セブンスソード終了
セブンスソードが終わり二週間が経っていた。
頭上に広がる青い空。なんてことのないその光景に少しだけ感動している。通学路はいつもと変わらず誰かの悲鳴や銃声が聞こえることもない。それはまだこの世界が平和な証拠だ。その大事さを俺は知っている。
守りたい、この日常を。そのためにはこれから起こる悪魔の侵攻と戦わないと。それで勝つことが出来れば人類は救われる。俺たちの知っている悲惨な未来を変えられるんだ。最初はロストスパーダを持って帰ることが目的だったけどここでならみんなと一緒に戦える。
一人じゃない。そのことに俺は心強さとやる気を滾らせていた。
「よし!」
通学路を一人歩く。セブンスソードが終わってから俺たちは何事もなく過ごしている。ほんと、セブンスソードなんてなかったんじゃないかと思えるくらいに平穏だ。
だけど、なぜだろうか。
ふと、この胸の内に消化しきれない思いがあるのを感じる。まだ終わっていない。まだ他にやることが残っている。そう思うのにそれがなんなのか思い出せない。
「なんでだろ……」
この気持ちは一体どこから来るのか。
もしかして、俺はまだ忘れている大切な記憶があるのだろうか?
それで学校の昼休み、俺たちは屋上に集まっていた。これもいつもの光景で香織や星都、力也はもちろん此方や日向ちゃんもいる。俺たちは円陣を組むように座りそれぞれの弁当を広げていた。こうしたことはいつものことなので女子組は大きめのハンカチを敷いてその上に座っている。
「はい、聖治君」
「ありがとうな、いつも」
隣に座る香織から弁当を受け取る。香織からもらう弁当は毎日のちょっとした楽しみだ。
「聖治さんいいなー。香織さんからいつもお弁当作ってもらえるなんて」
「日向ちゃんだってそれ此方の作ってくれた弁当だろ?」
安神姉妹はいつも弁当持参だ。たいていは此方が作っている。
「そうだけど~、たまには香織さんのお弁当がたべたーい!」
「いつも私で悪かったわね」
「じゃあ日向ちゃん交換する? 私も此方ちゃんが作ったお弁当食べてみたかったんだよね」
「ほんと!?」
「え」
「うん、私はいいよ」
「いぇーい、やった~」
「えっと、香織? あまり期待しないでね?」
「しちゃうんだなー、これが」
「もう。期待したところで昨日の残り物よ」
「それなら私も同じだし」
「あ! ジンぶたじゃん! 香織さん昨日ジンぶただったの?」
「ジンぶた?」
「豚の生姜焼き」
あー。ジンってジンジャーのジンか。
「それだと豚キムチだとキムブタになるのか」
「え、豚キムチはBKだよ?」
え?
「なあ、それっておかしくないか? だって」
「もーう、聖治さん分かってないな~」
日向ちゃんがこれ見よがしに言ってくる。分からねえよ。どういうことだよ。
そんなこんなでみんなで食事を進めていく。みんなでわいわいと話し賑やかな輪の中にいる。それがとても楽しくてこの雰囲気にいるだけで幸せを実感していた。
食事を終える。今日も香織の弁当はおいしかった。
学校生活はほんと賑やかでいつも通り。みんな居場所に戻って来れたんだ。
「問題は」
現状の生活に支障はない。だけど俺たちには残された問題がある。
「これからどうするかだな」
俺の一言でこの場の雰囲気が引き締まる。それは俺だけじゃない、みんなが抱いている共通の問題だからだ。
「うん。問題はそこなんだよね」
香織が続けて言う。
「セブンスソードは終わった。けれどこのままじゃ間違いなく未来は現実のものとなる。それをなんとかしなくちゃ」
香織の表情も真剣だ。彼女の言葉に俺も内心で頷く。
悪魔による侵攻。それによって人類は敗北した。それをこの世界でも起こしてはならない。
「で、具体的にどうするかだ」
そこで星都が引き継ぐ。こういう時のまとめ役は星都というのがもう共通認識だな。
「未来での敗因は突如知らない勢力からの奇襲によりまともな対応が取れなかったことだ。だけど俺たちは違う。いつどこでなにが起きるのかを知っている。なら今から動ける」
星都のキリっとした話し方にみなも真剣に聞いている。星都は未来で司令官だったからな、みんなも星都を信頼してるんだろう。そんなきっちりとした上下関係はないけれどやっぱり頼りになる。
「とはいえ私たちだけで全部やるってわけにもいかないわよ?」
「ああ、仲間がいる。俺たちと接点があり目的を理解してくれる存在。分かるか?」
言われ考えてみる。俺たちと接点があって目的を理解してくれる? いたかなそんなの。そもそも俺たちが知ってる存在なんて、まさか。
「魔卿騎士団か?」
セブンスソードのいわば元凶。俺たちをこんな目に遭わせた張本人だぞ。
「そう、それだ」
「でもだ星都、魔卿騎士団なんて」
それはなんていうか、俺たちに殺し合いをさせようとしたやつらだぞ? そんなのと一緒に戦うなんて心情的に難しいというか、抵抗がある。
「お前の言うことも分かるがな、俺たちは団長となり魔卿騎士団をまとめるために作られた。それならやつらを利用できるかもしれない」
正直俺は反対だ。ただ星都として前向きに考えているようで俺も反論なり代案なり出したいが上手いのが浮かばない。
魔卿騎士団を利用する。それが実現できればそりゃ力強いけど。分裂したという魔卿騎士団、それをまとめることが出来れば悪魔に勝てるのだろうか
。
団長となって悪魔たちと戦う、か。考えたこともなかったな、そんな未来。
「ここに七本持ってるやつもいるしな」
「俺!?」
と、そこで星都が俺を見て笑ってきた。それって、俺が魔卿騎士団の団長ってことか?
「お前しかいねえだろ」
「聖治君責任重大だ?」
「止めてくれよ」
「よ! 聖治さん日本一!」
「おいおい」
いきなり、ってわけでもないがそんなこと言われても俺には無理だぞ。
「でもだぜ、実際笑い話じゃねえぞ。この中で団長候補といればお前だけだ。あとは魔来名とかな。その本人はどこか行っちまったんだからなるならお前だろうが」
「俺が……」
悪魔の侵攻に対抗するためとはいえ俺がばらばらになった魔卿騎士団を率いて戦う。そういうことなら星都の方が適任だと思うんだが、七本を持っているという事実が大きいのかな、やっぱり。
「でも団長になるってどうなるんだろうね? そこらへん説明なかったと思うけど」
「そこは俺も分からん。管理人はおそらく全員死亡しちまったし。けれど魔卿騎士団も一枚岩じゃない。いくつもの派閥があってセブンスソードを行ったのは降臨派ってとこらしい。他にも副団長派とか血統派、無所属などいるようだ。そういう奴らからすれば俺たちは面白くない。自分たちの立場が危ぶむだろうからな」
そうか、魔卿騎士団にもいろいろな考えや立場がある。そこに団長候補なんてものが生まれたらそのまま団長になりかねない。そうなれば自分たちの居場所を失う。
「え、じゃあ私たち管理人以外の魔卿騎士団からも襲われるかもしれない、てこと!?」
「なにそれ意味ないじゃーん!」
「ぼやくな、逆にチャンスでもある」




