繋がる点と点と点、そして物語は本編へ――
「時に、あの噂本当なの? 団長が不在って話」
「おそらく本当でしょう。魔卿騎士団の分裂は確認済みですし、活動も縮小傾向です」
「それがこの時期に来日、か」
魔卿騎士団が強大なのは事実だがそれも昔になりつつある。それが団長の不在。これにより内部で分裂が起きまともな活動がとれていない。このまま自然消滅もあり得るのでは? という見方が出るほどだ。
その渦中である人物の来日、ますます狙いが分からない。
「それとですが」
「次は?」
これだけでも相当厄介だが事件はこれに留まらない。
これもその一つ。なによりすでに起きているという点では緊急性は以前の二つに比べて高い。
牧野は三つ目の資料を渡す。それを手に取るなり賢条はようやくかと「ふむ」と口にした。
その資料文面には、『時間異常』と記されていた。
「以前観測された時間異常についての続報です。調査の結果、やはり過去に干渉するものでした」
「だろうな」
これは前から観測されていた事件だ。時間の流れに不自然な歪みを感知、それについて調査していたがこれで時間が現代から未来ではなく、現代から過去へと戻ったことが判明したわけだ。
「過去への干渉、ずいぶん危険なことをしてくれる。次元変異差は?」
「誤差範囲内です。大規模な過去改変には至っていません」
「今年も優勝は巨人だったか」
軽いジョークを挟みつつも目は笑っていない。過去への干渉は本来の歴史を改変する。結果世界を変えてしまう危険なものだ。
「とはいえだ、過去を変える力は世界そのものを変える危険性が高い。早急に対応する必要がある」
「はい。規模からおそらく個人。それも出力からして質量移動はほぼなし。波形パターンから三回行われていますね。それでなお誤差に収まっているのは試行段階でしょうか」
「困ったものだ。そう簡単に時間操作なんてして世界線をいじって欲しくないんだけどね。場所の特定は?」
「出来てます」
「よし」
ようやく見えた好転の兆しに賢条の声にも張りが出る。
「すぐに職員を派遣して対象の特定急いで。四回目はなしだ」
「はい。すでに準備完了しています。この後すぐに出します」
「うむ」
ある場所で観測された時間異常。そこでいったいなにが行われたのか。それをまだ特戦は知らない。
その裏で行われていた、壮絶な戦いを。
「最後に一点、最近悪魔召喚師の活動が活発になっている件について」
資料は以上だ。これに関しては口頭のみ。
「神野か?」
「その影響なのかはまだ判明していませんが、未確定ながらどうも支援者がいるそうです」
「支援者?」
また嫌な話が飛び込んできた。
「悪魔召喚を行うにしても場所と物がいる。それらを用意するのは簡単じゃない。そこに支援とは。見返りになにを欲しているのか。金持ちの考えることは分からんね」
「はい。金銭面での援助を行っているそうで。最近の活動はそれが理由にあるようです。まったくもってふざけた話です。知らなければ善良な市民でしたでしょうに。悪意というのはこうも簡単に伝染するものかと嫌になります」
悪魔召喚師の支援者。厄介だ。金銭に余裕があるなら社会的地位が高い人物のはず。それがバックにいると動きづらい。政治的なしがらみは御免だというのに。
「もしくは別の狙いがあるのか……」
「別、ですか?」
賢条は考える。その中には身内が敵になる可能性もあり賢条の表情は一層険しい。
「特定出来そうか?」
「かなり巧妙な手口ですが、接触する機会を捉えられれば」
「ふむ」
牧野からの報告はこれでお終い。それを示すように頭を下げる。これらを踏まえてどうするか、それは室長である賢条の仕事であり腕の見せ所。とはいえこれだけの難事件をいっぺんにというのは頭が痛くなる話だ。
牧野もそう思っており机に並ばれた資料に冷たい目を向ける。
「懸念事項が山積してますね。どれも無視出来ませんが。よりにもよってこれらが重なるとは」
本当に。ただでさえ忙しいのにこれほどの大事件の連続。せめて一度ずつ来て欲しい。
「牧野」
「はい」
それは単なるぼやきであった。少しだけ空気を軽くするだけの。しかし賢条は依然気を張り言葉に緩みはない。
「大事なのは、違和感だ」
机に両膝を立て顎を両手に乗せる。
「僕はね、これはむしろ必然だと感じているよ。勘だけど」
「勘、ですか」
その目は並べられたファイルを静かに見下ろしている。そこには一見繋がりはない、点と点だ。しかし、そこになにか、この男は別のものを見ている。
「これほどの異常、それが重なることになにか理由があるとは思わないかい? その糸は隠れていて今は見えないが」
神野とモニカの来日。さらには国内で発生した時間異常。これらは一見なんの関係性も見えてこない。
しかし、無関係な事件がこうも時間的近似に起きるものなのか。
その微かな違和感を、この男は見逃さない。
「裏では繋がっている、と。時期の重なりは確かにタイミングが良すぎますが」
「違和感とは積み上げてきた判断基準に差異が生まれた時に生じる。もちろんただの勘違いの場合もある。が、僕にはこれがすべて偶然とは思えなくてね」
賢条は直感していた。そして牧野もこの男が判断を誤ることはないと知っている。
これらは関係している。その可能性に引き締めていた心を牧野はさらに固くする。
「分かりました、その線も含めて調査していきます。では、私はこれで」
「ん」
もう一度会釈して牧野は部屋から出て行った。ここは賢条だけになる。
日本に蔓延る異常事件の数々。これらを未然に解決する。それを失敗した時の被害は計り知れない。
そしてそれは確かに近づいていた。
これから遠くない未来で起きる人類規模の大事件。そこに特戦も関わることになる。滅びの運命を超えるため、その一歩を踏み出していた。
「それにしても」
賢条はソファを回し背後の窓を見上げた。
思案するのはさきほどのこと。その一つを取り上げて、これらの繋がりを思い描く。まるで、星と星を結びつけ星座を描くように。
ここに、点と点が繋がろうとしていた。
「誰なんだろうねえ、『三回もタイムリープ』するような問題人物は」
彼のデスクには『時間異常・意識転移について』と書かれたファイルが置かれていた。
特異戦力対策室。それは日本政府が誇る対異常組織。この国が古来より紡いできた厄払いの末裔。その技術と経験は他国のそれと比べても頭一つ抜けている。
ゆえに彼らは把握していた。
この国で、タイムリープをが行われたことを。
賢条の狙いは当たっていた。神野とモニカ、時間異常事件はすべて繋がっている。魔卿騎士団団長不在、これに起因した問題は波及して様々な形になって現れる。そして、その影響はある一つのことに集まろうとしていた。
ある、一人の少年に。
これはその始まり。時間異常を排除するために彼らは動く。
彼らは今日も暗躍する。この国と人々の安全を守るため。
まだ見ぬ明日に、賢条の瞳が眼鏡の奥で鋭く光っていた。




