五刀流の悪魔
「こいつ!」
現れた二本目のシンクロス、二つの欠けた十字架がぶつかり合う。しかし俺の刀身が七色に輝いているのに対し悪魔のはまったく違うものだった。
漆黒だ。なんてどす黒い。同じ十字架の剣なのに印象がまるで違う。なんだこの黒は、まるですべてを飲み込むような。
俺はシンクロスの能力を発動しようとするが悪魔も周囲に他のスパーダを集めていく。
シンクロスが白に輝く。身体を強化し斬りかかり、対して悪魔もミリオットに持ち替え斬り付ける。互いに強化した一撃はただの剣撃ではなく超人の攻撃だ、すさまじい轟音と衝撃波が屋上を吹き抜ける。
俺たちは斬り合うも悪魔には他のスパーダもある。それを操り飛び道具のように襲ってきた。それをミリオットの早撃ちで撃ち落とした後リボルバーのようにくるくる回し再度構える。だがスパーダは何度も浮かび上がり攻撃してくる。これじゃキリがない!
「させるかコラァ!」
それらをピンク色のバリアが守ってくれた。
「香織!」
「やって聖治君! 私がサポートするから!」
ありがとう。俺は一人じゃない。必ずこいつは倒す!
浮遊するスパーダは香織や他のみんなが引きつけてくれている。おかげで俺は正面のこいつに集中できる!
悪魔は次々とスパーダを持ち替えていき俺もシンクロスの色を変えていく。エンデュラスの高速戦を行い悪魔のカリギュラをミリオットで強化した体で突っ切っていく。悪魔もミリオットに切り替え再度斬り合った。
強い。みんなが他のスパーダを引きつけているのに攻めきれない!
「やるなぁ!」
スパーダを五本持ちさらに遠隔操作のレベルも高い。俺だってみんなより上手い自信はあるがこいつはさらに上かもしれない。
悪魔はグランに変え高重力にしてきた。一気に体に掛かる重圧が増える。体が押しつぶされそうだ。だが俺もグランに変え無効化する。悪魔はグランの大剣を振りかぶり一気に攻撃してきた。
躱せる! 攻撃を屈んで躱し悪魔は勢い余ってグランを振り抜きそのまま体を回し俺に背を向けてきた。
隙ありだ! 俺はグランを頭上に構え踏み込む。今ならいける!
瞬間だった。悪魔はグランをミリオットに切り替えており、脇下から通した剣先が俺を狙っていた。
「なに?」
左腕を上げ逆手に持ったミリオットを脇下から通した背面撃ち。
「!?」
そこからミリオットの光線が放たれた!
「がああ!」
それをもろにくらってしまう。天志もミリオットの強化も間に合わず俺は床を転がっていく。
「聖治君!」
「ぐ、うう」
誘ったのか? グランの大振りでわざと隙を見せ本命はミリオットの背面撃ちかッ。
衝撃と胸が焼かれる痛みに体が動かない。天志に切り替えすぐに治療していくがまだ立ち上がれない。
悪魔はミリオットをくるくる回しながらゆっくりと姿勢を正していく。その周囲には他のスパーダが帰還し回っていった。
なんなんだ、こいつはいったい……?
悪魔が香織を見る。それで歩みを再開させた。
「香織、逃げろ!」
理由が分からないが目的は香織だ、なんとしても離さないと!
他のみんなも悪魔に襲い掛かるがその度に浮遊するスパーダに阻まれる。悪魔はさらに香織に近づいていく。だけど香織は動かなかった。
「香織!」
「でも!」
香織は気丈に悪魔を見つめスパーダを構えている。みんなを置いて一人逃げることが出来ないんだ。
彼女だって未来を知っている。人類がどんな目に遭うのか。それを変えるためにここに来た。彼女だってスパーダだ。
香織は悪魔と対峙する。まるで大人と子供の身長差だが香織は一歩も引かず睨み上げる。
「はああ!」
気炎と共に悪魔の巨体目掛け天志を突く。対して悪魔は手の平を向けてきた。天志は悪魔の手を貫通していく。
「よし」
はじめて悪魔に攻撃が当たった。俺は喜ぶが、しかし悪魔は気にすることなく手を伸ばし、香織の手を掴んできた。
「そんな!」
悪魔は香織を引きずりながら来た場所へと戻っていく。
「待て! 香織をどうするつもりだ!」
叫んでも止まらない。香織も必死に抵抗しているがびくともしない。悪魔は元の場所に戻るとエンデュラスに持ち替え空に向け持ち上げた。それで周囲の空間が歪んでいく。ここに現れた時みたいにどこかへ消えるつもりか。
悪魔はカリギュラを発動し周囲に赤いオーラを発生させる。これではみんなが動けない。
「天志!」
シンクロスがピンク色に発光する。俺は前方にバリアを展開しカリギュラの中を突き進んだ。
「香織!」
「聖治君!」
手を伸ばし、香織も俺に手を伸ばす。
ここまできたんだ、せっかくここまで。必死に頑張って、ようやく手に入れた未来なんだ。
それを、失ってたまるか!
「香織ぃいいい!」
俺は走るが、悪魔の周囲が歪んでいく。まばゆい光が一帯を覆っていく。
「聖治君、ごめん……」
まるで泣きそうな顔でそう言って、悪魔と香織は消えていった。
「香織……?」
さきほどまで二人が立っていた場所に着く。けれどもう遅い。そこにはなにもない。
香織は、連れ去られた。俺の、目の前で。
「うああああ!」
くそ、くそ、くそおおおお!
「香織、そんな。なんだよあいつは!? どこから現れた? どうして香織を!」
「落ち着け聖治」
星都に肩を掴まれる。
「お前がパニクってどうするんだよ。焦るな、今のお前は一人じゃないんだろ?」
言われてハッとする。すぐに周りを見渡す。力也や日向ちゃん、此方が俺を見ていた。
星都の言うとおりだ、俺だけ焦ってみんなに心配かけてどうする。
「聖治くん、大丈夫だよ。僕たちがいるよ」
「そうだよ聖治さん。もう一人だった時とは違うんだから、私たちがついてるよ」
「やられたのは悔しいけどね。気持ちはあんたと同じよ、聖治」
「みんな」
みんなの顔を見て荒れていた気持ちが落ち着いていく。
「ごめん。ありがとう」
みんなの励ましに感謝する。ほんと、みんないいやつらだよ。星都の言う通り俺がパニくってても仕方がない。むしろ恥ずかしいくらいだ。しっかりしないと、香織のために。
「それで、今のやつはいったい」
落ち着いたところでもう一度聞くがさきほどのあいつはなんだったんだ。
「今までの悪魔とは明らかに違う。スパーダを持っていたこともそうだしどうして香織を連れていったんだ? いや、そんなことよりもすぐに連れ戻さないと!」
あいつの目的がなにかなんて知ったことじゃない。なにかされる前に助けないと。
「そうだな、謎は多い。分からないことは今までも散々あったが最後にとびっきりのが来たな」
「どうにかして追いかけることはできないのか?」
あいつがどこに行ったのか、それどころかどこから来たのかも分からない。なにか手がかりはないのか。
「それなんだがな、来るときもしやと思ったんだが」
「なんだよ」
星都はなにか心当たりがあるのか? そういえばあいつが現れる前から気付いていたようだった。
「ああ、最後のを見て確信した。あいつは未来から来た。しかも、こいつを使ってな」
「エンデュラス」
星都は片手で持ったエンデュラスを小さく持ち上げる。
「それは俺も見てたから分かるが」
「あいつがエンデュラスを使って未来に行ったっていうなら俺にも出来るってことだ。お前にもな」
「そうか! ん? でも今のお前じゃ」
「一本しかないから加速しかできない、だろ?」
シンクロスにはエンデュラスの力も備わっている。あいつが光帝剣の力で来たっていうなら俺にもできるのは道理だが、星都は一本しかスパーダを持っていない。タイムスリップなんて上位能力発動できないはずだが。
「俺もそう思ってた。だけど俺はあいつの襲来を感じることができた。俺には一本以上の能力が備わってるってことだ」
確かに。そういうことになるな。
「たぶんだが、お前のスパーダと連動、連結してるんだろうな。お前のシンクロスはエンデュラスが宿っている。ということはエンデュラスは七本の状態ってことだ。そしてお前のエンデュラスと俺のエンデュラスがリンクし俺も七本の状態になっているらしい。俺だけじゃない、他のみんなもたぶんそうだぜ」
「同じスパーダ同士繋がってるってことか?」
まさかそんなことになっていたなんて。でもそれってめちゃくちゃ強いんじゃないか?
「沙城が天志で俺たち全員を守ってくれただろ? あいつも七本の状態だったからだろうな。それで話を戻すが、この力を使えばやつが来た時間を逆探できる。追跡できるってことさ」
「よし!」
そういうことなら話は早い。俺たちもエンデュラスを使ってあいつのいる時間軸に行くだけだ。そこで香織を連れ戻す。
「行こう。あいつがいる未来に」
俺たちは悪魔が来た場所に集まった。星都がエンデュラスを金属探知みたいに空間に振っている。
「時間の穴っていうのかな、抜け道の痕跡がまだあるな」
「ちなみにいつか分かるの?」
此方に聞かれ星都はさらに集中している。
「えーと、だな。この感じだと……」
星都が振り向いた。
「2059年。今から四十年後だな」
「59年? ずいぶん先だな。それにその年代だと」
「すでに人類は滅びた後だろうな」
どんな目的で香織をさらったのか知らないが絶対に取り戻す。
「ちっ、このままだと痕跡が消えちまう」
「それならすぐに行こう。みんなも大丈夫か?」
「うん、大丈夫!」
「早く行こうよ、もたもたしてたら香織さん大変だし」
「ええ」
「よし」
星都に向き直る。日向ちゃんの言うとおりもたもたなんてしてられない。
「星都、頼む」
「おう」
星都がエンデュラスを持ち上げる。すると周囲が光に包まれていった。
「いくぞ!」
直後、俺たちは光の流れに飲み込まれた。
セブンスソードは終わった。けれど俺たちの未来はまだ変わっていない。
待ってろよ、香織。すぐに助けに行くからな!




