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【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
エピローグ
78/496

どうしたエルター、きてみろ。女のくせに男をその気にさせることも出来んのか?

「お前の能力は確かに有用だが勘違いしているな。お前は自分が思っているよりも遙かに弱い」

「血を流しておいてよくほざく」

「事実だ。お前は弱者だ、根底からな。いいかエルター、戦闘とはすなわち殺し合い。相手の命を先に取ってこそ勝利へ繋がる。だというのに、お前の目的は動く的に当てるだけ。それで満足するような小心者だ。必中ではなく必殺であるべきだったな。確かなことが二つある。お前の矢が俺に当たったこと、そして未だに俺が生きている事実だ。ついでに未来についても語ってやる」


 魔来名は抜き身の天黒魔を納刀し居合いの構えを取った。


「お前の敗北、俺の勝利だ」


 おまけに不敵な笑みも浮かべて。勝算があるのだろうか。俺にはまったく分からないがもしかして攻略法でも浮かんだのか? でも、必中である以上防ぐ方法なんてないはずだ。


「口だけは立派なようだ。その口もすぐに黙ることになる」

「ならば証明してやろう。お前の理論が如何に脆弱か、文字通り切り捨ててやる」


 互いににらみ合う。エルターもすぐに矢を出すことはなかった。警戒しているのか、それとも魔来名の真意を読もうとしているのかじっと見つめるだけだ。


「どうしたエルター、きてみろ。女のくせに男をその気にさせることも出来んのか?」

「お前はいちいち勘に障る男だ」


 が、沈黙をこの男は許さない。すぐさま挑発し誘ってくる。

 見ていても始まらない。エルターは矢を発射した。打つからには必中、殺す気で放たれた矢が一条の光となって魔来名に迫る。

 夜の闇を疾走する光。

 その矢に向かって魔来名の手が動く。

 しかしその手は空手。柄を握っておらず矢を迎え撃つのは手刀だった。それを行うと同時に前に踏み込み矢の軌道から体を反らす。

 矢と手が交わる。二つは重なり、直後、矢は後方へと進んでいった。


「なに?」


 追撃しない。矢が戻る気配はなくそのままだ。でもなぜ?

 エルターは弓を出現させた。自身の身長ほどもある巨大な弓だ。弦を引くと光矢がセットされておりそれはさきほどまでのよりも三倍は大きい。弓はなくてもいいと思っていたがある方が強くなるのか。

 さらにエルターは弓を出すのと同時に単独で矢を二つ発射していた。迫る二つの光を魔来名は手刀で応じ矢が通り過ぎていく。最後にエルターの弓直々に矢が発射される。

 それは今までのが棒だとするなら管と呼べるほどの大きさとなって発射されていた。

 魔来名は二本に手を振るった後の体勢から胸に向かってくる矢に向かって踏み込んだ。避けるなら横のはずだが魔来名は前に出た。

 そして迫る矢に向かって、顔を近づけのだ。それは当たるか当たらないかのぎりぎり。

 当たればただでは済まない。顔面が潰れるか頭ごと吹き飛ばされるか。そんな脅威が横顔すれすれを通っていく。まさに神業。それにより魔来名の頬にはかすり傷がつき矢はそのまま素通りしていった。

 今のは俺でも分かった。

 当たりにいったんだ、自分から!


「なんだと!?」

「まじかよ」


 すごい。凄すぎだ!

 エルターの技は絶対命中。防ぐこともかわすこともできない必中だ。

 だが逆を言えば当たることしか決まっていない。前提条件は当たること。

 魔来名はそれを逆手に取り、わざとかすり傷になるようにしたんだ。それならダメージはわずかだし因果律にも反していない。

 でも、それを考えついたからって実行できるか? まずできない。

 物をかわすには反射神経が必要だ。だがこれは自ら当たりに行かなくちゃならない。反射神経では駄目だ。そうするためには絶対的に軌道を読む動体視力と避けようとする反射神経を押さえ込まなければならない。避けようとする本能を意識的に制御しなければならないんだ。これが難しい。

 打ち所が悪ければ即死という攻撃。痛みや死ぬかもしれないという恐怖を強い意志で封じ込めかすり傷で終わらせる。

 それを、この男は平然とやってのけた。

 すごいと思ったがもうそれを通り越して異常だ。

 死ぬのが怖くないのか? それとも自信があったのか? 

 自分なら出来ると。それか、それだけの強い意志が。


「これが答えだエルター」


 そう言って魔来名は片手を開閉していた。よく見れば手にもかすり傷がいくつもついている。矢の攻撃をわざと受けていたのか。

 すごい。いろいろすごいがなにより凄いのは洞察力と身体能力だけで絶対命中に対抗していることだ。普通じゃない。

 絶対命中を、異能ではなく生身で攻略するなんて。


「お前の脆弱性、お前の欠陥だ。お前の戦略は最初から瓦解している」


 こんなにもすごいやつが、俺の敵……。

 俺は、こいつを越えなければならないのか。


「ふ、ふふふ」


 魔来名からの批判にエルターはしかし笑っていた。自信満々の魔来名をおかしそうに笑う。


「曲芸紛いで私の攻撃を軽傷に抑えたのはさすがだと言いたいけど、けれどしょせんその程度ね。これで私を封じたつもりとは片腹痛いわ」

「そう思うならさっさと証明してみたらどうだ」


 魔来名は相変わらずの自信だ。エルターも追いつめられたような気配はなくまだまだ底が見えない。


「魔卿騎士団幹部。どれほどのものかと思ってみたがこの程度の集まりとは期待はずれもいいとこだ。そんなのだから団長一人がいなくなっただけで瀕死にもなる。そして、その器を作るべく始めたスパーダにもこの様だ。魔卿騎士団などもはや不要だろう、大人しく滅びたらどうだ」

「そう」


 魔来名の台詞にエルターの表情がみるみる冷めていくのが分かる。声からも激情のようなものは消えていた。


「お前自身に興味はなかったがその体は重要だ。よって温情を掛けていた私の方が浅はかだったわね」


 冷たい。そしてどこか諦めたような心情。


「中身がどうであれ、お前のようなものを団長にはさせられない」


 今まで殺気だと思っていたものですら過剰反応だった。炎のような戦意から氷のような殺意へと切り替わる。


「ふん。早くしろ、時間の無駄だ」


 そう言う魔来名だが感じているはずだ、エルターの気配が変わったことを。

 エルターは弓を構えた。鋭い眼光が魔来名をとらえるがその弦には矢がセットされていなかった。耳よりも後ろに引くもののそれでは意味がないはず。

 しかし、矢はすでにセットされていた。


「なんだあれは!?」


 見たこともない光景に思わず声が出る。

 エルターの後方、その頭上に巨大な黒い穴が空いていた。穴が空くと同時に強風が巻き起こり落ち葉や石ころなどが吸い込まれていく。俺も地面に手をつき必死に抵抗した。気を抜けば俺まであの穴に吸い込まれそうだ。

 吸引される風の中なんとか穴の向こう側を見てみる。黒い穴にはいくつもの光が見えた。まるで夜空の星のような光の数々。

 いや、比喩なんかじゃない。星そのものだ!

 あの穴は宇宙空間に繋がっているんだ。それだけじゃない。宇宙になにかある。

 それは光で編まれていく一つの柱。周囲に煌めく星光を集めて像を成し、宇宙の彼方から破滅の光がこちらを伺っていた。


「天より裁きよ来たれ断罪の(ジャッジメント・デスペナルティ)


 あんなものが打ち込まれたらどうしようもない。避ける避けないとかじゃない、爆発に巻き込まれ殺される。この町一帯ただじゃ済まないぞ!


「それがお前の全力か」


 そう言って魔来名は居合いの構えを取った。今までにない脅威を前にしても怯えはない。


「こい、次の一撃で終わりにしよう」


 弓と抜刀による早抜き勝負。一つは空間転移による宇宙からの戦略級の爆撃。

 片や刀による斬撃。両者の距離は数メートルは離れている。どう考えても魔来名が不利だ。もし失敗すれば俺も魔来名も終わり。

 緊張が極限まで張りつめる。魔来名のつま先がじりりと前へと滑り、エルターの目つきが鋭さを増す。

 どちらが勝つにしても、次の勝負で決まる。

 エルターが弦から指を離した。さらに周囲に浮かべた矢も一斉に発射する。いくつもの矢と矢と表すには巨大過ぎる杭。宇宙に輝くミサイルは加速すらなく瞬時に襲いかかってきた。

 迫るいくつもの脅威。いくつもの光。

 それらを正面から捉えて魔来名も動いた。刀身が鞘から出るなり充満する死の気配を漂わせ。瞬間この場は死の呪いに支配される。

 彼は、言った。


「刹那斬り」


 瞬間、勝負は終わっていた。

 なにが起こったのかは分からない。ただ分かるのは魔来名の姿は直後消え、気づいた時にはエルターの背後に立っていたことだ。そこで彼は天黒魔を納刀していく。その最中、首を失ったエルターの遺体が地面に倒れていった。

 勝負は、決していた。

 放たれた矢は標的を失ったように明後日の方向へと消えていき、宇宙に空いていた穴は閉じて光の柱がこちらへ来ることはなかった。

 魔来名は姿勢を元に戻した。そこには最初に負っていた傷以外はない。あの瞬時の勝負を完全に制していたんだ。


「術師が死ねば因果律の操作も解けるか。つくづく詰めが甘かったな」


 魔来名の言うとおり矢が追撃してくることはなかった。あのまま消えていったのはそういうことなんだろう。

 そこでエルターの遺体が消えていき代わりに光の玉が浮かび上がっていた。それは魔来名に吸い込まれるように近づいていく。

 魔来名はそれを片手で捕まえた。それは散っていきながら魔来名の体に溶けていく。


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