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【WEB版】セブンスソード  作者: 奏 せいや
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やってください

 そうか、この時代では敗北濃厚、人類絶滅は時間の問題かもしれない。

 でも、過去に戻ってこうなる前に手を打てれば変えられる。未来を救える。


「俺たちはパーシヴァルを回収していたからな。それを使えば世界がこんな状態になる前に変えることができる。それで俺たちは必死にパーシヴァルを調べた。この世界に残された唯一の希望だったからな。調査は極秘で一部の人間だけで行われた。それでいろいろ調べていくと問題があることに気づいたんだ」

「問題?」

「パーシヴァルによる世界の回帰はお前の方が詳しいだろうが、まずどんな世界になるのかランダムな要素があるっていうことだ」

「それは知っている。でも、そうだとしても今を放置しておくよりもよっぽど可能性があるはずだ」


 星都の言うことは分かるが躊躇っている場合じゃない。不確定ではあるが今よりはいいはずだ。


「問題はもう一つある」

「もう一つ?」


 いったいなんだろうか。


「パーシヴァルの再始動。それには限度があってな、どれだけ頑張ってもやり直せるのは三日前か四日前までなんだ」

「四日?」


 知らなかった。俺が巻き戻しているのは二日前ばかりだったからな。限度があるなんて考えたこともなかった。


「仮にここで俺がパーシヴァルを使って四日前に戻っても人類が敗北した歴史は変わらない。さらにもう一度使いたくても充填期間が必要ですぐには使えない。連続で使用して過去に戻ることもできないってことだ」

「そんな」


 それじゃあ、パーシヴァルを使っても意味がないじゃないか。ボスキャラを前にセーブしたところでHPが瀕死なら繰り返しても同じだ。


「パーシヴァルの再始動は使用者の四日前が限度。だからこの時代の人間が使っても四日前にしか戻れない。でもだ。聖治、お前は違う」


 言われてハッとする。

 パーシヴァルの四日前は使用者にとっての四日前であり現実の時間軸とは違うってことか。


「今目が覚めたばかりのお前ならあの日に戻れるんだ。西暦2019年、六月一四日。俺たちがセブンスソードで戦っていたあの日にな」


 星都の目に熱が戻る。その視線に並々ならぬ思いを感じた。


「俺たちはそのためにお前を蘇らせることにした。沙城が言っていたのを覚えているか? 俺たちはホムンクルスだって話。スパーダは俺たちの魂と一体化したものだからな。あとはその器となる肉体を用意しスパーダを移してやれば元通り。そうなるはずだったんだが、ここでも問題が起きた」

「多難だったわけだな。でも俺はこうして生きている。解決できたんだろ?」


 星都は答えなかった。その代わりにフッと小さく笑ってみせた。


「俺たちはなんとか器となるホムンクルスを作ることに成功したんだがなにせ初めてだったからな、容量が足りなくてスパーダが入らなかったんだ。ホムンクルスっていうのがもともとそういうものらしくてな、セブンスソードだって俺たちを殺し合わせていたのは一つのホムンクルスに七本を入れることが出来なかったからで、殺し合わせ相手から奪うという手段が必要だったからみたいだ。俺たちが作ったホムンクルスはその一本すら入らない低スペックだったわけ。だから仕方がなく俺たちはパーシヴァルとお前の魂を引き剥がした」

「それでパーシヴァルが出せなかったのか」


 出せないというよりもそもそもないという方が正確か。ないのなら出しようがない。


「パーシヴァルがなくなったことでお前の魂の容量は下がりホムンクルスに入れることが可能になった。それでいざ実行に移したんだがお前はなかなか目覚めなくてな。だから俺たちは待つことにしたんだ。こればかりはどうしようもなかったからな」

「そうだったのか」


 やることは全部やった。あとは待つだけというのは気が気ではなかったはずだ。もしこのまま目が覚めなかったら? 目が覚めるとしても人類が全滅した後だったら? 自分で言うのもあれだが目が覚めれて本当によかった。


「でも駄目だ、パーシヴァルの再始動を使うためには他に二本のスパーダが必要なんだ」

「その点も大丈夫だ。俺の撃鉄をお前に譲る。もう一本も用意がある」

「そうか」

「お前が目覚めたのは反応から分かっていたんだが駆けつける前に人狩りに見つけられちまってな。どこからか情報が漏れてたみたいだ。悪かったな、ダミーに警備を割いて信憑性を持たせてたんだが裏目に出たみたいだわ」

「仕方がないさ。それにもう済んだ話だ。こうして無事合流できたんだからいいって」

「細かいことをいちいち気にしないで助かるよ」

「そんなこと気にしている状況じゃないだろ。それで? 俺はこうして目覚めた。ならあとはパーシヴァルを使うだけだ。もたもたしてたら日が過ぎる。パーシヴァルはどこにあるんだ?」

「パーシヴァルは別の場所に保管してあるよ。いざここが襲われた時のためにな。回収には現在日向が向かってるよ」

「日向ちゃんが!?」


 そうか、この時代でも彼女は生きているのか。よかった。嬉しさに胸をなで下ろす。


「会ったらきっと驚くぞ」

「ぜひ驚きたいな」


 十六年後の彼女か。いったいどうなっているんだろうな。


「今後だがとりあえず今は日向待ちだ。到着次第お前にはパーシヴァルを使ってもらう。いいな?」

「分かってる。むしろ、使ってもいいんだな? ほかのみんなは」

「心配ねえよ。みんな承知の上だ」

「そうか」


 今も熱心に働いている彼ら彼女らだがそういうことなら遠慮はいらないな。


「とりあえずお前用の着替えがあるからそれを着るといい。いつまでもその格好じゃあれだろ」

「そりゃ助かる」   


 俺たちは立ち上がり案内されたは別室へと入っていった。どうも倉庫みたいで棚にはなにやら備品が置いてある。そこに俺の服もあり一人で着替える。

 その最中、俺はさきほどのやり取りを思い出していた。


「過去に戻る、か」


 知っていた。俺の未来がどういうものか。曖昧な記憶の中から鮮明になったそれが浮き上がり現実となって俺に突きつける。

 世界をなんとかしなければならない。世界を変えなければならない。それが俺のためでもあり彼女のためだった。

 思えば、俺の旅はそこから始まったんだ。彼女を救うためにフードを被った男から剣を授かった。この剣で世界を変えるのだと。

 でも、それからの記憶は相変わらず不明瞭だ。その後なにがあって俺と香織は過去に戻ることになったんだ? ロストスパーダを探しに来たのは分かるがどうやって? 

 分からない。いくら考えても思い出せない。まるで記憶の一部をむしり取られているようだ。

 とはいえ俺がすべきことは変わらない。日向ちゃんが持って帰ってくるパーシヴァルを使って過去に戻るんだ、それがどんな世界かは分からないがやるしかない。


「やるしかない、んだよな……?」


 ただ、ちょっとだけ引っかかることがあった。

 星都はああ言っていたが、俺が変えてしまってもいいのだろうか。今までは香織のためということもあって気にすることもなかったが今回は違う。俺だけじゃない、多くの人を巻き込む再始動だ。さきほど広場を見たがそこには家族だって少なくなかった。一六年も前に遡って過去を変えれば大きく人生が変わる人だっているはずだし、もしかしたら生まれてこなかった人だって出てくるかもしれない。

 それでも、いいんだよな?

 コンコン。

 そこで扉をノックする音が聞こえた。


「はーい」


 返事をすると扉が開けられ一人の女性が入ってきた。戦闘服に身を包んでいたから大人の人かと思ったがよくよく見れば俺と同い年くらいの女の子だった。


「失礼します。服ですがサイズ合ってましたか?」

「はい、大丈夫です」

「それはよかったです。のどとかは渇いていませんか? ここに来るまで大変だったんですよね?」

「ええ、まあ。あの!」

「はい?」


 俺は気になっていたことを彼女に聞いてみた。


「俺がこれからなにをするかは、知っているんですか?」


 そう聞くと彼女は顔を引き締めた。


「はい、知っています」

「本当に、いいんですね?」


 それは彼女の人生をも変えてしまうということだ。巻き戻され変えられる。彼女が今までどんな人生を送ってきたかは分からないが、そこにあった様々な出会いや思い出を否定されるんだ。


「俺がパーシヴァルを使えば多くの人の人生が変えられる。それによって全く違う人生になる人だっているかもしれない。今ある幸せだってなくなるかも。外には子供だっていただろう。もしかしたら生まれないかもしれないんだ。そのことに責任を感じるんだ」


 これはそれだけ重要なことだ。悪魔による侵攻は絶望的だ、だからといって俺一人の行動ですべてを否定してもいいのか。


「やってください」


 俺の問いに、彼女は即答だった。躊躇いもなくそう言った。


「それでいいんです。そうしなければ私たちはここで終わってしまう。なにより、こんな人生を変えられるならその方がいいです」


 彼女は扉を開けると俺に振り返った。


「来てください」


 言われ俺も外に出る。

 貯水用の地下ダムであるここは現在避難所兼司令部として使われている。特にここの広場ではいくつものブルーシートが敷かれ一世帯が暮らしていた。


「ここにはいろいろな人が暮らしています。遠い場所から逃げてきた人、親とはぐれた人、悪魔と戦い傷を負った人。ここにいて失っていない人なんて一人もいません。私も、家族を失いました」

「…………」


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