制圧開始
モニカは室内へと入っていく。それを見るや兵士たちは慌てて部屋から逃げ出していく。
この部屋にはモニカ一人と悪魔が五体。5対1の不利な勝負。
しかし、この少女は気にしない。
「うちの社員に怪我させてんじゃねえよ、手当て要るだろうが」
社員思いなのか単に経費を案じているのか、優しさにしては分かりづら過ぎるセリフを吐きつつ、彼女は歩みを前へ進ませる。
「灰にしてやるよ、ゴミらしくな」
緑の瞳が、大きく見開かれた。
叫び声を上げ悪魔が襲い掛かる。しかしモニカも動いていた。
「金よ、敵を殲滅せよ(マネー・イズ・パワー)!」
叫びの後、彼女の手元に突如として現れた武器。それはガトリングだった。
複数の銃身を束ね連射性と火力を合わせた近代兵器の怪物。モニカは瞬時にガトリング銃を構え銃口を悪魔に向ける。回り出す銃身は死へのカウントダウンだ。
ニヤリと、誰もが認める美少女はその可愛らしい顔を大きく歪めて笑う。複数の銃身は回転を始め、死へのカウントダウンを開始する。
蹂躙だ、すべてを溶かす。
ガトリングから発射される弾幕がバラバラに引き裂いていく。空薬莢を廊下に放り捨て鼓膜を破るほどの大音響。命中するなり肉片へと変えていき、5体もいた悪魔は溶けるように飛び散っていった。
銃身がカラカラと音を立てながらゆっくり回り、残されたのは床に散らばった薬莢灰と化し消えていく悪魔の亡骸だ。
一瞬で悪魔を殲滅したモニカはガトリングを消すとニッと笑い腕を組む。
「フン、爽快だぜ」
まさに圧勝。なおかつこの爽快感は癖になる。
「ちょっと社長ぉおお!」
が、それもここまでのようだ。
「なにやってるんですかあんもの取り出して、費用が嵩むじゃないですか!」
部屋にずかずか入り込んだアメリアに怒鳴られる。
「お前なあ……これくらいいいだろ、細かいんだよ」
「いいことないんです! もっと安く倒せる方法あったでしょう? ただでさえ社長はトリガーハッピーなんだから止めてくださいよ、うちは余裕がないんですからッ」
「でもだな」
「でもじゃないんです!」
金の話になるとアメリアは妥協がない。というか鬼だ、詰め方が本職のヤクザみたいな時がある。
「分かった、分かったよ、ったく。お前金のことになると強気だよな」
「経理も担当してるんですから当然です、それと社長が金銭感覚に疎いんです」
「はいはい」
戦場で剛腕を振るうモニカもこうなっては敵わない。
「ですが」
「?」
モニカはげっそりとした顔で彼女を見上げるが、そこにいるアメリアは小さく笑っていた。
「社員は無傷とはいきませんでしたが社長のおかげで最悪は逃れました。お見事でした、社長」
小さく会釈する。アメリアからのささやかな、けれど素直なお礼。それに少しだけ面食らった後、モニカはニヤリと笑って腕を組む。
「ハン。敬われるのは当然だ、私は社長だからな。それに社員を守るのも当然だ、あいつらがいないと会社が回らないからな。はっはっはっは!」
満面の笑みで高笑いするその姿はお転婆な少女そのものでアメリアは小さく笑いながら見つめていた。
「さて」
無駄話はそこでお終い、二人は本題に目を向ける。
「調べろ」
隊員たちが入室し物色していく。床に描かれた光のない魔法陣、その上に倒れている男。他に手がかりはないかと部屋中を漁っていく。
「倒れているのが召喚師ですよね、でもこれじゃ話は聞けませんね」
急いでやって来たが犯人である悪魔召喚師はすでに死亡、まさに死人に口なしだ。
「ボス」
そこで遺体を調べていた隊員が声を掛けてくる。二人は近づくと隊員はうつ伏せになっていた男をひっくり返した。それを見たアメリアの表情が歪む。
「これ、全身の血が抜かれてますよね?」
その顔は乾燥したきゅうりのように肉は萎み骨格が浮き出ている。手もミイラのように細くなっている。
「人間の血は悪魔に売れるんだよ」
「え、そうなんですか?」
アメリアとは対照的にモニカは顔色一つ変えず犯人を見下ろしている。
「人間の血は悪魔にとって貴金属みたいなもので価値が高い。だから儀式の時よく用いられる」
「お金目当てだったんですね」
「そんなのに釣られるのはせいぜいが下級悪魔だがな。その悪魔すらちゃんと躾が出来てないと術師が血を狙われるってわけだ」
「ふーん」
悪魔のうんちくに納得しながらアメリアはタブレットを取り出し資料を見る。それと魔法陣を見比べた。
「なるほど。確かにところどころスペルが間違ってますね。悪魔を召喚できたものの失敗、そのまま悪魔に襲われ血を抜かれた、ってとこですか」
間抜けな話ではある。とはいえ強欲に目がくらんだ愚者の末路としては妥当なのかもしれない。
「お前、本当にそう思うか?」
「へ?」
が、そこへモニカが釘を指す。
「違うんですか?」
「いいか、よく覚えとけ。この世界にはいろいろな組織や派閥があるが悪魔召喚師なんてその中で最も秘密主義者の集まりだ。こんな風にバレること自体が異常なんだよ」
アメリアとしては悪魔召喚の事故だと思っていたがモニカは違う。これは綿密に細工された事件だと考えている。
「ですが、ここに来るまでいくつものトラップがあったと報告がありましたし、この部屋だって異相空間に隠されていたものですよ? 扉の魔術防壁もちゃんとしてましたし」
「でも現に見つかってるだろ。むしろ隠すことに関しては抜かりがない。そんなやつがなぜ儀式のスペルミスなんてするんだ、おかしいだろ」
「それはそうですが、では狙いは見せるため? だとしたらなぜ……」
モニカの言う通りホテルに施された魔術施工は完璧だ、普通の者なら気づくことなく知識のある者でもたどり着けない。それほど高度なものだった。それが最も大事な場面でしくじるとは考えづらい。
「意図的な儀式失敗、それに隠すつもりで隠し切れていないこのやり口……。うーん、あいつに似てるんだけどな」
「誰です? あいつって」
この事件のような回りくどいやり口は覚えがある。走査線上に浮かび上がる人物の名は――
「神野秀明。秩序の指輪、新アイビス派のクズだ。有名であることがネックな悪魔召喚師でありながら優秀過ぎてたびたび名前を聞く。分かってないだけで今までのドでかい事件にいくつも絡んでいるって話だ。そんなやつが動いているなら」




