ふと気づく。
俺は窓から空を見上げていた。さきほどと同じ澄んだ青空に薄い雲。なにもないそこに、なにかあるんじゃないかと思い、無意識に、引きつけられる。
瞬間、ハッとなった。
(あれは!?)
空に動く影がある。小さいけれど、間違いない。
(まさか!?)
心が鉄になった気がした。
(悪――、!?)
しかし、よく見てみればそれは一羽の鳥だった。何事もないかのように消えていく。
(鳥……? か)
なんで見間違えたのか。そもそも、動く影を見ただけでどうしてこんなにも警戒してしまうのか。
胸の中に生まれた緊張が、ゆっくりと溶けていく。が、溶けた鉄は消えることなく、むしろ黒く変色して溜まり続けた。
「はあ……はあ……」
呼吸が荒い。心がなんだかぐちゃぐちゃで、落ち着かない。
「ん? 剣島君、どうかしたかい?」
先生が呼ぶ。それでみんなの視線が俺に集まった。
俺は、泣いていた。
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