七つの絆が作る一つの剣
兄さんはまだセブンスソードをする気なんだ。みんなを殺して、スパーダを集めて、団長を作る。それによって悪魔の侵攻に対抗するつもりだ。
兄さんがさらに近づく。
「待てよ! おい、またなにも俺に言わないつもりかよ!」
これだけ言っても兄さんは話をしようとしない。俺の言うことなんてはなから無視で自分の意見しか考えてない。
「待てよてめえ!」
それで俺はシンクロスを向けた。片手で持ち上げ切っ先を突きつける。
「あいつらは全員俺の仲間だって言ってるだろ。勝手な真似してんじゃねえ!」
ふざけんな、こんなシカトしていい加減にしろよ。
「おい」
それで俺は止めたのだが、兄さんの目が釣り上がる。
「それが兄に対する物言いか?」
「…………」
怖い。でも止めない!
俺たちは対峙する。兄さんのきつい目が俺を貫くように見つめてくる。
「俺たちは未来を変えるためにここにいる。今必要なのは仲間ではない。圧倒的な力だ。それが分れた者たちを一つに束ねる。お前らの仲良しごっこではない」
仲良しごっこ? 馬鹿にされてカチンと来る。俺たちの今までを知らないで。
「それでみんなを殺して、最後は自分も死ぬつもりかよ?」
皮肉気に、俺はこの人がしようとしていることを言ってやる。
「そうだ」
「…………」
けれど、この人にそんな皮肉は通用しなかった。
普通、こんな風に言えない。誰かのために戦って、最後に自分も死ぬなんて。それをこの人は断言する。からかう気持ちは引いていきただただすごいと思ってしまう。
だけど。
「納得できるかそんなこと! 俺たちは確かに未来を変えるためにここに来た。だけどそれはみんなが死んだ未来じゃない、みんなで生きていける未来を作るためだ!」
俺たちは生きている。生きて未来を迎えるためにここにいるんだ。
「だから言ったんだ、言っても無駄だとな」
どちらも譲らない。前の世界で兄さんは言い渋っていたがこうなると分かっていたんだ。
「お前がなにをほざこうが俺は変わらん。退け」
この人は譲らない。自分の意志を貫く、その力は誰よりも強い。
「なんでそこまで」
だっていうのに、この人はその意志を自分のためでなく俺のために使っている。こんなにも我が強い人なのに。
なんで、なんでだよ兄さん? なんであんたみたいな人が俺のためなんだよ?
「お前を守ると約束した」
「ッ」
その言葉に、悔しいのに胸が熱くなる。嬉しいと、思ってしまう。
時を超えてなお。
死を経てもなお。
あんたは、俺のためだけに――
「生きろ、聖治。代わりに俺が死ぬ」
涙が目に浮かぶ。何年前の約束だよ、それ。この人の気持ちを知れて、俺のために全力で戦っているこの人に俺は、なんて言えばいい。
「……ふざけんなよ」
嬉しいよ、そりゃ。命掛けで守ってくれているんだ。昔の約束を果たすために。
だけど、そうじゃないだろ。
「あんたが俺を守ろうとしてくれている、実際俺は何度も助けられた。それは感謝してるよ、すげー嬉しかった。でもな! 仲間は絶対にやらせない! それになあ、俺が気に入らないのは、自分も死のうとしてることだ。俺はなあ!」
感謝してるんだ、だからムカつくんだよ!
「あんたにだって生きて欲しいんだよ! 俺は大勢の人に助けられてきた。後ろにいるみんなや未来の世界の人たち。多くの犠牲や助けがあって俺は今ここにいる。みんな仲間なんだ。その中にはな、あんただっているんだよ!」
指を突きつける。俺にとって兄さんも仲間だ。その仲間が自ら死のうとしている。そんなの許せるはずないだろ。
「だから仲間も、そしてあんたも死なせない」
それが、俺の思いだ。
「ふん。たいそう立派な目標だがどうするつもりだ」
「あんたに勝つ」
「ほう」
俺は本気だ。対して兄さんは見下すかのような目だ。
「あんたを倒すためじゃない。あんたを救うために!」
「救うだと?」
「このままあんたを自由にさせてみんなが死ぬようなことがあればあんたも死んでしまう。それを止める」
目の前にいるのは俺の家族であり仲間。たとえその人が敵として現れたとしても諦めない。
「俺は決めたんだ、みんなと一緒に生き残ると。そのために守る覚悟を決めた」
今の俺は一人じゃない。
なにより、この人はその一人でも戦い続けてきた。
「たった一人で戦い続けてくれた。その旅路の終わりをこんな形で終わらせたりするものか。俺があんたを守る。それが!」
叫ぶ。この人に対する思いを乗せて。
「あんたがしてくれた恩に返せる、俺のすべてだ! 兄さん、この戦いでそれを証明する!」
「聖治! 俺たちも手を貸すぜ!」
「うん、僕たちも一緒なんだな!」
「聖治さん一人に戦わせたりしないよ」
「私も戦うわ」
「聖治君、私も」
みんなが声を掛けてくれる。
けれど、俺は片手でみなを制した。
「俺一人でやらせてくれ。この戦いは俺がしなくちゃならないんだ」
みんなの気持ちは嬉しい。だけどここは俺のわがままを通させてくれ。
この人にしてもらったこと、その思いは俺で返したい。いや、俺が返さなくちゃならないことなんだ。
俺は歩き出し兄さんの前に立つ。二人きりの戦い。これは俺と兄さんの互いに譲れないものをぶつけ合う決闘だ。
「俺は全員でも構わんぞ? 今からでも呼んでくればいい」
相変わらずの自信家だ。自分が勝つことを疑っていない。
「お前一人でなにができる。負けるだけだ」
兄さんは強い。あの管理人すら倒した男だ。本当にこの人は強い。
だけど、この人にはなくて俺にはあるものがある。
「兄さん。俺は未来の世界で五本のスパーダを託された。そしてロストスパーダを求めてこの時代に来たんだ。ロストスパーダを探す旅、それは多くの世界を巡ることだった。何度も戸惑い、何度も出会い、何度も助けられてきた。その最後は悲劇ばかりだったけど、その連なる世界の中で俺は――」
言っていて思い出す。本当にいろいろな世界があった。
香織と出会い兄さんと戦った一週目。
此方や日向ちゃんと合流し管理人と戦った二週目。
未来の世界で悪魔と戦った三週目。
兄さんと管理人が戦い、最後まで俺を守ってくれた四週目。
それは喜ばしいことばかりではなかったけれど、どれも掛け替えのないものだった。そこで得たものは全て俺の力になっている。
それこそが、
「全てのスパーダを手に入れたんだ! それは俺の中で蓄積されている。それはみなと出会ったからこその力。忘れたりしない。なくなったりしない、俺が歩いてきた旅で得た、絆の力だ!」
「なに?」
俺は手を前に出す。この胸に宿る思い、そして魂に刻まれた力を込めて、俺は念じる。
「これはその証。見せてやるよ兄さん。ここで旅路を終わらせる!」
俺たちの旅。そして俺を守るという、あんたの旅を。
来い、俺のスパーダ!
「繋がる思いが新たな世界の扉を開ける。七色の絆よ、未来に架かる虹となれ! 来い、スパーダァア!」
掲げた手の平から現れる光。それは一つではなかった。
「マジかよ!?」
「きれいなんだなぁ」
「すごい!」
「あれは」
水色、緑、白、赤、ピンク、そして紫の光の玉が飛び出し、掲げたシンクロスの周囲を回り剣と溶け合っていく。
刀身が七色に輝く。俺たちの絆が一つとなって、ここに虹となる!
「救世虹、シンクロス!」




